17話 長居は無用
ティアビルケン号に一室だけあるまともなゲストルームに、いまいち着慣れない平服代わりの大昔の水兵みたいな揃いの制服を着たオレ、モパヨーヨ、デデヨジカ、ヌヨ、ジンフーはいた。
竜滅器はそれぞれの手元だ。
「おい、デデヨジカ! もう1回だっ。次は2駒落ちでだぞ?」
「またか? 仮眠、取りたいんだけどなぁ」
モパ公はハンデを付けてもらって延々デデヨジカと、結構ルールが複雑でオレは嫌いなハーミットチェスをやってる。
(・・おい、あのアピールはひょっとして、アレか?)
オレは思念でモパ公とデデヨジカ以外の部屋にいるメンバーに話し掛けた。
(そ、そのようですねっ。意外ですが!)
(我輩の苦手分野ではあるっっ)
(放っておいたらいいんじゃ)
(いいんじゃないの~?)
これはジンフーの竜滅器ゴゴシュ。
(ラブイズオーバーっ!)
これはヌヨの竜滅器ボボンシュ。
(表明。困惑・・)
オトシュな。
ま、とにかく、一仕事終えて、特にオレとモパ公は竜の糧をまた食えそうだから、目星の付いてるとこに船で向かってる途中だった。
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騒動後の動きは、
78番竜都の聖堂地下で花屍の実験が行われていることは世界中のブースト商会がほぼ独占してる水晶通信網を駆使して速攻で明るみにされた。
竜教は当然知らぬ存ぜぬ! 証拠も消され、当のヴァルメシアも生き残りの研究者を連れて竜教の中でも強硬派の連中の庇護下に移ったらしい。
記録に取った花屍擬きや侯爵級竜並みのヴァルメシアに対抗する術は各商会で研究されることになった。
商会は竜教の穏健派なんかとも連携しだしたらしい。
竜狩りを組織化するって話も出たが、商会の呼び掛けに応じたのは1割程度。微妙・・
悪目立ちする形になったリーラは商会から助成金はたんまり出ることになったが、店を畳んで商会本体の預かりで引き続きジラ達(まだ回復してない)を使って調査に当たることになった。
商会周りはそんな感じ。
ティアビルケン号組は今んとこ特に縛り無く動いてる。
ヴァルシップがどう考えてるのかは正直よくわかんねーし、オレもオレの立場がいまいちピンときてねーが、取り敢えず今後も激マズなエネルギー源を食いにいくのは確定だ!
───────
・・・船は、ほぼ崩れて森に帰りつつあるとある緑壁の外側近くに降りた。
「壁の向こうに生活コミュニティがあるけど、ちょっと魔術を発達させてる人達ね。兎系獣人達とも共生してる。花混じりの土地への定着は無し。イズモクラと景色は似てても状況は全然違うからね?」
淡々としてるヴァルシップ。関係あるっぽいヴァルメシアのこと突っ込んで聞いていいのか、わかんね。
「それはまぁ。つーか竜の糧はどの辺?」
「ここは来たことがある。地下部分さ」
「へぇ?」
デデヨジカが案内できるらしい。
「当面、ヴァルメシアからの手出しは無いだろうが、遭遇したっていう双子竜はキナ臭ぇ。今回は船の補修があっからバックアップの備えはないからそのつもりでな」
「おお」
「了解ッス」
脱出挺は結構ボロボロのまんまだった。
(気を付けるといい・・)
前もだが、ウラドーラの虫の思念は聴こえても姿は無し。この間、格闘で戦ってたし、どーなってんだ??
聞くタイミングが無いまま船を降りて、オレ達は何か、イズモクラの森っぽい雰囲気の森の中に立った。
「オイラとデデヨジカが先頭だぞ」
「モパ公は案内できないだろ?」
(メルメシュとデデちゃんが案内するよ?)
