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緑海嘯  作者: 大石次郎
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2話 オレの物 2

古代都市イズモクラに人影は無く、魔物も野生動物も見当たらない。


ここでは花混じりか竜その物、あとは竜除(りゅうよ)けの術を使う竜教のヤツら以外はうっかりすると浸食される。


だが、例外もいる。


「キシキシ・・」


「チチチッ」


「シュー」


物陰から囁き鳴きながら俺達を伺う、犬くらいの大きさの虫達。


モヒカン毛に芋虫みたいな体。大きな目。全体的に丸っこくて、遠目に見りゃ可愛い気がするが、近くで見ると名の通り、竜のようなザラついた表皮と不規則な角みたいな突起があちこちある。


結構キモいし、敵、て感じの見た目だ。


大樹虫。竜の遺骸の側に必ず涌く虫。水と土しか食わないからたぶんコイツらも光合成してる。

魔物達は竜の臭いのするこの虫を嫌がって喰わないが、人間やオレ達は見てると食いたくなってくる。


死んだ後も終わらない、樹の竜達の呪い何だと思う。


「見てやがる。チッ。相変わらず旨そうだな。バターで焼きてぇ・・」


「ココロ姉さん」


「わかってるって」


オレ達は、上等なザリガニと鳥肉と熟れた柿みたいな味がする虫達はほっといて、廃都市を急いだ。


「でも、虫は多い気がするね」


「だろ? 絶対何かある。こういう時、ロクなことにならないっ。何もしないでいると、運任せだ! オレは自分で選ぶぞっ?」


「姉さんらしいや」


「へへ」


褒められた。もう来てよかったぜ!



前の建物から遠いから身体から蔓を伸ばして、浸食されて硬化した柵に巻き付けて蔓を引っ込めて自分を引き寄せる。


2人で遺骸の側の30階建てはある箱みたいな形でやたら戸数のある塔みたいた建物の屋上まで来た。


妙に天気悪くなってきたな・・


寺院のヘバり付いた竜の遺骸は翼を畳んで伏せた姿で石化、結晶化、一部は森のように変わってる。

デカ過ぎだ。小山くらいある。あと2000年くらいしたらほんとに山に還っちまうんだろう。


だが、そんなことより!


「アマヒコ、当たりだったな」


「うん、酷いね」


近くで見てわかった。遺骸の奥から異様な魔力を感じた。

加えて、竜の血の、目と耳で見て聴くと、見える。聴こえる。


「ンンアー、ンアーーッッ」


「ぐ、くく、苦し、死死死に、たい・・」


「感謝しまふぶぅうう、あいりぅがどぅうう!!!」


大樹虫を何匹も一気食いでもしたのか? て勢いで、竜教の坊主達が花混じりの成り損ない、正気の無い花屍(はなしかばね)になって寺院の屋外を徘徊してる。


「死んだ竜の一部が復活したのかもしれないよ? 逃げよう、姉さん」


外からチラ見で逃げんのはちっとカッコ悪いが、術が使える竜教の坊主、恐らく数百人を丸ごと壊滅させてる災いだ。


「状況わかっただけ収穫だ。家に戻って必要なもんを」


ドォウッッッ!!!!


言い終わらない内にっ、


竜の遺骸から、寺院の一部を突き破って、鱗を持つ植物の根のような触手が噴出して、オレ達を狙ってきた!


オレは咄嗟にブーストランスで鉄みたいに硬い触手を切り裂きながら避けたが、


「あっ?!」


屋上を数割削って迫った触手に弟が掴まったっ。


「アマヒコ!」


「姉さっ、逃げ」


触手は襲って来た時と同じ速度で遺骸の中に引き戻される。


「ふっっっざけんなっ!!!」


オレは蔓を柵に掛けて飛び出しっ、伸ばしと縮めを調整していける速度で触手が引っ込んだ付近のブチ抜かれた竜教寺院の一部に着地した。


「オォアーッッ」


「なぴるぷるるぅぅっっ」


花屍どもが集ってくるが、切り飛ばして遺骸に空いた穴に突っ込んだ!


