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緑海嘯  作者: 大石次郎
3/48

3話 オレの物 3

耳長女はアマヒコの頬を撫でやがるっ。


「いい器だ。愛された者の匂いがする。くくっ、上手に育てたねぇ、お前」


「こんのっっ」


立て、動け、殺せっっ!!


「雄なのが残念だが、後で改造しよう。あっは」


耳長女は流動化して、アマヒコの身体に溶け込みだしたっ。


「あっ、あああぁぁッッッ!!!!」


気を失ったまま浸食の苦痛に叫ぶアマヒコ。


「アマヒコーーっっ!!!」


アマヒコの髪と背は伸び、大人のようになった。

完全に混ざり込んだ耳長女は不意にアマヒコの胸部から顔を出しやがった。


「チッ、脳のガードが固いなコイツ。手間が掛かりそうだ。調教してやる、ふふっ」


オレは血塗れで跳ね起きた。


「アマヒコはオレの物だ!!!」


突進して飛び掛かるっ。あの女の頭さえ潰せばいけるっ!! 投擲なら間に合うっ、はず何だがっっ、


光輪が、女と一体化したアマヒコの後ろに生じた。同時に胸部の女が大口を開けて、暗い光の炎を吐き出すっ。


オレは反射的に両手でブーストランスを正面に構えて上半身だけでも守ろうとしたっ。一撃、一撃与えらればっっ。


ゴォオオッッ!!!!


死の光はオレの四肢と下半身を消し飛ばし、オレの上半身も半生くらいに焼いて、焦げた肉の床の上に落ちた。背後にもう1つ大穴が空いて白い炎で燃えていた。


苦痛より痺れていて、残った身体が酷く渇いた感覚もある。涙も、出ない。


間抜けだ。オレは間抜け。生活コミュニティの端っこで、ずっと2人で生ゴミ漁っときゃよかった。


マシな暮らしがしたい。何て、


調子に乗ってた・・


「お前、声がいちいち大きい。この侯爵級竜エゥガラレアに対して無礼なヤツ。そこで絶望し、恨み、手に入らないコイツの身体を思い出し、妬み狂って死んでゆくといい。まったく」


女は痙攣して脱力したアマヒコの身体操り、背に竜の翼を生やして、肉の触手の束から抜け出した。


アマヒコが、いや、女が抜けた触手とそれと繋がる巨大な心臓のような器官は急速に萎れ、腐り、死に始めた。


「良い依り代が手に入ったところで、下品な猿めっ。ああ、忌々しい!」


アマヒコを操る女はそう吐き捨てながら、自分が燃して空けた穴から飛び去りだした。その時、


「・・姉、さん」


そうアマヒコの口が呟いたことをオレは聞き逃さなかった。


女とアマヒコの気配が消え去ると、入れ替わりに別の小さな気配が這うように、いや這って側に来た。

説教虫だ。


(大した悪運じゃの。まぁ、ヤツもここで依り代が手に入らねば後が無い。不安定化を避けたんじゃろう)


口が、もう回らない。伝わるだろう。


(おい、お前を喰わせろ。代わりに願いを言え。できることはやってやる。オレは回復して、弟を取り返す)


(ふん。生憎それではお主は竜擬きの魔物に成り下がるだけじゃの。目的を断片的に覚えておっても、相手にならんじゃろう)


虫が、正論言ってきやがる。力が抜けてきた。寒い。


(・・なら、どうすんだよ? 洞窟で、ツガイ探せってか? へへ。・・ならもう死なせてくれ。オレは今日まで幸せだった。たぶん弟もだ。それでお釣りがくる)


(しおらしいことを言う。細々前置きしてる時間は無さそうじゃな。さて、今度ばかりは失敗できんのう)


説教虫は頬の髭を伸ばして操り、焦げて半壊したオレのブーストランスを、熱で髭が焦げるのも構わず回収すると、


バキィボキゴキゴキュゥッッッ!!!!


虫は槍を喰いだしたっ。


(ええぇぇーーーっっっ??!!!)


喰えんのかそれっ?? 完食すると、虫はげっぷを軽くした。


(で、こうなるのじゃ)


にゅーーー~~~っっっと! 浮いた虫は内部から槍の形に縦に伸びて横に縮み始めたっ。


(オイオイオイっっ???)