「オイラとデデヨジカが先頭だぞっ!」
「うっ、わーったよ。前歩くくらい好きにしろよ」
押し、つえーな。
壁の向こうは元はハルヨデと呼ばれた竜の遺骸があった遺跡都市。もう100年以上前に竜の遺骸は失くなってるらしい。
復活して退治されたのか? 去ったのか? 遺骸をまんま片したのか? 今となっちゃはっきりしないが、今は人が住める状態になっていて生活コミュニティができていた。
人間と兎獣人とその混血主体。だいたい火縄銃使うくらいの凡庸な文明レベル。
ただヴァルシップが言ってた通り、魔法の技が残ってるつーか、ちょっと復古してる。日常生活用に小さな灯りや火を灯してみたり、軽い念力使ったりってのはできていた。
服装も何か、魔法使いっぽい? 気もする。
「それほど強い魔力は持っていないようですから、土地の魔力を活用しているようですね・・」
(マジックパウワっ!)
「我輩としては混血が多いことに驚いているのである!」
(虎獣人は怖がられるからね~)
一応フード付きマントを着てるが、変なヤツらとは思われても、やたら警戒されるってのはなかった。
元の遺跡都市を活用してわりと規模が発達してるのも大きいのかもな?
「本当に、封鎖エリアに行くつもりかい? ブースト商会の推薦状は持ってるようだが・・」
生活コミュニティの役場で困惑されながら、デデヨジカが手数料を納め、手続きは済んだ。
出店の並ぶ通りを抜けて進んでく。旨そうな匂いだ。これからマズいもん食いに行くから余計誘われちまうぜ。
「キョロキョロしてると日が暮れる、こっちだ」
「遅れるてるぞ?」
さっさと、居住区から遺跡が原型を留めてるエリアに進むデデヨジカとモパヨーヨ。
「ちょ、待てよー。何か買い食いとかしてかねーのか?」
(ココロよ、お主がオレオレ言うとる内に置いてかれそうであるのじゃ)
「っさいなー」
ラシュシュにイジられつつ、オレ達は遺跡に向かった。
この生活コミュニティは遺跡の発掘や中の珍しい魔物退治も収入源になってるから、そこそこ道が整ってたりもした。
封鎖エリアの魔物をサクっと片しつつ、ここで買った資料と商会やヴァルシップが用意した資料を参照にしながら、ぐんぐん進み、目当ての竜の糧までたどり着いた。
「何だこりゃ?」
草と若木の中間みたいな光る何かだった。
「ウドっぽくはあるが、まぁ竜の糧だ。ヴァルシップの見立てだと俺とヌヨとジンフーは1割ずつ、ココロは3割、モパヨーヨは4割摂取できるらしい。メルメシュ達はどう思う?」
(それでいいと思う!)
(同意)
(モパヨーヨは燃費が悪い気がするの)
(ノー、イート、ノーライフ!)
(いいんじゃな~い)
オレ、3割か。これまでの感覚だと侯爵級はまだ遠いな・・
調理したいがそうもいかず、オレ達は味覚が特殊なモパヨーヨ以外はモソモソと生臭い竜の糧を分けて完食した。
「うう、相変わらずヒデぇ味だが、力は高まるなっ」
「久し振りに食べました・・」
「むむ??」
強くはなった! 今なら司教の光の剣1本くらいなら軽く砕けそうだぜっっ。
(長居は無用、とっとと帰るのじゃ)
「しゃっ」
用の済んだオレ達は遺跡を引き返し、地下を通ってたらしい半ば結晶化した電気式の鉄道が転がってるフロアに差し掛かった。
だが、
(ココロ!)
「お??」
ピンク掛かった、濃い霧が辺りを覆い始めた。前のデデヨジカとモパヨーヨが霧に包まれて見えなくなり、オレは咄嗟に蔓を伸ばしてすぐ横を歩いてるヌヨとジンフーに絡めた。
「何かヤベーぞっ?」
「は、はいっ」
「これは竜のニオイである!」
オレ達3人は霧の中、構えたっ。