中はある程度までは寺院の構造物が入り込んでて、ここまでは花屍どもがいたが、さっさと抜けるっ。


さらに進むと、結晶化した筋肉っぽい筋があちこち張った空間に出た。


骨は肉の膜? や塊だった結晶もあちこちある。


こうなっても竜の臭いと魔力が濃厚で噎せそうだ。身体中の竜の血が騒いでタガが外れそうになるが、言ってらんねぇ!


オレのせいだっ。遺骸の気配を変に感じたならすぐ逃げりゃよかったんだ。

いい気になってた。2人で森に逃げてきた時はいつもブルってた。

だけど段々強くなって勝手がわかって、森で取ったもんを竜教のヤツらと交換して必要なもんがどんどん手に入るようになって、何だ楽勝じゃねーか? 何なら生活コミュニティのヤツらより断然いい暮らし! ざまぁみろっ。


アマヒコも独り占めだし、マジここ天国!


なんて思ってた。


甘かった。思えばずっと罠だったのかもしれねぇ・・



触手の通った大穴を辿って竜の命に近い気配の場所まできた。

結晶化が甘く、肉っぽい。生臭さがあって、夏の湿地で狩りをした後みたいだ。


「くっさっ。最悪だぜ」


マフラーを結んで鼻と口元を覆って、先に進もうとした。


(やめておくのじゃ)


思念?! 頭に直接響いた。こういう攻撃をしてくる魔物もいるっ。

オレは飛び退いた。ブーストランスを構える。


大穴の陰から大樹虫が1体現れた。妙な姿! 鬣と髭と身体の突起に鱗もやたら発達している。


大樹虫が思念を使うのか? いや、まず自我何てあったのか??


「何だお前? 2人で十何匹か喰ったの恨んでんなら悪かったなっ」


(猿が森の木の実を捥いでもいちいち怒らんのじゃ)


「ああんっ?!」


(落ち着け、お主の弟はこの先におるがもう手遅れじゃ。竜が甦ろうとしておる。じゃが、ヤツらもやがて自滅する。生態系を構成するには強過ぎるからの。4000年もすれば、人間はともかく、お主達花混じりは次の世界で暮らせる。お主は健康そうじゃ。どこぞの僻地の洞窟の奥でツガイを見付け、命を繋ぐとよい。時の果てで、また弟の魂と)


「4000年だとっ?! 遠いわぁーーっっ!!!! 今のアマヒコはオレの物だっ!!」


変な説教虫はほっといて、オレは大穴の先へと突進した。


(お主に虚しい運があれば、またの)


捨て台詞みたいに思念を送ってきやがったが。



酸性の蒸気! 花混じりの身体と魔物の革や骨から作った装備は耐えられが、普通の布の部位は溶けだした。目も痛ぇし、クソっ。


酸まみれの竜の命を感じた場所には、結晶化が解けきれてなく見える心臓のようなデカい肉塊があった。生きてるが拍は上手く打ててなく見える。が、


んなことよりもっ!


「アマヒコ!!」


肉塊の根元で蠢く縮んだ触手の束の根元に、半ば取り込まれた半裸のアマヒコがいた。

近くにブーストコダチが落ちていて、意識を失ってるっ。


「今、助けてやんよ!」


「ダぁメだね」


「っ?!」


肉塊から耳の長い女の顔が浮き出てきた瞬間っ!


縮んだ触手の束が、さっきの倍の速度と精度でオレをめった打ちにして、左目も潰した。


「かっはっっ・・」


意識が途切れそうになるが、まだ! 指が何本か取れちまってる手でオレはブーストランスを握って、首だけでも起こしたっ。


「この時代にまでブーストウェポンか。鬱陶しいっ、こんな半端者でも仇になる」


顔だけだった女は血肉の帯を引きながら、肉塊から身体ごと抜け出て、蛇のようにアマヒコに絡み付いた。

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