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緑海嘯  作者: 大石次郎
19/48

19話 夢

ティアビルケン号の拠点はミスリル鉱山跡の一角にあった。鉱山跡は荒廃し、魔物だらけ。

が、終末の戦いの影響で結晶化現象に巻き込まれて緑が再生しなくなったエリアは魔物も済み辛く、そこの高所に隠し港が作られていた。


入港すると、港自体が年季の入った生活コミュニティだった。7割方花混じり。

文明レベルはブースト商会の拠点くらいだが、船の設備は竜都並みに進んでる。


「ゴホッ、ここの環境で水取れるのか? 花混じり以外はキツそうじゃね?」


回復術に飲み薬に湿布も貼って、穴空いた防具を取った胴に包帯でグルグル巻きにしてるが、ちっと喋り難いな・・


「濾過装置周りはコスト掛けてる。水自体はあちこちから取れるよ? 鉱山跡だし、私達以外だ~れも使ってないし!」


何気に船から降りてるの初めてみるヴァルシップはオレのお花畑な頭に乗っていた。動くからこそばゆい。

コミュニティの連中から声を掛けられると愛想良くしてる。顔、て感じ。


(まず人類の人口回復はまだまだ低調じゃ。人間以外の種族を含めても世界に4000万人弱といったところじゃな)


「そんないるのかよっ? ゴホッゴホ、生活コミュニティ何て船乗ってないとたまにしかねーぞ?」


(ココロよ、世界は広いのじゃ。それに終末前は総人口は100億を越え、星の世界にまで人類は居場所を求めたものじゃ)


「100億・・っっ、ケホッ、ヴッ」


増え過ぎだろ人類! というか自分の咳がウゼぇっ。


「人口爆発に文明の発達が追い付かなかった結果の破綻。何て説もあるよね。というかココロちゃん、ここいい回復槽(かいふくそう)があるから休みな~」


「せっかく糧食ったのに、顔白いぞ?」


(必須。休息)


「おお・・コホッ」


(ゼリ・キャンデの対策は練っておくから一先ず休むのじゃ)


「いやまぁ、あんなヤツどうでもいいだけどよ・・コホッコホッ」


急に変なのに絡まれただけで、オレの目的はあくまでアマヒコの奪還だ!


そう、そうだ。それがオレだ! アマヒコだけは守るっ。そう考えて生きてきた。


それだけが、オレだ・・



敏感なはずの嗅覚は最初にバカになった。

オレ達が育った生活コミュニティはわりと発達してて石炭を使ったりしてたけど、倫理的な基準はガバッてるとこだった。


住んでたゴミ捨て場は花混じりの浮浪者達の縄張りで、普通の浮浪者が迷い込めば人も喰うヤツらに捕まって喰われる。

それを当て込んで邪魔なヤツや死体もここに棄てられた。


何かの病だった花混じりの母親はいつも死に掛けていたが、竜の血がそう簡単には死なせなかった。

あまり正気の女じゃなかったが、同じことを延々繰り返しオレに言ってきた。


「オレ達は、人間じゃない」


「食える物は何でも食え。消化できる」


「人間は喰うな。知性が落ちてくる」


「大樹虫は相手にするな。手駒を増やすつもりだ。騙されるな」


「弟のアマヒコを守れ。アマヒコはお父さんに似てる」


「ここは安全だ。いい思いをしようとするな」


母親はいよいよ具合が悪くなると、「弟のアマヒコを守れ」と「アマヒコはお父さんに似てる」といったようなことしか言わなくなった。


さらに悪化すると寝たきりのまま、アマヒコを父親と混同して、甘えて話し掛け、幼いアマヒコを恐れさせるようになった。


ある雨の日、母親は身体中の花と蔓をコントロールできない程悪化した。錯乱していて、アマヒコと2人にさせられないから、アマヒコに一応、手作りのボウガンを持たせて、薬師の真似事をしている花混じりのところに呼びに行かせた。


オレはトゲを出したうめき続ける母親の蔓に傷付けられながら看病したが、不意に静かになった母親は次の瞬間、燃えるような目でオレを睨んだ。


「お前、誰だ? あの人をオレから盗るつもりだな?」


「違うっ、オレはお前の子供! アマヒコはオレの弟! お前の」


「お前っっ、誰だぁ?!!」


竜の血を暴走させて、母親はオレに襲い掛かってきた。

トゲの蔓で首を絞め上げられる。枯れて腐り掛けた母親の花弁が落ちてく。


ああ、疲れたな。オレ達は失敗だ。運のいいヤツらもいるんだろう。コイツはもう死ぬ。アマヒコは1人でゴミ漁れるようになってきた。

オレ達が消えても、返ってアマヒコは身軽になる。


アマヒコ、お前は運のいい方に回れよ?


