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緑海嘯  作者: 大石次郎
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4話 竜の糧

荒野を翔ぶように駆ける! 以前の何倍も力が湧いてきて、感覚も鋭いっ。離れた獲物の存在がはっきりとわかる。


変えられちまったラシュシュのナガマキを回転させながら、蔓の鞘を解除し、柄も伸ばして構える。

炎のようなヤバい魔力が噴出するっ。


(契約を忘れるでないのじゃぞ? お主は現状、弱過ぎてエゥガラレアのような上位竜の相手にまるでならん、ということものっ)


「わーったよ!」


ラシュシュは復活させたオレに力を貸してくれる。その為に契約は必要。ヤツの要求は3つだった。


1つ、竜に敬意を払うこと


2つ、悪竜を打ち滅ぼすこと


3つ、善行を行うこと


以上。


単純だけどっ、普通に生きててやらねーことばっかだ!


「ラシュシュっ。オレはさっさとアマヒコ助けたいんだ? そこは忘れんなよっ?」


(ココロよ、まずは強くなるのじゃ。お主が弱いと契約の前提が保てんっ)


弱い弱い言いやがって! うぅっ、見えてきたっ。荒野に突然現れる人工的に岩を組み上げた奇妙な場所っ!


ラシュシュが下等だっていう竜、ブレスリザードの巣だ。


竜の遺骸のお陰で森には来なかったが、ブーストの武器を使える花混じりでも、こんなの強過ぎて普通相手しない。


だが、今ならやれそうだぜっ!


何体か、向こうも気付いて岩の巣から顔を出して火の口から漏らしながら様子を伺ってくる。もう遅いっっ。オレは岩の巣の目の前だ!


一閃!! のこのこ顔出したブレスリザードの馬の胴体並みの首を回転しながら纏めて落とすっ。

傷口から燃されて滅びてくブレスリザードっ。これ加減できねーから食べたり素材取る用には使えねーな?


「とにかくっ、だ」


「ガァアアッッッ!!!」


石の巣に飛び込むと、13体もいたっ。吠える吠えるっ。つーか、中、魔力強いな。緑壁の中程じゃないが似た感じだ。

ただ大樹虫は見当たらない。ラシュシュ達は上位竜の死骸専門か?


まず数を減らす! 口から吐く火球の弾や火炎の息を避けたり虫のナガマキで斬り払ったりしつつ、ブレスリザード同士で互いが邪魔になるよう立ち回って、一気に1グループに詰めたっ。


3体斬り伏せて燃し、速攻で蔓を使って周囲に組まれた巨石の一部に絡めて自分を引っ張って離れるっ。

喰おうとしたヤツらが勢い余って頭をぶつけ合ってら!


「へっ」


3体減ってもう3体は一手遅れたっ。


オレは石を蹴って構えの甘いのから飛び掛かり、あとは囲まれたり数体で組んで守りを固めない内に1体ずつ仕止め、最初のわっと纏めて来たとこ以外は思ったよりあっさりブレスリザード達を全滅させた!


「何だ、余裕じゃん? コイツら何級竜だよ? あのクソ女もこの調子で」


(倒した竜に礼じゃっ!)


「・・っどくさいなぁ」


オレは渋々燃えて消えてくブレスリザード達にペコペコ頭を下げた。意味わかんね。


(こやつらは一番下の雑兵級竜。それもとっくに知性を失い、世代を重ねて野生の魔物と変わらん存在になっておる)


「まぁ、そうかよ。ここらの物資輸送隊は安心、には、なったか・・」


何だかなぁ。こういう害ある竜は世界に無数にいるんじゃねーの? キリ無いぜ。


「つーか、こんなんで強くなれんのか?」


(ならん。肩慣らしじゃ。お主が手っ取り早く強くなるには土地土地の龍脈(りゅうみゃく)の基点に生ずる竜の(かて)を食す必要があるのじゃ)


「リュウノカテ?? 旨いのか?」


(人の味覚はよくわからん。近くの糧は探知しておる。行くのじゃ。あっちじゃ!)


「話早っ、よっしゃーっ」


復活してから沢の水と食える草しか口にしてない。腹が減った!