(多対一ならば短尺長巻(たんじゃくながまき)の方が良いじゃろう)


虫は途中で槍から形を変え、片刃の刀身が長く柄は短めな形に変わった。

変化が収まると刀身に円い目玉が1つギョロッと出てくる。


(お待たせじゃ)


「何でお前が武器になるんだよっ?! 今、関係無いだろっ? ごっほっ?!」


思わず声を出してツッコんだら、吐血して、視界が霞み、血の咳が止まらなくなった。心臓が縮み上がるっ。


あ、死ぬなコレ。こんな死因か・・さっき耳長に焼かれた時に死んだ方がまだ格好がついた。最悪だ。


(もそっと頑張るのじゃ、途中で死ぬと、ワシが死体を操るハメになる。効率が悪いのじゃ)


のじゃのじゃ言いやがってっ、さっきから何がしたいんだよっ? と、


ドスぅっっ!!!!


「っっげ?!!」


視界が利かないから油断したっ、刺しやがった! それも心臓っ。


(殺さなくてももう死ぬっ、つーの・・)


オレの視界は暗転した、ああ、4000年後だか何だかまでの永い旅を始め、


ってっっ!


「痛ったたたたたっっっ???!!!!」


麻痺していた身体中に激痛! 両腕の付け根の傷口と先が無い腹の下の傷口から、肉めいた蔓がさっきの耳長みたい無数に飛び出し、腐り果てかけていた竜の心臓のような器官に喰い付き、吸収しだした。


腐った血肉と一緒に、記憶? も来たっ。


───耳長達のお伽噺みたいな森の郷。子供の頃らしい、無邪気そうなさっきの耳長女。


───人間の機械の兵器に焼かれて、蹂躙される郷。


───焼け落ちた郷に積まれた死体の中から這い出る、子供の女。死にかけてるが、目付きが変わってる。


───光と共に現れる、大樹虫達を連れた草花の冠を被った光の中の女。虫の1体と、血涙している子供の耳長女の目が合う。



・・

・・・

・・・・っ!


「はっ?!」


オレは自分の蔓? で括り付けられて何かの硬い岩? の上にいた。ほぼ裸だが蔓を多重に巻いて下着風にしてあった。下はミニスカみたいになってるだけだから意味あんのか? て感じだが。


というかやたら揺れる。森の、中だな。つーか、手足も下半身ある。左目は変な感じだ。


案外簡単に千切れる蔓を切りながら身を起こしすと、やっぱり森だ。臭いや魔力の気配、植生でわかる。オレは、乗ってる。


これは、スピンロック。怒らせなきゃわりと大人しい大亀の魔物だ。


「何でスピンロックに?」


(寝惚け過ぎじゃ)


っ! 俺は左手に蔓の鞘に収まった、小振りな竜じみた柄に1つ目玉を出す刀を握っていた。柄を縮めた? いやいやっ、


「虫っ! あ、オレ、生きてるっっ」


(うむ。遺骸が完全にダメになり、イズモクラの緑壁も崩れた。あそこは当分荒れる。竜教の中央に既に知れておるじゃろう。さっさと離れが吉なのじゃ)


「おお、何か寝てる間に世話に・・あっ! アマヒコのブーストコダチ取ってこねーとっ」


拾う間が無かった! ちくしょっ、


(腰の後ろじゃ)


言われて探ってみると、鞘も一緒に蔓で括り付けてあった。


「何だぁ・・」


抜いてみる。うん。アマヒコのだ。ここでオレはようやく泣けてきた。


「くっそ~、何だよっ。ちっくしょ~。盗られた! オレのアマヒコっ。弟! オレのなのにっ。うわ~んっ!!」


(情緒に振り幅があるの。じゃがこれからが大変じゃぞ? 因みにワシはラシュシュと言う名じゃ。お主の、名は?)


「ううっ、オレは、ココロだ。イズモクラの森のココロだ」


(よろしくじゃ、ココロ。ワシの新しい竜戦士(りゅうせんし)よ)


「・・はぁ?」


何だそれ??


オレはワケもわからず、スピンロックの背に乗せられてイズモクラの森から離れだしていた。

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