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緑海嘯  作者: 大石次郎
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5話 騎士級竜

魔力が燃え上がるようだぜっ! 祠から出たオレはラシュシュのナガマキはそこらに刺して、キックはパンチを素振り連打してパワーを確認した。


「激マズフルーツの効果すんげぇなっ」


(激マズフルーツではなく、竜の糧じゃ。必ずしも果実の形で顕現せんしの。まぁ、いいわい。・・ふんっ!)


何だ? 何か踏ん張った?


ラシュシュの気配の変化に違和感を感じていると、刺したナガマキの近くに透けた姿のラシュシュが現れた。


「お~。それ、どういう状態だよ?」


(分体未満で何もできんが、ワシ自身で周囲の状況を確認しやすいのじゃ。第3者がおる場面でも齟齬が減るであろうしの)


「ふぅん? まぁいいや、取り敢えずこの廃墟で使えそうな物資探すぜ!」


(ぬ??)


「お前はずっとイズモクラの中だったんだろ? 動けるようになったんだったら、どっかその辺見て回ったり、蝶々追い掛けたりしとけっ。オレは服の材料とか探す!」


宣言して、オレは廃墟をあちこち見て回った。それも高速で! 元々素早い方だが、激マズフルーツのお陰で、5倍は早いっ。こっから日が暮れるまでに、3日分の仕事してやるぜっ。


「ふぉおおーーっっ」


使えそうな素材を拾う拾う拾う拾うっ!


結果、


たぶんテント用の撥水布、たぶんカーテン? 布、肌着に使えそうな薄手の布、革材、紐、糸、針に使えそうな釘っぽい錆びた物、食器、調理具、壊れた靴7個、その他雑多な何やかんや。

薪と洗剤に灰が欲しいからそこらの枯れ木と生木と油性の実とかも。


これらを加工できるように洗ったり削ったりして、火を起こして乾かし、あとはシュバババッッと素早く加工してくっ。


(・・ココロよ、お主、べらんめえな口振りのわりにはマメじゃの)


「マメじゃないと、森で自給自足とか無理何だぜ?」


何て言いながら、加工しまくり、ちょうど日が暮れる頃、


「できたーっ!!」


撥水布の顎紐と風抜きのある帽子、袖無しの服3着、短い下穿き3着、下帯5枚、皮靴2足、皮のリュック、皮のベルト、皮のポーチ。布のマフラー、撥水布のマント、皮の敷物。

あとは清潔な水筒と食器と調理器具、油性の細木何かもいくらかストック。


(ふむ。気は済んだな? では出発を)


「いや、寝る! 今日は色々あり過ぎたっ。昼間食わされたフルーツも何か消化できてない気がするし」


オレは焚き火の近くに敷いた皮の敷物にリュックをまくらにして寝転び、マントを被った。


(竜戦士は1月2月不眠でも問題無いのじゃぞ?)


「無理無理。寝る。ラシュシュ、火の番くらいできるだろ? よろしく~」


(何と呑気なっ。同じ竜戦士でこうも違うとは・・まったく、これだから終末後に生まれた者はタルんでおるのじゃ)


ラシュシュの小言念話が延々続く中、俺は簡単に眠りに落ちていった。


不思議だ。腹が、ぼうっと熱い。フルーツのせいだな。

アマヒコの夢でも見たかったが、やたら深い森の中の沢を挟んで、子供のオレと透けた幼いラシュシュで、対岸にいる子供の花を一輪持った耳長女とじっと見詰め合う、気まずい夢をずっと見せられて、明け方起きたら変な寝汗をかきまくりだった。


透けたラシュシュはチラっとこちらを見るだけで何も言わず、黙って念力? で薪を操って火にくべていた。


「・・だる」


会ったら殺すつもりだが、こういう夢はシラケる。あんな泥棒女の内心? とか、知らねっ。



──────



ラシュシュが探知してた、目当ての生活コミュニティはイズモクラの森から離れたオレの知らないコミュニティだった。


街道って程じゃないが、物資輸送隊が通る一定間隔で魔除けの石像何かが置かれたルートからも遠く、たぶんロクに他のコミュニティと交易してない。


さらに奇妙なのはこのコミュニティの周辺には魔除けが無く、代わりに強烈な竜の気配と今ならわかる臭いがした。


オレは既に抜いてるナガマキを持って、風避け程度のショボい城壁しかないコミュニティを、近くの林の木の上から伺う。


「普通のコミュニティなら数日で魔物か野盗の狩り場になるぜ」


(騎士級竜の棲み処じゃ、並の魔物やならず者ごときでは手出しできん)


