18話 主人公っぽいよね?
霧が晴れると、気だるいような? 音楽が流れる奇妙な場所にオレ達はいた。敷地が拡大してる。空や遠くはピンク色の霧に覆われて見通せない。
どれも派手に、でも子供っぽく飾り立てられていて、調度品を詰め込んだ箱庭に入れられたみてぇだ。
回転する木馬。トロッコみたいだが同じとこループしてる乗り物。風車の端に小部屋をたくさん付けたワケわからんヤツ等々。
人工物だらけだ。これはいつかの死にたがりの子爵級竜の術と同じパターンだな・・
オレとヌヨとジンフーは子供にはされてないが、防具の代わりに竜都の神学生が着てるのをだいぶチープにした感じの制服を着せられていた。
それぞれの竜滅器は持ってる。
「気を付けろっ。こういう術、使ってくるヤツはまともじゃねーぞ?」
「こ、これは、古代のレクリエーション施設。遊園地、ですねっ。クレープやチュロス等を食する傾向があったとか!」
「はぁ?」
「ヌヨ、それは何をする場所なのだ?」
「ですからっ、レクリエーション施設なのです!」
(それよりお出迎えじゃ! どうやら今回は死にたがりではなさそうじゃぞっ?)
(悪趣味よね~)
(ノー、レジャー、ノーライフ!)
霧の向こうから・・武装した動物の着ぐるみ軍団が走り込んでくるっ!
「何で着ぐるみだよっ??」
「悪夢です!」
「動き難く、視界も悪い。恐るるに足らず! ゴゴシュっ」
(ダル~)
「竜のニオイはしてるっ、殺る気ならやってやんぜ!」
ワケわからんまま乱戦になるっ。
襲い掛かってきた着ぐるみをまとめて4~5体斬り棄てると、中から出てきたのは爬虫類型の人っぽいヤツら。騎士級竜だ! 人の形をしてるが正気じゃなかった。
「ゼリ・キャンデワールドにようこそ! 皆、お友達だよっ!!」
カン高い作り声で喚いて滅びの火で燃えて死んでゆく。
(ゼリ・キャンデ! また厄介なヤツに絡まれたの)
「知り合いかよっ」
(子爵級竜ながら工学と魔術に長け、終末の戦いを悪化させた元凶の1人じゃ!)
「元凶??」
喋れる竜は全員イカれてる気がすんだが・・と、
「はーいっ、風評被害入りましたぁ。抗議しまーす」
回転する木馬の装置の上にいつの間にか、白衣を着た小娘・・いや、小娘に見える竜がいた。魔力が強い!
(ゼリ・キャンデじゃっ!)
(ソウ、キュートっ!)
(あたし、コイツ嫌~い)
「ぬんっ」
速攻でジンフーは曲者らしいゼリ・キャンデに風の刃を放ったが球形の魔力障壁に遮られ、乗ってた回転する木馬の装置をブチ壊しただけだった。
「まず第一にぃ」
浮き上がりながら講釈しだすつもりらしいゼリ・キャンデ。こんにゃろっ。
オレは着ぐるみ軍団を斬り払いながら突進を始めた。
「セントラルマナドライブの暴走は人間が調子こいた結果だしぃ。ま、システムにマナウィルス送り込みまくったけど、そこはお互い様だし~。わっちの多次元プログラムが完勝! て感じだったのは言うまでも」
「おっらぁーっ!!!」
球形の魔力障壁を叩きってやったが、竜化させた左腕の外骨格で弾かれた。
オレはティーカップの装置に着地した。
「というか、ラシュシュ君さぁ、凶暴な子としか契約しないよねぇ? 趣味悪ぅ!」
「ココロさんっ」
「ココロ!」
ヌヨとジンフーも着ぐるみ軍を退けて追ってきた。
(何が狙いじゃ? お主は永く、暇にしておったはずじゃが?)
「狙い? う~ん、成り行き? 行き掛かり? あとちょっと、じっけーん!!」
何かの遊戯施設2つを突き破って、黒と白の、妙に着ずだらけであちこち焦げた首輪をした竜が現れた!
(ぬぅっ?)
「竜の身体を失った弱体化竜の再竜化でーす! あの司教君にちょっと対抗しちゃおっかなぁって」
「頭オカシイの同士で競ってんのかよっ」
「口悪いよね? カノレアちゃん、シノレアちゃん、頑張ったら首輪取ってあげるよ? 頑張れないならぁ・・お仕置き!」
首輪が放電し黒白の竜は苦痛に吠え、すぐにオレ達に突進してきたっ!
