16話 上手くいかねーもんだ
オレ達は0号別館1階の外壁を吹っ飛ばして敷地に飛び出した。
巻き込まれた人工花屍擬きの実験動物達の破片も飛び散るっ。
地上のヘルハウンドを連れた僧兵や上空のヒポグリフ乗りの僧兵達も仰天だろうが、構ってらんねーぜ!
追って光の瞬間移動をしてきたアイマスクの司教? に、タイミングを見切ったデデヨジカが斧の竜滅器を叩き付けるっ。
「よっと!」
これを光の剣3本で受けてくる司教っ。
(硬いね)
だがこれも折り込み済み!
「超カロリーお花畑縛りっ、だぁ!!」
(拘束を実行)
テキトーな技名で魔力を込めた花が満開の蔓で司教の足元を覆って動きを封じるモパヨーヨっ。
「ラシュシュ!」
(うむっ)
デタラメに強ぇが、人間に使っていいもんか? と思わんでもないけどよ、オレはフルパワーのナガマキを叩き付けるっっ。
咄嗟に2本の光の剣で受けてきたが、1本砕いて魔力の爆発が起きた。
デデヨジカは飛び退きながら吹っ飛ばされたモパ公に蔓を伸ばしてフォローし、オレは押し切ってもう1本を砕いてアイマスクの顔面にナガマキを叩き込んでやった。
アイマスクが砕けるっ。
「っ?!」
(む?)
司教の両目がオレの左目と同じ、竜の目! 目の周囲にも竜の特徴が広がっていた。
虚を突かれていると、光の炸裂の衝撃波を放ってきて吹っ飛ばされた。
「そんなにまじまじと見られては恥ずかしいですよ?」
言いながら、頭部や全身を蔓と花で覆う、花混じりの特徴まで出してくる司教!
「お前、竜狩りかよっ?」
(認識外の竜戦士じゃ、ワシらのネットワークから離れた虫と契約したものか??)
「偉大なる、最強の、ラシュシュさん。あなたの愛する女神には、世界を救済する力も資格も無い。それが私の結論です」
「ヴァルメシア特務司教様っ、これは一体??」
「その姿は??」
「花混じりだ・・」
「いや竜狩りだろ??」
争いや警報に、ヘルハウンドやヒポグリフを従えた僧兵や非戦闘員らしき僧侶がいくらか集まってきていた。
「・・43名。犬と鳥は見逃そう」
(イカンのじゃっ)
「っ! お前ら逃げろっ!!」
阻止しようとしたオレとモパヨーヨとデデヨジカを地面から噴出させた魔力の籠った蔓で牽制しつつ、司教、ヴァルメシアは光のナイフを放ってのこのこ集まってきていた僧達を八つ裂きにした!
ヘルハウンドとヒポグリフ達は慌てふためいて逃げてゆく。
「私の地位が安定するにはあと半世紀は必要なのです。あまり敬虔なる同胞を手に掛けさせないで下さい」
「このっ、うっはっっ??」
飛び掛かろうとしたらナガマキが独りでに地面に刺さって魔力で固定したせいで、オレはつんのめっちまった。
(落ち着けっ、ヤツは侯爵級竜を上回る。今のお主達では勝てんのじゃ)
「おや? 話に聞くよりも冷静ですね。前の契約者が好戦的だったのでしょうか?!」
また光の瞬間移動っ。それも一番ぼんやりしてるモパヨーヨ狙いっ!
モパ公よりオトシュの反応で大剣を構えて光の刃の連打の初手を受けるっ。
「うわぁーっ?!」
(忠告、落ち着いて!)
オレとデデヨジカもフォローに回るっ。
「ココロ! 直に警報で砲撃車や船まで出張ってくるっ。コイツの立ち位置はよくわからんが、俺達に有利になることはないっ! 離脱の状況を作る!」
(あ、デデちゃん、逃げるんだ)
「う~っっ、わーったよ!」
「そう正直に目の前で宣言されましてもね。鎮静させるのが大変になりますが、私も人が集まると面倒です」
(マズいのじゃっ)
ヴァルメシアの魔力が跳ね上がり、身体の竜の特徴も増した!
3人掛かりで手一杯にされるっ。
どうする? さっきの拘束からの一撃が逃げるタイミングだったんじゃないか?? 一度に色々あって後手に回っちまったっ。
つーか、コイツ、竜滅器はどうなってんだ? この光の術もワケわからんしっっ。
軽く混乱していると、
(・・好機じゃ)
遠くから凄い勢いで魔力の塊と質量の気配! 機械? 何だ??