「竜何かがいて、ここの連中は何で無事何だ?」


何か三角形みたいな変な服を着てるが、住人はそこそこいるし、痩せてもいない。表情が薄い気はするが・・


(殺戮せずに牧場のようにするつもりであれば、この程度の規模のコミュニティの維持は知性有る竜ならば容易い。だが、牧場は牧場。相当な期間、育った人間を間引きしておるはずじゃ。数多く喰ってるヤツの臭い、がする)


「確かに臭ぇな・・やっぱこっそり行って奇襲しないとマズいか?」


(いや、眷属を増やしてる気配もない。正面から行ってよし、じゃ)


「何だ、ブレスリザードの時より大雑把じゃんか」


(知恵ある竜は肥大した自我があって間抜けな物じゃ、返って動物に成り下がった者の方が必要な反応しかしないから厄介なことも少なくない)


何か楽にイケそうな感じもしつつ、オレは木から飛び降りて、駆け、ショボい城壁をひょいと飛び越えて中に入った。


着地した側にいた住人は当然仰天する。


「ビックリさせちまったな。オレ、ココロ。これからここの竜をブチ殺して生け贄? みたいなのやめさすからよ、居場所教えてくれよ?」


住人は唖然としていたが、


「貴女は、・・平等ですか?」


妙なこと聞いてきた。平等??


「は?」


「このコミュニティは平等(びょうどう)シザー様の加護を受けています。ここでは全て平等なのです」


え~? 何か、竜教よりハードな気配っ。


「衣食住、労働の成果、家族、恋人、友人。この平等なコミュニティ、では全て共有されます」


「平等シザー様への供物も、平等に組ごとに持ち回りです」


「この秩序無き世界で! 唯一の真に平等なコミュニティ! それが平等シザー様の加護の下、ここに実現してるのですっ」


「平等シザー様万歳っ」


「平等シザー!!」


「万歳っ!」


連鎖的に謎の熱狂が起こり始めていた。


後ずさるオレ。


(話にならんの。長い年月でコミュニティごと認識を破壊されておる。気配で場所はわかる、無視してゆくのじゃ)


「あ、ああ。お前らのソレ、終わらせるけど、じゃ、な」


オレは蔓を近くの煙突に掛けて屋根に上がってラシュシュの示す方に向かった。



コミュニティの墓場の隣に甲羅を組んだみたいなデカい家があった。


「墓場の隣って、合理的なヤツだな」


(定住するヤツは、生活感が出てくるものじゃ)


「生活感・・」


ま、いいや。オレは脱いだ帽子を詰めたリュックを近くの物陰に投げ置いて、硬く閉じた門を切り払い、焼いて、中に入った。



家かと思ったら祠だ、魔力が強く籠ってる。円柱状の何もないような空間で、奥の祭壇のようなとこにそいつは座ってた。


「・・ザリガニ?」


そうザリガニ。どことなく竜っぽくもあったが、どう見てもザリガニみたいなデカい男が座ってる。


(陸生であるのに、妙な最適化をした物じゃ)


「ザリガニではなあぁーいっっっ!!!」


声、バカデカいっ。


「我が名は、平等シザー!! 騎士級竜にして、このコミュニティの主っ、貴様、ブーストウェポン持ちのイキった花混じりかと思ったが・・そのウェポン。大樹虫と契約したな?」


「そうだこの野郎。これからお前をブチ殺すから反省しても遅いぜ? 長い間、平等ごっこ、で楽しんだんだろ?」


「ごっこ、だと? 多少竜の力を得た程度で、やはりイキっているな、貴様? いいか、よく聞け、一度しか言わない」


平等シザーは大きく息を吸い込んだ。


(耳を塞ぐのじゃ)


「この世は平等が一番だろうがぁああああああーーーーーーっっっっ!!!!!」


言われた通り耳塞いでなかったら、鼓膜破られてる勢いの絶叫! 壁にヒビが入ったっ。コイツっっ。

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