表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
緑海嘯  作者: 大石次郎
47/48

47話 君は気持ちの好い戦士だ

ココロが神殿地下に去った直後、トクサはブリッジで配下の工学師達と様々な計測結果を照らし合わせていた。


「稀なる竜狩りココロ。出力、王級竜! 問題無いっ! ハハ! ゼリ・キャンデ、無念だろうな。驚かされたが、許容範囲!!」


「思い通りに済みそうでよかったですわね? ワープラント達も必要無いのでは?」


「保険になりますから。何もされないなら人魚達を見習って負傷者のケアでもされてはいかがです?」


「あら~、でも万一のこともあるからぁ。もう少し控えておきますわ」


「そうですか」


トクサは笑顔で返し、障壁越しでも何とか水晶通信の暗号文を送って、世界中のドマーェン一派との情報共有の手配を進めた。


内心、事後処理が済み次第ラミア族脅威論を他の残存勢力達に広めてやろうと思いながら。


自身と、他の工学師達の挙動をラミア族達に観察されていることにはさほど関心を持たないままに。



───────



光の森には霊体に近い? 大樹虫達がヤバい程いた。め~~~っっちゃ、見られてる。


「自我はあるっぽいが、微妙な感じ」


(竜王イ・レアに付いた者達じゃ。現世に干渉する術は失くしておる、無視でよいのじゃ)


「気まず~」


とっとと中央の光の大樹に向かう。アレが、柱の樹、てヤツだろう。いるのはわかる。テレポートしてぇが、ここまで近付くと転移した瞬間の隙を取られそうでやり辛ぇぜ。


つーか、独特の匂いと虫以外にも変な感じだ。小間切れの、記憶の欠片? みたいなもんが散ってるような・・


今は、振り返らねーけど。


(柱の樹は生命の発露。そして死の象徴でもあるのじゃ)


「どっちだよ?」


(生きている、とは死に向かって歩んでゆく、ということである)


「何それコっワ~。オレら死ぬ流れじゃんかよ」


(竜王は摂理その物。ワシらが死ぬる、ということはワシらに象徴される死の概念が反古となる、ということじゃ)


「全然わかんねーぞ?」


(これよりワシらが行うことは、互いにとって都合のよい、死のルールを押し付け合う。ということなのじゃ)


「・・つまり、アレだ。殺し合いだな」


(平たく言えばそうなるの)


着いた。光の大樹の根元にアマヒコくらいの年に見える古風な服の白い髪のニルンレアに似た綺麗な顔の男が座ってた。光と同化したみたいな大樹虫の背を撫でてる。

竜王、イ・レアだ。この兄妹は虫に好かれるんだな。


(陛下、お久しゅうございますじゃ)


「うん、ラシュシュ。君は魂が柔らかくなったね。前は人類にも世界にもあまり関心無かったのに」


(多くの者と同じく、時が、経ちましたのじゃ。いくらか旅もしました。陛下もおかれましても、御心が鎮まれたようですの)


「永く世話をしてくれた子がいた。夢の狭間で、傷と共に、壊れた私の魂を繋ぎ合わせてくれたんだ。・・タイタシュも側にいてくれたしね」


(イ・レア。わたし達の光はどこにあるのでしょうか?)


「タイタシュ。私達は今、その中にいる。勝利も敗残も、一筋に連なってゆく。その瞬きの最中にいる。これは、光」


オレはナガマキを振るってオレ達とヤツらと間に斬撃を飛ばしてまばゆい草地を削って境界の印を作った。


「オレはイズモクラのココロ! 御託はいい、寝起きで悪ぃが殺し合おうぜ?」


「ココロ、君は気持ちの好い戦士だ」


言うなり、イ・レアは座ったまま草木、いや、森の津波を引き起こした!

森のその他の虫達も海嘯に消えてくっ。

実体化した龍脈みてぇな気配っ。柱の樹の根が触媒か。 つか、埋まるっっ。


「どぉおっ?! 切り替え早過ぎんだろ! これが緑海嘯???」


(こんな物ではないの。ただの前触れ。なれど柱の樹へのアクセス権を持つ竜王が立つ以上、世界の更新は始まるのじゃ!!)


イ・レアは光を引寄せて変化させ神話の人物みてぇな鎧を纏い、タイタシュとかいう虫は緑海嘯の一部を引寄せて長剣に変化したっ。

ヤツも光輪を背負う。


「人型でやる気かよ」


「いや、お客が来てるからね」


「客?」


緑海嘯に気を取られ過ぎたっ、海嘯が炸裂して、地の底から完全に竜と花と人の中間の姿に変わった最強野郎が現れた!!