ラシュシュが示した方へ全力ダッシュしたが、荒野が草地に変わり、さらに走ると草深い放棄された生活コミュニティに着いた。

微妙に魔除けの効果が残ってる感じ。魔物の気配はなかった。


(ここの奥じゃ)


「こんなとこに生活コミュニティあったんだ。つか、どっか布落ちてねーかな? オマタがスースー・・いや、こりゃ古いぜ?」


残ってる壁に触れたら簡単に砕けた。


(おそらく人がおった頃に龍脈の基点を祀っておったんじゃろう。この先じゃ)


言われるままに進むと確かに社だったっぽい、半壊した建物があって中に入ると祭壇? を下から突き破る感じで細木が生えていて、木のサイズからすると不自然なくらい大きなうっすら光って脈打ってる果実が生ってた。


「・・アレか? 何か、微妙にキモいぞっ」


(ココロよ、食すのじゃ! 滋養満点! 大地の魔力満点じゃっ)


「うっ」


取り敢えず生ってるのを取ってみたが、重いし、取っても脈打ち、生臭いっ。


「昔、弟と生ゴミ漁ってたが、もう何年もマシなもん食べてたから・・調理を」


(鮮度が落ちるっ! 取ったらさっさと食さんかっっ)


ナガマキが光って、ラシュシュがオレの身体を操り食わしに掛かったっっ。


「おいラシュシュっ? 勝手にオレの身体使うなっっ。うぉおおおっっ??」


シャクりっ、かぶり付いた。瑞々しく飛び散る生臭い果汁。


「マズぅううっっ~~~っっっ??!!!!」


生ゴミよりマズいもんがこの世にあんのかよっっっ。


オレは衝撃に震えた・・・



───────



星の北限の氷結の大地に千竜(せんりゅう)神殿はあった。


半ば凍り付いたその遺跡は現在の人類からは、神話や伝承でのみ知られた存在となっていたが、しかしまだここに竜達はいた。


目覚めている者は少なく、知性を保つ者はさらに少なかった。


その数少ない知性ある竜、ゼリ・キャンデは鼻歌混じりに凍り付いた神殿の回廊を歩いていた。


耳は長いが人の少女に近い姿をしており、濃い桃色の髪に古代の工学師(こうがくし)がよく着た白衣を羽織っていた。


「ふんふ~」


機嫌よく時折同胞が凍り付けになっている回廊のあちこちにある氷塊に触れたりしながら歩くゼリ・キャンデ。


竜には無用ではあったが、回廊は氷塊と競うようにあちこちに迫り出す未精製の霊石(れいせき)の光によって照らされていた。


属性も様々な霊石の様々な色彩の光を受けながらゼリ・キャンデは鼻歌混じりに歩き続け、程なく開けられたまま凍り付いた扉の部屋へと入った。


「ちゃほーっ、エゥガラレア様、調子どう~? ってヤダーっ!」


ゼリ・キャンデの特製溶液入りの円柱型の回復槽に入っているエゥガラレアは依然、竜に近い特徴を出し成長したアマヒコの身体のまま胸部に顔のみ出た姿であった。


「まだ身体の主導権握れないの~? 弱体化し過ぎ~。おティンティン丸出しだし~」


(黙れっ! ゼリ・キャンデっ。よりにもよって貴様しか治療担当がいないとはっっ)


思念で怒るエゥガラレア。


「あ、エゥガラレア様、そういう事言うの~? 改造しちゃうぞ~??」


(ま、待て! 回復槽の出来自体に問題は無い。腕前を上げたな? はは)


「おー? わかってるじゃーん?? 今、わっちに嫌なこと言ったら・・おでこにおティンティン付けちゃうからね~?」


容器越しに凄むゼリ・キャンデ。


(くっっ、子爵の分際で侯爵の私を脅す気か?!)


「爵位とかっ、それ何千年前の話ですかぁ?? 大体それ言ったら、わっちは元ハイエルフですけど、エゥガラレア様は普通の森エルフのただの里の子供ですよね~? たまたま契約した竜が強かっただけじゃないですかぁ~?」


(ぬぅっっ)


怒りで魔力を高めるエゥガラレア。回復槽にヒビが入る。


「あ、怒るんですか? いいですよ別に、今の状態で陛下に謁見するのもナチュラルな感じで~」


(くっっ)


魔力を押さえるエゥガラレア。


(・・性別は一旦保留でいい、身体を安定化してくれ)


「お願いしますだにゃん、て言って下さいよ?」


(っ?! っっ・・・)


「にゃんですよ? にゃんっ」


(よ、よろしくっ、お願いしますだ、にゃん)


「ちゃっはーーーっっ!!! 800年くらい早起きしてよかったぁーっ!!」


爆笑するゼリ・キャンデ。


(・・・)


かつての終末の戦いでもこれ程の苦境は無かったと、エゥガラレアは思い知っていた。

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