ほわほわの頬っぺた。小さい手。冬寒い時、くっついて寝ると温かい。


オレと違う、それだけはいつもよくわかる花混じりの匂い。


お前に逢えたのだけはオレは運よかった。


カシュッ。軽い音。


矢が、血走った目の母親の眉間を貫いた。


見れば雨の中、唖然としてる薬師の婆さんを連れた小さなアマヒコが、ボウガンを構えたまま凍り付いたように立っていた。


「ココロは、僕が守る」


アマヒコはそうはっきり言った。その目は燃えるようで母親にそっくりだった。



オレは薬草だらけの水槽の中で目覚めた。

呼吸マスクを付けられてる。

機器の調整をしてくれてたらしい、船の制服のヌヨは椅子でうつらうつらしていた。


オレのナガマキは柄を短く畳んで蔓の鞘に収まってソファに立て掛けられていたが、近くのテーブルにほぼ実体があるくらい濃く出現できるようになったラシュシュが姿を表した。


(すまんの、今のワシはお主と繋がっておる。もう少し、眠るといいのじゃ)


何か術を使われたワケじゃないが、オレは言われるまま酷く眠くなって、そのまま眠りに落ちた。


もう夢は見なかった。



───────



千竜神殿の奥深くで、エゥガラレアは適当に組み直して再起動させた守護のゴーレム数十体を相手に肩慣らしをしていた。


変わらず首からしたはアマヒコの男の身体であったが、竜族らしく武装して飛翔する様はもう慣れきった物であった。


単純な攻撃力だけなら男爵級竜並みはある千竜神殿のゴーレム達は、指示通りに最大の機能でエゥガラレアに襲い掛かり熱線を放ったが、軽くあしらわれていた。


左の指先から滅びの光を放って何体も貫通させて誘爆させ、右手から炸裂する滅びの球体を放って数体を消し飛ばし、左の蹴りで切り裂き、右の踏み付けで砕き、炎の両拳の連打で融解させて弾き飛ばし、残りは口から滅びの炎を吐き出して焼き尽くし誘爆させるエゥガラレア。


「ちゃっほー。絶好調じゃないですかぁ? エゥガラレア様っ。よっ、イケメン!」


全く無傷に見えるゼリ・キャンデが、術を施した透明のケースに切断された斬り口が燃え続ける自分の細腕を納めた物を持って現れた。


「・・カノレアとシノレアからの報告が途絶えた。暇潰しなら他所でやれ」


宙から見下ろすエゥガラレア。


「いや、あの2人! せっかくパワーアップしてあげたのにバチキレしちゃってっ。わっちの分体ブチ殺してどっか行っちゃいましたよぉ?」


「・・・」


コイツに絡まれないよう、別の侯爵級竜を神殿に招く必要がある。と今さら思い至ってため息をつくエゥガラレア。


「それより見て下さいよエゥガラレア様! この斬り口っ。ラシュシュですよラシュシュ! 弱体化して花混じり何かと契約してたから封印してやったら、この有り様!! コレ、契約者を完封した状態でですよ?」


エゥガラレアは失笑した。


「ハッ、ヤツはそこらの大樹虫とはワケが違う。女神の騎士だ。私と共に最強の名をほしいままとした者だぞ?」


「えー?」


「・・で? どう何だ?」


「何がですか?」


「その! 完封された、という間抜けな今のラシュシュの契約者だ。ヤツが認めた、ということは未熟でも見込みはあるのだろう。まぁ、特段気にもならないが」


前髪をしきりにいじるエゥガラレア。


「へへ、お姉ちゃんですよ」


「? 姉??」


「そのボディのお姉ちゃん、ココロちゃんですよ! ふふふっ」


「何? うっっ」


唐突に身体のコントロールが効かなくなり、全身からトゲと花々の蔓が噴出して蠢きだし、出血して苦しむエゥガラレア。


床に滴った血から下等な竜の魔物が姿を現そうとしだす。


姉弟(してい)愛っ! 素敵! ・・ 面白い反応何でちょっと採血していいですかぁ?」


近付く素振りに手刀で滅びの炎の刃を放って牽制するエゥガラレア。


「おっとー?」


回避するがおどけた挙動でケースを取り落とし、割れた腕が外気に触れると傷口から一気に焼き尽くされていった。


「下がっていろ!」


「はーい。ホント、短気何だからぁ」


肩をすくめ、背から翼を出してゼリ・キャンデは退散していった。


「ラシュシュっ、軽はずみなヤツ!!」


どうにかアマヒコの意識を抑え付け、エゥガラレアが苛立たしげに唸った。

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