39話 鳥達が飛んでる
竜都船団から蝿の大群のように出てきているのは、即席の竜狩り擬き兵達だ。不完全だから機械っぽい器具で補強してる。
13番竜都の戦闘員は皆改造済みってことだろう。竜狩りの目を凝らすとブリッジのヤツらもそんな具合だった。捨て身だぜ。
オレ達は全員既に脱出艇の上部に出ていたが、ウラドーラは有線端末で最後の操作をして、無人の脱出艇を竜都船1隻に容赦無くぶつけて沈めた。
「御竜王が神意にありてぇーーーっっっ!!!」
竜の翼をはためかせ、デカい銃剣付きのブーストウェポンの重火器をブッ放ちながら突っ込んできたヤツを燃えるナガマキで斬り捨てて、燃し、終わらせてやる。
「竜教は文明維持の体裁だろ? 本気になんなよ・・」
こっから一気に乱戦になった!
今のオレ達には紙を割くくらいのもんだったが、参戦してる竜狩りの全てが冬の実並の糧を食ってるワケじゃない。
ブースト商会の船も補強で守りは固めてるがガチの軍船は少なく、前衛から中衛はほぼ傭兵的なヤツらばかりでも空戦慣れしてるようなのは少数。
戦力的には優位だったが、被害はジリジリ出てる。
たぶん育ちが悪くないヌヨ何かは実質対人戦で大量に手に掛けて青い顔をしていた。
独自解釈の教義も定かじゃないがコイツらを人類の主流派にはできないとは思うが、長引くのは色々キツいな。
「・・隠し玉っ、まだかよ!」
(手筈では中衛まで食い込まれてからじゃ、幸い竜都本体の住人はまだ9割は未改造の気配。事態の急転が良い方に出たの。ドマーェンのヤツの手柄になるのは癪に障るところじゃが)
ラシュシュは気楽。安定のサイコパス!
「あーっ! どいつもこいつもっ、どっかしら話通じねーなっっ!!!」
囲んできた竜狩り擬きの首を、先端に竜の鉤爪を出させた蔓で刈り取り、燃えるナガマキで軍船をブリッジごと両断した。
ウラドーラは雑魚にはあまり構わず船を墜とすことに専念し、モパ公とデデヨジカは組んで戦い、ジンフーは具合悪くなってきてるヌヨの援護に入った。
商会船団と協力する竜狩り達は確実に押していたが、
(抜かれだしたの)
相手は何しろ形振り構ってない。強引な突貫でいくつかの前衛の船団防衛線が破られ、中衛との交戦が始まった。
中衛の方がいい船使ってるが竜狩りは前衛に集中してて、中衛の援護要員は結構な値段で雇われた火山帯のバルタン族達だ。弱くはないが一段劣る。
損害がそこそこ出だした、その時!
ゴォッ!! と火球の連打が真上から中衛に食い込んだ竜都船団の多くに降り注いで砕いていった。
咆哮を上げて降下してきたのは黒と白の竜に率いられた竜の一団だった。数十はいるっ! ノルンランド勢だ。箱竜は相変わらずワケわかんねー形してんな。
(契約により! 契約の順守により!! 誠実にもっっ! 助成してやろう! まず人間が竜王様の御意志を騙るとは小賢しいっ)
(只今、ノルンランドは新規顧客開拓キャンペーンを執り行っております。珍しい魔石原石、脱皮した竜の抜け殻、切った爪、刈った鬣、その他様々な魅惑の商品を取り揃えております。今なら何と! ノルンレア殿下のブロマイドも贈呈っ。キラキラ仕様のブロマイドは畏れ多くもバニーコスが)
戦いながら宣伝クドい姉妹だなっ。
とにかくギリギリまでもったい付けた竜達の加勢で完全に大勢は決したぜ。
そう間を置かず、13番竜都は陥落した。各地の強硬派竜都も被害の程度差はあっても制圧されたらしい。
これで実質、ブースト商会と穏健派竜教が世界の文明圏を概ね統一した方針で統治することになった。
それがいいのか悪いのかは、正直よくわかんね。
・・・ネア大陸のゾラカに戻ってきていた。ここの商会本部の上階の廊下の窓からは海が見える。鳥達が飛んでる。
全部終わって生きてたら、風のいい所で安むかな。
アマヒコを生きて取り戻せないならそこに墓だけでも作ってやろう。
そんなこと、考えちまった。
「ココロ?」
「ああ」
リーラに呼ばれてオレは遅れないように歩き出した。
ヴァルシップな見舞いだ。まだ目覚めないらしい。ウラドーラは先に行ってる。リーラとジラ達とオレだけ。
ヌヨの具合が悪く、モパヨーヨとデデヨジカはそっちの面倒を見てる。ジンフーは腕前微妙な段階の竜狩り達相手に教官役を引き受けていて忙しい。と、
(ワシはノルンレアの虫であった者と交信をするのでしばらく自分で警戒するのじゃ、ココロよ)
(急だな。ま、いいぜ)
本部の出入りの警備はわりと厳重だし、平服のオレは気軽に言った。
歩き続け特別室ある棟まであと少し、気が抜けていたのは事実だ。財力と商会の技術力である程度補えるってのも失念してた。機会が限られてた、てのも。
結論から言うとオレ達視点では唐突に、充填型の気配を消し透明化するかなり高価な仕様の魔術道具を剥ぎ取り、置物の壺の脇から姿を現したゴンジが銃身の短い塵砲をリーラに向けてブッ放すを許しちまった。
後ろにいた間抜けなオレは最速で蔓を伸ばしリーラと、リーラを庇ったジラを守ろうとしたが散弾を飛ばす塵砲、それもミスリル弾を使ったらしく上手く防ぎきれずジラが深手を負うっ。
激怒したアギームが護身用のブーストウェポンの小鉈で塵砲を持つゴンジの腕を切り落とし、さらに首を落としに掛かったがこれはムラタが必死で止めた。
「アギーム! 尋問する。手引きもあったはずだからっ」
「くっそっ、往生際だろうよっっ、あんた!」
「ラストンごときに席を譲るハメになったのは、お前のせいだ。忌々しい女っ。竜狩りや花混じりと馴れ合い、穢らわしい穢らわしい穢らわしい・・」
血溜まりの廊下に膝をついてうわ言を繰り返すゴンジの両腕を蔓で一応止血してやりつつ、リーラが呼び掛け続けるグッタリしたジラの手当ても始めるっ。
(何事じゃ。ヤツは気難しく、連絡取り難いのじゃぞ?)
