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緑海嘯  作者: 大石次郎
28/48

28話 ロールモデル

死の氷の装置による串刺し、圧殺、切断、凍死。捕獲者への狂気の実験。際限も無く襲いくる改造竜の群れ。

背後でわざわざ姿を晒して嘲笑う少女のような白衣の竜族。


極寒の神殿と隔てる、暗い器の中、捕獲された彼女は恐怖に打ち震えていた・・



───────



ココロ達のいるネア大陸の遥か東、ベゥン大陸の13番竜都地下にヴァルメシアは潜伏していた。


「イ型のエーテル濃度32、33・・」


「ダイアーウルフ・改、正常値です」


「反抗的な傾向があるな、大脳を少し萎縮させるか?」


地下研究施設に整然と並ぶ円柱槽に納められたいくらか身体を機械化された魔物達。

白衣の工学師の僧達が忙しげに作業に従事していた。


ヴァルメシアは、地下で使役し易く改造した魔物や兵士用強化剤や回復薬の量産試験を指揮を任されていた。が、


「・・司教殿は?」


「また奥の個人ラボです」


「懲りないヤツだ。しょせんは花混じり、本来フラスコの中に入れるべき分類さ」


量産試験の形がつくと、傍らに行っていた人工竜狩りの生成実験の続行にもっぱら専念するようになっていた。


様々な意味で信用を失ったヴァルメシアの私的研究に協力する研究員は存在せず人工竜狩りに関する研究フロアには、生身の人間の代わりに小型の作業補助ゴーレムが一定数配置され静まりかえっている。


そこへ、厳重な施錠と魔力障壁を解除して、魔力式の自動車椅子に乗った身体の多くを機械化した白衣の老人が入ってきた。


「ヴァルメシア君! 居直るのも結構だが、最低限度は愛想が無くてはね」


多数の管に繋がれ、寝台に寝て、内部は機械化されていた頭部を解放しているヴァルメシア・・ではなく、人工竜狩り達が納められた円柱槽の様子を見ている白衣の竜狩りらしきピクシーの女に話し掛ける老人。


「商会が穏健派を焚き付けたせいで取り繕えませんでした。どの道長く居られないなら基礎理論だけでも完成させておく必要があるんですよ」


振り返ったピクシーの女はヴァルシップに瓜二つであった。

機械化された老人は肩を竦めた。


「100年分はキャリアを棒に振ったような物だ。それからこの身体のケアも少々雑ではないかね? 私の最高傑作なのだが」


老人は寝台に置かれたまま、頭の開いたヴァルメシアの身体を見ながら言った。


「・・それも寿命が近い感触があります。光の魔法の負荷に耐えられなくなってきている。悪名も広まってしまったし、ドマーェン導師、新しい身体を用意してくれませんか? 今度はブースト商会の研究機関に潜り込みたいのですが」


ため息をつく老人、ドマーェン。


「節操が無いね、ヴァルメシア君。まぁ考えておくよ。・・ところで、君のその研究、本当に必要かい? 竜族等あと300年もすればただの魔物の一種になり下がるはずだがね」


ピクシーの女、ヴァルメシアは念力で機器を操作し、廃棄を決めた実験体十数体を槽の中で解体し、ただの液体に変えた。


「必要です。私は、80年前の千竜神殿調査団の唯一の生き残りとして、責務だと考えています。神殿最下層に! ヤツは確かに生存していました。緑海嘯は必ず再び起きます。そして、今度こそ人類はいやこの星に残された文明の痕跡はっ、残らず持ってゆかれるでしょう。私はどんな形でも、文明を存続させたいのです。我々は、幻ではなかったはず!!」


ドマーェンは機械化された瞳で小さなヴァルメシアを見詰めた。


「根気強いな。私はさすがに次の世界までは付き合いきれないが、今の世界がある限りは協力しよう。もはや弟子と呼べるのも君ぐらいだしね」


ドマーェンはそう言うと、自動車椅子でフロアから去ろうとし、しかし一度止まって振り返った。


「そうそう、私のゴーレム達が北から竜の群れがこの13番竜都を目指しているのを検知したよ? アレは改造された竜達だ。おそらくゼリ・キャンデだろう。面倒臭いので私はお暇するが、君は対処するといい。それじゃ」


ドマーェンは今度こそフロアから去っていった。


「ゼリ・キャンデっっ」


小さなヴァルメシアは小さな拳を握り締めた。彼女が参加した千竜神殿調査団の団員を、最も多く殺害したのはゼリ・キャンデとその罠と眷属達であった。


ヴァルメシア自身、当時使っていた身体をダミーにして逃げおおせている。


「しっかりと、使わせてもらいます」


小さなヴァルメシアは頭の開いた身体を寝台から呼び寄せ、頭に入るとこれを閉じ、その身体の顔で不敵に笑ってみせた。



───────



エゥガラレアに1割取られたとはいえ、ゼリ・キャンデは数千の改造竜群を率いて13番竜都へと向かっていた。

エゥガラレアのような極端な高速飛行はしていない為、追加改造を行わずとも安定的な飛行をしている。

一際大きな改造竜の背に乗ったゼリ・キャンデは雲海の上で月明かりを受け、上機嫌であった。


「ふんふ~っ、どうイジメちゃおっかなぁ? というか、エゥガラレア様だいぶボコされたみたいだしっ。うふふっ、神殿戻るの楽しみ~。というか、あのゼルシュって子、わっちも知らない個体・・何だろ? あの子?? ま、いっか~」


