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緑海嘯  作者: 大石次郎


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42話 前向きな撤退

トクサの小型ゴーレムにやたら厳重に警護されてるヴァルシップの特別室にウラドーラと見舞いに来た。


卵型の治療器の中で安らかそうに眠ってる。


「起きそうにはないけど、思ったより大丈夫そうじゃんか」


(長い旅であったのじゃ。滅びかけたゾンダルシュと契約してやった、まことに慈悲深い娘であるのじゃ)


「紡いだ関係性が今に至ってる。商会と竜狩りがここまで近くなった一因に、頭が厄介ごとの始末を折々引き受けてきたってのもある」


(目覚める時までに、過去と地続きの、この世を保っていたい物だ・・)


もう少し残るというウラドーラを置いて、オレは特別室を出た。



本館の稽古場でジンフーが例によって強い糧をあまり食えてない連中に稽古を付けてた。最近はバルタン何かの素で強い傭兵種族の連中もチラホラ混じってる。


端っこのベンチにすっかり落ち着いて、髪も切ったヌヨが座ってた。横に薄めの木箱が置かれていて、その上に薄くなったボンボシュが姿を見せていた。


「よぉ、ヌヨ」


「はい」


稽古の様子を2人と2匹で見る。講釈中に「運命、運命っ」と結構うるせー頭にゴゴシュを乗せたジンフー。


「・・ココロさん、返して下さいね」


ヌヨは乗ってるボンボシュごと木箱を差し出してきた。


「貸し借りできるもんなのかよ?」


(オッケー!)


ボンボシュは気楽な感じだぜ。



食堂で、並んで座って山盛りのパンケーキをシェアしてるが、彼氏の方は食わされ過ぎてグロッキーなモパヨーヨとデデヨジカ、テーブルの上に姿を出しておこぼれのパンケーキを食ってるオトシュとメルメシュをチラっと見てから、これまたバルタン族の警備が厳重なリーラの私室に向かった。


私室の水晶通信器でオーシャンピープル郷にまだいたジラとアギームと通信することになってた。ムラタも来てる。


「傷はだいぶいいですが、俺達は海底に残ることにします。面目無いッスけど」


気まずそうなジラ。側のアギームはオーシャンピープル風の平服で、何かしっとりした感じになってるぜ・・


「構やしないよ。こっちもムラタと後衛の船で見届けるだけさ」


「ま、どこにいたら安全。て感じでもなさそうですしね。お供はしますよ」


「ココロ、無責任に聞こえるだろうが、がんばれよ? 世界の真ん中に行くヤツがいるとしたら、お前だ」


「弟のついでに世界も何とかしてよ?」


2人は苦笑気味に言ってきた。


「知らね。大袈裟だっての」


オレはオレの物を取りに行くだけさ。



本館をグルっと一回りして、飛行術でゾラカのハズレに新設されてたゴーレム工場の正門まで飛んできただけだが、酷く疲れた気がしてため息ついちまった。


(まだこれからじゃぞ? ココロよ)


「ラシュシュ、お前は結局オレに竜王とかいうの始末させたかったんだな」


(いや、エゥガラレアと相討ちとなるのであればそれでよし。とは思っておったが、しばらく旅をして欲が出た。お主や、お主に連なる者達は、この先の世にそのままに進んでよい。そう思っておるのじゃ)


「んな大層なもんじゃねーよ。どいつもこいつも! オレは殺し屋っ。報酬は弟! そんだけだ」


チェックしていた門番のゴーレムに「こころト認識。入レ」と促されたオレは、ドマーェンのゴーレム工場に入った。



工場には工学師もいくらかはいたが、作業員はほとんど専用の小型ゴーレムだった。大量に戦闘用中型ゴーレムを量産し、結晶の柱と機械の中間のような物も造ってた。


こことは別に、船何かの工場も近くのあちこちのコミュニティに増設してフル稼働させてるらしい。


(あの柱は障壁展開器じゃな。ゴーレムにゴーレムを造らせるのは危ういが、今は目を瞑るより他無いのじゃ)


「ふぅん」


興味無ぇ。居場所はわかってるから、オレはさっさと工学の地下へ向かった。途中何重も扉があったが、オレは通れる。


地下ではもうお馴染みの人造人間工場があった。

ただ花屍や竜狩り擬きじゃなく、わりと普通に花混じりの子供に見える。ちょい植物の要素が強めだが?


トクサのヤツは遠くの制御器らしいのに掛かりきりになってんな。


「わざわざ悪いね。ココロ君」


機械車椅子の代わりに浮遊する機械椅子に座ったドマーェンが来た。


「コイツらは緑海嘯ってのに耐えられんのか?」


(文明維持は? 記憶の転写までできておるのか? 無理がある気がするのじゃ)


「この者達は仮にワープラント族とする。認識の誤認、により、緑海嘯はワープラント達を上手く取り込めない設計だ。それも海嘯の出力を70%まで落とせたら、の話だがね。直接的な文明継承については、有り体に言ってしまうと、諦めた」


(ほぅ?)