迷惑そうにラシュシュが姿を現し、光の粉を吹いてゴンジの傷口の出血を抑え、ジラの身体から散弾を抜き出し、これも一応に出血を抑えた。
「あたしのミスだね。年甲斐無く違うことを始めて、いい気になってたよ。この人も、昔は腕一つでのし上がる男振りのある人だったんだけどね・・」
止血してもすっかり目がイッてる呟き続けるゴンジを哀れそうにリーラは見てたぜ。
───────
猛吹雪の中、形だけの防寒具を着込んだ濃いピンクの髪が乱れなびいていた。髪の主、ゼリ・キャンデは改造した大型伯爵級竜の1体の頭の上で気楽に歌っていた。
「デッカいことは良いことだぁ~。いっっぱいいるのも良いことだぁ~~」
本体である為、幼い様子のゼリ・キャンデは乗っている伯爵級竜以外の竜を連れておらず、代わりに改造された寒冷地の竜からすると下等な魔物を無数に従えていた。
対峙するのは霜の巨人の軍勢だった。
「ドSクソ上司に負けないよ~。陛下命のゼリさんはぁ~~っっとぉ!!!」
霜の巨人の王が進み出て巨大な魔剣を掲げた。
「滅び損ねし邪竜どもに、完全なる死をっっ!!!」
号令に大地を揺るがし、咆哮を上げる霜の巨人の軍勢。
「・・こっちもギリギリ何で、モブキャラのどーでもいい自己主張! 勘弁してね~」
爽やかな笑顔を見せたゼリ・キャンデの顔の一部に結晶化のヒビの兆候が見られた。
人知れず北の地で、霜の巨人軍とゼリ・キャンデの魔物達との交戦が始まった。
───────
とある緑壁のあった島を蜥蜴上等会が占拠していた。
管理していたらしき竜教徒と大樹虫達は皆殺しにされ、結晶化した竜の遺骸に異常に増えているワーリザードから進化した下位竜達が喰い付き集っていた。
周囲の肥大した無数の卵から次々と育った状態で産まれてくるワーリザードの竜達。いずれも獣のような様子であった。
それを冷え冷えと崩れた竜教寺社の残骸の上から見ている蜥蜴上等会の竜達。
それぞれ竜の遺骸の結晶を持ち噛ってはいるが、軽く口に運ぶ程度であった。
リーダー格の鶏冠頭の竜、だらしない格好の短髪の竜ヨヴレア、太った男児のようなポポルブレアもいた。
「・・増え方と知性の下がり方が半端無いね。禁忌ヤッバ。アハっ」
食べ飽きた遺骸結晶の欠片を奪い合いからあぶれて共喰いを始めていたワーリザード竜に投げてやるヨヴレア。たちまち欠片巡って殺し合うあぶれたワーリザード竜達。
「あんなに竜に憧れていたのに、可哀想。でも5代くらい経て生き残ってたら安定してくるかもね」
自分の分の結晶の欠片を食べきると口直しに、キープしていたワーリザード竜の生首を噛りだすポポルブレア。
「それより取引よ! この子達を使って一番特な利益を出さないとっ。死んでいったメンバーに申し訳ないわ」
リーダー格の鶏冠の竜は値踏みする眼差しをワーリザード竜達に向けた。
「その辺はモチノキに任すわ。ただ双子んとことは折り合わないんじゃないの? ああいういい子ぶったの虫酸が走るしっ」
ヨヴレアが顔をしかめ、リーダー格モチノキは肩を竦めた。
「是々非々だけどね。取り敢えずゼリ・キャンデかあのイカれた侯爵狩りの竜狩り、どっちを狩るのが商会に恩着せられるか? ってとこね。アタシ達の食糧の生成技術。盗む必要があるから・・うふふっっ」
早々に喰い尽くされるであろう餌場の島で、他の面々は淡白な反応であったがモチノキだけは楽しげに嗤っていた。