(皆、下がるといい)
(従うのじゃっ)
聞いたことない思念だが、ヴァルメシアが新たな気配に気を取られた隙にオレとモパヨーヨたデデヨジカは飛び退き、退いたその場に向かってくる物から強烈な銃撃が掃射された!
子爵級竜にでも実体のあるヤツならダメージが通りそうな口径の弾丸がそこそこの精度でヴァルメシアを襲う!
光の剣で受けるが、火花と土埃と砕けた鉄粉で周囲がメチャクチャになるっ。
掃射しながら低空飛行で突進してきたのはティアビルケン号の左右に付いてる脱出挺の1つだった!
それにも驚いたがそれより驚かされたのは脱出挺の先端に腕を組んだウラドーラが立っていたことっ。
ウラドーラは機体の掃射が止むと、船体を蹴って飛び出し、ヴァルメシアが迎撃に放った光のナイフの連打を回転回し蹴りで砕きながら間合いを詰めて踵落としで光の剣3本を砕いて飛び退かせた!
「おおっ?」
「凄い蹴りだぞっ??」
脱出挺はオレ達の上空で静止した。
「ウラドーラさんが、足止めしてくれてる内に船へっ!」
言いつつ、蔓でオレとモパ公を掴まえて脱出挺のハッチに飛び付くデデヨジカっ。
「うおっ、悪いな」
「お前すぐ掴まえてくるなっ」
中に入ってまた驚かされたのは機体は無人操縦だった。
ここだけ技術進んでんな~。
未だ警報が鳴り響く中、ヴァルメシアとウラドーラは対峙する。
「昔の最強より今の強者の方が厄介ですね」
「ヴァルメシア、ヴァルシップの所に戻れ。お前ぇは気が早ってるだけだ」
常に浮かべていた薄ら笑いが固まるヴァルメシア。
「・・うんざりですね。ま、いいでしょう。久し振りの実戦でまごついてしまった私のミスと認めましょう」
足元で光を炸裂させ、大きく土煙を発生させる。
(一日一善のようなことをしていては間に合いませんよ? 決定的な変化はすでに始まっているのです・・)
思念だけ残し、ヴァルメシアの気配は遠ざかり、上空から武装したガス飛行船1隻と、敷地内には砲撃車が3両走り込んできていた。
(ウラドーラ、撤退を)
「ああ、上手くいかねーもんだ」
ウラドーラは頭を掻いて、脱出艇に飛び乗った。
結果的に入れ違いになったヌヨやジンフー達の回収もやらなきゃならねぇ。
───────
・・・78竜都近くの荒野の岩場の陰で傷付いたカノレアはシノレアとは身体を休めていた。
「はぁはぁ、何だアイツ!」
「魔法使いかも? 人間じゃなかったね」
「くそったれっ、とにかく腹拵えだ! 人間の食べ物くらいじゃ足らんっっ」
カノレアは荒野の遥か先にいた魔物、キラータイガーを鋭い視覚で捉え、念力で掴まえた。
そのまま長距離を念力で引き寄せ、伸ばした尻尾で驚愕している馬車並みの大きさのキラータイガーを両断し、下半身の方をシノレアに差し出し、上半身に喰い付こうとした。
「ウチ、頭がいい」
「チッ、わがままだな!」
だが交換してやるカノレア。双子竜はしばらく食事に専念した。
消耗と、食事に専念し過ぎた為、2人は白衣の竜の接近に気付くのが遅れた。
不意打ちで強力な電撃魔術が仕込まれた首輪を付けられ感電させられる双子竜。
「がぁああっっ??!!!」
「痛い痛い痛いっっ!!!」
「ちゃっほ~。カノレアちゃんとシノレアちゃん、久し振りぃ~~っ?」
子爵級竜、ゼリ・キャンデであった。
「ところで、わっちに隠れてエゥガラレア様の使い走りしてた挙げ句変なのにコテンパンにされて、畜生みたいに生肉噛って、畜生みたいにわっちに首輪付けられて、今、どんな気分~???」
「外してよっ!」
「殺すっ!」
「アッハハ!! 答えが予想通り過ぎてつまんなーい」
ゼリ・キャンデは首輪の電圧を上げ、夜の荒野に双子竜の絶叫が響き渡った。