「ただし、ラミア族等、多少は生き残る算段をつけた種族と交渉し、いくつかに分割した文明情報を託すことにした。それらに海嘯が落ち着き次第、生き残りのワープラント達に順次文明を与えてもらう、という契約だね」


(そう都合よく実行されるとは思えんのじゃ)


「前向きな撤退という境地だよ」


やる気あんのか無いのかよくわかんねーヤツだな。


「ま、いーや。コダチは?」


「うん。これを」


ドマーェンはオレに、ゴーレムの1体を使って随分様子が変わって機械感強くなったブーストコダチを渡させた。


「もう別もんだな・・」


「君のナガマキと同じ出力を出せる。ただし一撃限りね。ここもまた、前向きな撤退仕様だよ? ふふん」


「お前それ上手く言えてねーかんな」


オレは変わり過ぎなアマヒコのブーストコダチを抜いてみた。


冷え冷えとした刀身だった。



───────



光り輝く千竜神殿最下層最深部の入り口付近で、エゥガラレアは数百の竜の成り損ないの不定形存在達に取り囲まれ、報告、を受けていた。


「・・なるほどな。根本摂理に挑むつもりか。まぁ、そうもなろうな。くくっ」


エゥガラレアは嗤って、なおも細々と報告を続けようとする成り損ない達を無視して、輝く最深部へと入っていった。

成り損ない達は光に阻まれ、恐れをなして遺跡の闇の隙間へと逃れてゆく。


光の森を歩むエゥガラレア。木々に宿る大樹虫達がそれを見る。


(エゥガラレア)


(我らが剣!)


(手をこまねき過ぎだ)


(ラシュシュの裏切りを招いた)


(お前が女神の信を得ていれば)


(エゥガラレア)


(エゥガラレアよ)


中央の光の大樹の元まで来ると、眠る竜王イ・レアとその側にいる輝く大樹虫に膝をついた。


「人どもと、反逆者どもとの決戦となります。こちらは巨人族を手勢に加えましたが・・ここに至りましては、陛下の、そのいと高き御威光を」


(エゥガラレア)


眠る竜王に代わり、光の大樹虫が語り掛けた。


(わたし達の光はどこにあるのでしょうか?)


「陛下こそが光でありましょう」


(光は燦々(さんさん)と、わたし達を照らす物であるはず。わたし達の光はどこにあるのでしょう? イ・レアは求めています)


「・・仔細はおって、伺い奉ります」


エゥガラレアは答えず立ち上がると背を向け、歩きだした。


(ついぞ、タイタシュと話が通じなかった。巫女や文官の真似はできぬ物だ)


そうエゥガラレアは自嘲していた。



───────



ココロ達が乗る、2千を越える寒冷地仕様の武装飛行船団が北限の地の上空に侵入を始めた。


「散開を」


ラミア族と工学師達が目立つ大型船のブリッジで、トクサが水晶通信で命ずると数十ずつ7つの小船団が別れ出て、等間隔に遥か先の千竜神殿を囲んで配置された。


7つの船団はそれぞ結晶の柱を投下して凍り付く大地に突き立てた。


トクサの感も最も大きな結晶の柱を投下し、神殿を円で囲う形で魔力を連動させ始めた。


「大人しくされるままですわね?」


ラミアの将がトクサの肩に手を置きながら言うと、その手をスッと払いながら、


「竜的ですよ。力ずくで破る。あるいは複雑な形になるより単純にカチ合う形に持っていきたかったのかもしれないですが。結局、力ずく、ということにまりますけどね」


トクサが面白くもなさそうに言うと、千竜神殿から無数の竜が溢れだし、さらに神殿前の地表が破れて800体は越える改造された巨人族が現れた。


いずれも囲む小船団には構わず、トクサの船を含む正面の本隊に突進してくる。


対して、船団本隊からも無数の戦闘用ゴーレムが出撃した。

トクサの船とその護衛船、結晶投下の小船団は魔力障壁を張り、投下した結晶柱もまずは柱自体を守る障壁を展開させだした。


「1体、読めない竜がいるので注意しましょう」


最大望遠の映像器に映った巨人を率いる少女の画を拡大して、トクサは笑みを浮かべた。


進軍する改造された巨人の王の肩の上に、白衣の幼い本体の姿のゼリ・キャンデがいた。身体結晶化傾向は全身に回っている。


「満員御礼! 感謝感激っ! ゼリさんオンステージ!! 行っくよ~っ!!」


呼び掛けに応じ、全ての巨人と天駆ける竜達が吠え、凍える天地を震わせた。

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