辺りを破壊しまくり暴れる黒百の竜!!
(ゼリ・キャンデを片付けんとどうにもならんっ。カノレアとシノレアはヌヨとジンフーに任すのじゃ!)
「のじゃ、って言うの簡単だよなっ! ヌヨ! ジンフー! いけるかっ?!」
「無論っ!」
「どうでしょうかぁっ?」
ヤバそうだが、他に手は無ぇ! オレは滅びの火を吹く黒白竜を回避しながら、ヌヨとジンフーをその場に残し、ゼリ・キャンデに宙を駆けて打ち掛かる!!
ゼリ・キャンデは翼を出させた着ぐるみ達に自爆突進をさせてオレを妨げてくるっ。
「鬱陶しい攻撃してくんなっ!」
「してくんなっ、だって! ふふ、可愛っ。エゥガラレア様を狙ってる子ってどんな子かと思ったら、ちょっと面白いなー。まだ、もったいないかぁ??」
地上に近いとダメだっ。コイツ、手下をすぐ自爆させる! オレは強引に連打を打ち込んで、交戦の高度を上げ、風車みたいな設備の頂点近くに互いに着地した。
「観覧車、いいよねー。わっちは陰キャだったから、彼氏でも友達でもこういうの、来たかったわぁ」
「ふざけ」
「乗ってみる?」
「あ?」
急加速っ。反応できない攻撃で竜化して右手で首根っこを掴まれた状態で竜化した左の拳を腹に打ち込まれ、オレはヘドを吐いて意識が飛びかけた。
(ココロ!)
ゼリ・キャンデは嗤ってオレの首に首輪を掛け、風車の小箱の扉を引き剥がして、中の玩具じみた座席にオレを放り込むと隣に座ってきた。
ラシュシュのナガマキが炎を上げようとしたが即、どこからともなく取り出した札付きの鎖を巻かれて力を封じられた。
(ぐっ、ボンボシュ! ゴゴシュ! 竜達の首輪を狙うのじゃっっ)
(イエス!)
(やってみる~)
「ココロ君、って言うんだぁ」
腕に腕を絡めて頭を預けてくるゼリ・キャンデ。鳥肌が立つっ。
「テメっ、ぎゃんっ?!」
どうにか殴ってやろうとしたら首輪から電撃が放たれてまた意識が飛び掛ける。ヤツの白衣も焦げたが知らん顔してやがるっ。
「何かココロ君、主人公っぽいよね? わっち、竜になる前はイジメられっ子だったからさぁ、でもココロ君なら、ヤメロよっ! とか言ってくれそうー。そんな友達欲しかったなぁ。あ! そんな友達に改造しちゃおっかな? エヘヘヘヘっっ」
「っ!」
嗤う両目の底が真っ黒だ。コイツっっ。
オレが息も切れ切れ絶句していると、ラシュシュが溜めてたらしい魔力を炸裂させて札の鎖を弾け飛ばし、爆炎を放って小箱をブッ壊した。
即、絡まってたゼリ・キャンデの片腕を切断し、
「いったぁっ」
勢いのままオレの首輪も切断した。
(上じゃ!)
「おおっ?」
言われるまま何とか宙蹴ってさらに飛び上がると、宙に残されたゼリ・キャンデに、首輪の無くなった黒白の竜が大激怒で前後から突進してきた!
「ふっ」
面白がる風なゼリ・キャンデに間近で最大の滅びの炎を前後から炸裂させる!!
大爆発が起こり、オレはラシュシュがわざわざ虫の霊体を出して張った魔力障壁に守られながらさらに上空に吹っ飛ばされた。
「だぁっ?!」
ピンクの霧を抜けて天井に激突し、そのまま結晶化した鉄道の車体に落下した。
「痛ぇっ」
「ココロさん」
「ココロ!」
「おーいっ」
「お前らも出られたのかぁ?」
(ココロの損耗を確認)
ヌヨとジンフーだけでなく、モパヨーヨとデデヨジカも無事だ。全員服も戻ってる。
「・・ラシュシュ。アイツ、アレで死ぬ玉じゃないよな?」
(当然じゃ、本体であったかどうかも怪しいのじゃ)
くっそ~。何か、耳長のことも知ってる風だったが、起きれねぇっ。
オレはモパヨーヨの蔓で引っ張り出されるのをされるがままになっていた。