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緑海嘯  作者: 大石次郎
37/48

37話 誰の世話も焼かなくていいから

竜のごときユネッサはヴァルシップの渾身の魔力砲を受け、遥か上空の表皮に霜が付く程の高度まで打ち上げられていた。


ユネッサが持つ砕けかけた槍に損耗したゼルシュの霊体が張り付くように姿を表した。


(ははっ、面白い! ユネッサ、ゾンダルシュは討ち取れたようだがまだ他の竜狩り達はいる! ここは大地に遠過ぎて上手く龍脈の力を奪えない。早く高度を下げようっ)


「ラシュシュ、あの虫。最初からお前を狙っていた。他の者達もそれに釣られて動いた。ゼルシュ、その損耗では力は発揮できず、ヤツはその隙を逃さない」


ユネッサは自分を見る、闘争に取り憑かれた虫を見た。


「得る物はあった。退くぞ」


(・・わかった。君は冷静であることを学習したのだな、それもまた、力だ)


ゼルシュは砕けかけた突槍に戻り、ユネッサは凍り付き傷んだ翼を広げ直し砂漠から離れた大地へと降下を始めた。



───────



商会製の正規の回復薬とラミア族の秘薬のおかげでオレ達はすっかり回復したが、ヴァルシップの状態は芳しくなかった。


(契約した虫が滅びた場合、竜戦士の末路は様々じゃの。ケロリとしている者もおれば共に死にゆく者もいる・・)


ラシュシュが物騒なことを言うので、ティアビルケン号の残骸を少し回収したオレ達はリーラ商店の船で、治療環境の整っている海辺のゾラカに向かうことした。

オーシャンピープル達は治癒の技に長けてるかんな。


「じゃーなーっ!」


何だかんだで1隻残った脱出艇でミスリル鉱山跡に戻ることになった半数くらいのティアビルケン号の花混じりの船員達と甲板で別れ、オレ達は大急ぎでブースト商会の大型拠点、ゾラカにまた戻った。


「これはリーラ氏っ。竜狩りの皆さんも、船を無くされたそうで大変でしたねぇ」


出たぁ~、直に会うの初めてなゴンジ! 絶対、ティアビルケン号が墜ちた話聞いて飛んできたぞコイツ。嬉々としてやがる。


即、険悪になるオレ達ティアビルケン組。ヴァルシップは透明な玉子型の容器の回復器の中に入れて移送してる最中だ。


ゾラカ商会の本館の医療棟の特別室へ向かう廊下で待ち伏せだぜっ。


これにウラドーラが激怒するかリーラが間に入るのがどっちが先か? てタイミングで、ゴンジの取り巻きを掻き分けるようにゾラカ商会長のラストンといつかの花混じりのオーシャンピープルの潜水兵のリーダーが出てきた。


「まぁまぁゴンジさん、皆さん戦いと旅の疲れもあるでしょうし、それにリーラさんからも砂漠の珍品の商談があるのでは?」


「どうでもいい。オチビ船長をこっちに、一族の腕利きの治療師を手配した」


「むっ」


ラストンとそこそこ口悪い人魚のお陰で、無駄に揉めずにオレ達は一先ずその場をやり過ごせたぜ。


紹介されたオーシャンピープルの治療師は花混じりだった。

花混じりが街で暮らすタイプの知識階級職? に就けるのはオーシャンピープル達の社会構造の違いをちょい感じたぜ。


「彼女は生命の維持を大樹虫に依存する性質ではなかったようですが、かなりの長期間、高等かつ強力な魔力的同調を維持してきた反動でショック状態になっているようですね。当面は絶対安静ですが回復は可能でしょう」


オレ達は特別室で安堵した。


「そういやオレ、ラシュシュと離れたらどうなんだ? 死ぬのか?」


(あっさり言うのー)


「いまさらジタバタしねぇ」


姿を表したラシュシュはため息をついた。ウラドーラのミイファシュ以外の他の虫達も次々姿を表して自分の契約者と喋りだし、人魚の治療師とそのまま同席してた潜水兵リーダーを鼻白ませる。


(本来はそれこそワシに生命維持を依存する契約であったと思うが、お主は竜の糧を次々食っておるからの。今となったはわからん。少なくとも、無事な状態ならば生きたまま分離可能じゃろう。これまで倒した竜達も虫が抜けても大暴れてしておったじゃろ?)