(億劫じゃの・・)


「機ハ熟シタッッ!!」


「やぁユネッサ。会いたかったよ。純粋な適応で、私達より正しく竜の真理にたどり着いた君。しかしその進化では、君以外の生命は君の糧にしかなれないね。その先に何があるんだい? ここを喰い尽くしたら他の星にでもゆくつもりかい?」


イ・レア、こいつ結構煽るなっ。


「無限ノ闘争ニ理由等ハ不要。ヤガテ俺自体ガ闘争スル世界ソノ物トナル!! ソコデ産マレル新タナル戦士達トノサラナル闘争!!! 我ラガ力ハ全テノ世界ニ闘争ノ祝福ヲモタラスダロウ。我ハ戦ウ生命ヲ祝福セシ者ッッ!!!!」


「素晴らしいね。この世界と文明の刷新云々で拘泥する私達が小さく見えるね? ココロ」


普通の生身ならたぶんイチコロなふんわりした笑顔を向けてくるイ・レア。見た目だけならアマヒコより上ってのは認めてやんよ。


「お前、コイツ始末すんの手伝わす気だな?」


「他にいいアイディアがあったら教えて欲しいけど?」


「んーーーっっっ」


(ココロ、来てしまった物はしょうがないのじゃ)


(イ・レア、この光は嫌い)


「わーったよ! こういうの定期的にあんなっ」


(ユネッサよ、光栄に思うのじゃ。2柱の竜王と相まみえることを)


「笑止ッッ!!!」


ユネッサは数百の光の拳を放ってきたっ。オレもイ・レアも速過ぎな攻撃を事前に予知して近距離テレポートの連発で躱す。


こうしてる間も緑海嘯は止まってねぇ。もうとっくに地上に達してるだろうし、そもそも龍脈に呼応するなら連鎖的により広範囲にイッてる可能性もある! のんびり探知してられねぇけどっ。


「オイっ、竜王」


「君もね」


「ややこしいなっ、イ・レア! お前何でそんなこの緑海嘯やらで世界を刷新したいんだよ? 今、そこそこ安定してんだろ? 昔の文明とかとっくに滅びてるし、お前の妹達何かは今の世界受け入れたぜ? まぁ他にも色々してるヤツらがいるから、全体でどうだ? てなったら微妙だけどよ」


横槍入ったし、一応言うだけ言ってみるぜ。


テレポートを駆使して、ユネッサに2人で攻撃する。とんでもねぇパワーの障壁張ってくるが、オレ達の攻撃力も異常だ。削れてるっ。


「君は今が結果だと思っているけど、私には中途のこと何だ。多くの犠牲と罪が連なった、一筋の、君とは違う光の中に私はいる。ニルンレアは王ではない。だから降りることができた。私にはできない。私はそこに至る全てから王となったのだから」


一切迷いのない横顔のイ・レアはユネッサのすぐに復元する多重障壁を破り、その時を、一時的に奪って行動を封じ、オレに下方を示した。


(龍脈との同化を断たねば倒せんのじゃ)


「・・わかった」


オレは、見る、緑海嘯に大穴を空けたまま地から立ち上ぼり続ける龍脈の力と一体のユネッサの、その摂理を見切り、ナガマキで摂理自体を切断した。


「グゥッッ?!」


力任せにイ・レアから時を取り戻したが、龍脈との繋がりが断たれ力の均衡が崩れてあちこち結晶化しだすユネッサ。

はしゃぎ過ぎだぜ。オレかイ・レア、どっちか死ぬか共倒れになった辺りで出てこいよ?


「イ・レア!」


「ココロ!」


「「おぉおおおーーっっっっ!!!!」」


互いにテレポートによる完全回避を諦め、加速とパワーでユネッサを追い込むっ。


ヤツは四肢と無数の竜の蔓で猛烈に反撃し滅びの息もガンガン吐いてきたが、せいぜいオレ達1人分のパワーだ。


世界なら滅ぼせるかもしれねぇが、オレ達2人にゃ足りないぜっ!!


光の長剣と荒ぶるナガマキが交錯し、ユネッサの胴を斬り裂いた。


「我ハ龍脈ニ宿リシ闘争ノ魂。消エハ、セヌ・・」


「では、どちらの世界が残っても永い付き合いになるね。また会おう」


「つーか、お前、最強だの何だの以外のこともいつか覚えろよ? めんどくせーわ」


ユネッサは離れると肥大する大量の結晶を辺りに散らし、それが宙に浮いたまま緑海嘯は龍脈の大穴を埋め尽くしてった。



───────



地上に溢れた緑海嘯は龍脈に呼応し、瞬く間に神殿を広域で囲む障壁内を満たし、応急で補強された南西域にヒビを入れた。


可能な限り障壁内で高度を上げ、船を守る障壁を張っていた残存飛行船団の内、高度が足りず、障壁が甘かった船は凄まじい速度で緑海嘯から伸ばされた草木の塊の触手に貫かれ、強制的に緑海嘯に同質化させられ、呑まれてゆく。


リーラ商店の船には損耗はしていたが、ティアビルケン号組全員とカノレアとシノレアが乗り込み、事態を見守っていた。


「なぁ、モパ」


「んん?」


右の目と耳を失ったデデヨジカとやつれてはいても少しは体型の戻ったモパヨーヨが寄り添って座り、ブリッジの端にいた。

側に無理矢理設置された回復器が2つあり、重傷のシノレアとウラドーラが入っている。

ジンフーは疲れて居眠りをし、カノレアはあれこれ船員やリーラやムラタに言い付ける等してうるさがられ、竜滅器は全て調整器に入れられ、状態に温度差のある虫達は外に出て、淡々と状況を見ていた。


「帰ったら、結婚してみるか?」


「うん。2人とオトシュとメルメシュで食堂経営するんだぞ!」


「マジかぁ・・ま、いっか~」


他愛なく笑い、頭を預け合って並んで座り、最後の戦いに2人は祈った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