改造竜の背に寝転がるゼリ・キャンデ。


程無く、雲の切れ間に出ると前方眼下に1魔力灯の照明が光る3番竜都が見え、警報が鳴り響きだした。


速攻で、地上からの対空砲火でいくらかの改造竜が魔力障壁を破られて撃墜される。


「ん~? 何か対応早くなーい? 探知されてた? おっかしいなぁ??」


エゥガラレアは無関心どころか不快に感じていたが、ゼリ・キャンデの改造竜には探知対策機能があった。

それは多少技術がある程度の現行人類で打破できるレベルの物ではない。


(探知特化の竜狩り? それとも何か古いヤツ、が協力した? 真似っ子の技術はまだそこまで来てないはずだけど・・)


ゼリ・キャンデが戸惑っている内に、砲火は増し、投入された武装飛行船や飛行艇の猛攻が始まり、さらには改造された飛行種の魔物の軍勢まで何万と投入され始めた。


「オイオイ、ちょっと、調子に乗り過ぎじゃなーい? ・・終末思い出しちゃうし!」


4割の竜を撃破されると、竜の特徴を増して苛立つ素振りのゼリ・キャンデは残存6割の竜を総数が10分の1になる程度に融合、強化させて反転攻勢に転じさせた。


「アハハッ! ビックリしちゃったけど、やっぱりこの程度・・ん?」


一際魔力障壁の強い飛行艇が突進してくると、撃墜間際に後部ハッチを炸裂させて複数の大型飛行種を掛け合わせた改造された魔物に乗って、アイマスクはしていても竜狩りの特徴は隠していないヴァルメシアが現れた。

爆笑するゼリ・キャンデ。


「ハハッ、ちゃっほーっ、真似っ子君! どんだけわっちの真似してくんのぉ?!」


乗っていた大型合体飛行種の魔物をゼリ・キャンデの乗っていた融合改造に竜にぶつけて障壁を破り、2体で争わせ、光を纏って、ゼリ・キャンデの障壁に激突するヴァルメシア。


「確かに! 逆説的ではありますが、私のロールモデルは貴女何でしょうねっ、ゼリ・キャンデ卿!!」


「はぁ? 何、知り合いだっけ? ちょっとキモいかも?」


ヴァルメシアを弾き、近くにいた融合竜数対空をブーストウェポン状の複合武器に変形させて両腕に装着するゼリ・キャンデ。


「その魔法、速いけどあんまりコントロールできないんでしょ? これは、どう?」


複合武器から無数の熱線を放つゼリ・キャンデ。躱しきれないヴァルメシア。


「ちゃっほー! 死んでよっ、君!!」


「・・圧倒的な力、資源、技術の差っ」


「ん?」


「悪意! 探求心! 倫理を超え、平然と生命の禁忌を超えるその実行力!!」


避けながら称えるヴァルメシア。


「何? わっちのファン? ちょっと~、本格的にキモいよ? 何なの、君」


躱しきれず、損耗し、アイマスクを砕かれ、と片目を焼かれながらゼリ・キャンデの障壁に再び激突し、先程の激突で得た情報を元に組み直した解除魔法式でゼリ・キャンデの魔力障壁を解くヴァルメシア。


「っ?!」


両腕を犠牲に高出力の光の槍で複合武器ごとゼリ・キャンデの両腕を砕き魔力で強化した花混じりの蔓をゼリ・キャンデの胴体を絡め、さらに両足でゼリ・キャンデの胴を挟むヴァルメシア。


「キモッッ」


触られたことに何より激怒し、口から滅びの光を撃とうとするが、口付けで口を塞がれるゼリ・キャンデ。


2人を取り囲む捕獲と自爆の魔法式が展開される。

ゼリ・キャンデはヴァルメシアの舌を噛み切って吐き捨て、周囲を囲む式の障壁で焼き払った。


「マジキモいし、無意味だから、わっちのこの身体はただの分体だから」


(最大の恐怖に心を砕かれた私は恐怖その物と一体となることで、道を開きました。取り敢えずその身体を介して、本体にもそれなりのマナウィルスを送らせてもらいましたよ? 今ならわかります、臆病な貴女。可愛いゼリ・キャンデ。本体はあの竜王の側から少しも離れられなくて、ずっと千竜神殿に引き籠ってるんですよね?)


口から血を流しなが思念で嘲笑するヴァルメシア。


「何なのっっ?! 君さぁああーーーっっっっ!!!!」


閃光が迸り、ゼリ・キャンデの分体とヴァルメシアの身体は消滅し、制御を失った融合竜達は13番竜都の軍勢に駆逐されていった。


後日、ヴァルメシア特務司教の葬儀は英雄として盛大に行われたが、彼の私的研究の成果は事前に廃棄されていた為、13番竜都首脳は内々には酷く毒づいていた。

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