「別に大暴れしたくねーよ」


(物の例えじゃ! そう心配することはあるまい。少なくとも、ワシとの契約ではの)


含みある言い方だな。ま、アマヒコ、助からねぇ、とか思ってんだろうけどさ。



・・・ヴァルシップを預け、取り敢えずリーラの商談が片付くまでは休憩になった。


モパ公はデデヨジカと街に出掛けたから、オレとヌヨはゾラカ商会の本館の従業員棟の一室の女子部屋で爆睡していたが不意に目が覚めた。

ちょうど部屋に着て着替えようとしてたアギームが起きたオレにギョッとしてる。


「ごめん、起こした?」


「んにゃ。何か・・便所行ってくる」


そうでもなかったが、柄を畳んでるナガマキを持って廊下に出た。


「ラシュシュ、起きてっか? 何か変な感じがする」


(ふむ。少しは勘が働くようになったの。奥間に、古い人類、が来ているようじゃ。行くのじゃ)


「古い人類?」


何だそりゃ? と思いつつ、オレはこっそり持ってきてた正規の強化剤を一瓶グイっと飲み欲し、奥間とやらに向かった。


そこは応接室の1つだった。

ナガマキの柄を伸ばし、ノックも無くドアを開けて入った。


「オイっすー」


中にいたのは魔力式らしい車椅子に乗った身体を機械化した爺さんと、華奢で表情の乏しい人形みたいな10代中盤くらいに見える男子だった。

2人とも工学師の白衣を着てやがる。


(若いのはお主の好みではないかの?)


(うっせっっ! アマヒコのが100倍いいんだよっ)


ラシュシュのイジりにムカつきつつ、オレはナガマキを構えた。


「何モンだオメェら? 普通じゃねーな?」


「ホホッ、いきなり来た竜狩りの娘に普通じゃない、と言われてもね。私はドゥマーエン。13番竜都から・・亡命というのはそぐわないか? そうだな、離反して商会に付くことにしたんだよ。強硬派はすっかり少数派になってしまったしね」


機械だらけのクセにわりと凡なこと言いやがんな。

オレは続けて整ってるが何か苦手な感じがする人形男子の方を見たが、代わりに機械爺さんが答えた。


「彼はトクサ君。私の助手だ。我々は見ての通り工学師でね」


「・・こんにちは、トクサです。お初にお目に掛かります」


急に愛想笑いしてくる。美形だが何かゾッとすんな。


(ドゥマーエン。ラシュシュじゃ。現代人ぶってトボけるでないぞ?)


オレの頭の上にラシュシュが姿を表した。


「これはこれは! 女神の騎士様の契約者でしたかっ。ではごまかしきれませんな」


好好爺っぽい表情を辞め、急にふてぶてしくなるドゥマーエン。


「実はゼリ・キャンデのヤツの襲撃でヴァルメシアと組んで行っていた13番竜都での研究が御破算になってしまってね。ヴァルメシアも死んでしまったし、予備の弟子とマシな研究環境を求めて遥々海を渡ってきたワケだよ」


「司教の研究って、グロいヤツかよ?」


「タダの悪ふざけではないよ。お嬢さん。我々は次の緑海嘯に備えているんだ。竜王は北の千竜神殿で健在だからね」


「はぁ?」


前に世界、滅びた原因とかだろそれ??


(あんな花屍擬きで何とするのじゃ?)


「下位の竜狩りに近い個体群を作ろうとしている。花混じり程度では強制的に文明無き状態に今度こそ完全にリセットされてしまうよ。並の人類等は論外さ」


?? 何だ? あり、なのか??


(竜達の和平派は上手くやりそうな気配であるぞ?)


「それはもう、竜達の新世界だろう? 旧人類としては口惜しくてね。何にしてもわかり易い悪さをするつもりはない。商会で竜都と同じ振る舞いはできないしね」


「嘘臭ぇ」


(何か隠しておるの。そもそもこやつはそこまで旧人類に強い関心を持つようなタマではないのじゃ)


「警戒したければ警戒されたらいいんじゃないですか? 上位竜に匹敵する貴女方の前では我々は燭台の灯のような物ですから」


人形男子がニッコリ笑って言ってきた。コイツ・・

その後も結局のらりくらりはぐらかされただけだった。何かなー。ん~っ。



───────



数時間後、番をしていたウラドーラの代わりに寝不足のジラとムラタが特別室の番を始めると、程無く部屋の外から密かに掛けられた眠りの魔術で2人は容易く眠り、部屋にトクサが1人で入ってきた。


部屋の片隅に置かれたティアビルケン号の動力装置の残骸の一部を一瞥し、歩みを進める。


装置と魔術陣で補強された治療器の中で眠るヴァルシップの前まで来ると、トクサの頭部が割れ、ヴァルメシアが姿を表した。


「ヴァルシップ。言ったよね? ゾンダルシュ何て過去の中だけにいる者だって。こっちは思ったより性急な情勢なってる。皆邪魔してくるんだ、バカばっかりっ。でもいくつか打開策を講じてみる。きっとやり遂げるから。あんたはもう休んでて。もう、十分。誰の世話も焼かなくていいから」


ヴァルメシアは治療器の容器に触れ、頭の中に戻ると閉じ、部屋から出ていった。


「・・バカな子」


ヴァルシップは密かに泣き、永過ぎた年月の旅の疲労に、深い眠りに落ちていった。

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