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緑海嘯  作者: 大石次郎
15/48

15話 奇遇

ウラドーラは迷彩モードのティアビルケン号の脱出艇を改造した、すご速い(まる)改参(かいさん)を駆り、78番竜都近くの無人遺跡に到着すると、すぐに船の上に出た。

側に巣くっていた、船と変わらない大きさのムカデ型の魔物センジュワームが襲い掛かる素振りを見せたが、


「っ?!」


ウラドーラの一睨みで縮み上がり退散していった。


「ミイファシュ!」


(いいとも・・)


ウラドーラの肩に現れた彼の竜滅器の大樹虫の霊体は、ヌヨとジンフーの竜滅器と交信を始めた。


(ウラドーラさん、商会の花混じりの方々は回収しました。この後のジラやココロさん達の回収に備えて下さい)


ヌヨ達はまだ下水道にいた。


(既に遺跡まできてるぜっ!)


(あ、そうですかっ。わかりました)


(中の花屍モドキは一階の隔離エリアの時点で酷い物であった、よりロクでもないことになりそうである!)


(だろうよ、だがお前ぇらはまず、お客さん達を外まで連れだせ)


(わかりました)


(心得た!)


交信は一先ず切られた。


(船長の片割れとの交戦の可能性が高い・・)


「まぁなぁ。具合、悪いぜっ」


ウラドーラは腕を組み、曇りない冷たい星空を見上げた。



───────



特務司教ヴァルメシアの私室は人工竜狩りの生成室から奇妙な程、奥まった場所にあった。

扉の前で双子竜は緊張していた。


(この身体の工学師気取りの僧はただの構成員。多くを知る者ではない)


(え? まぁこっちもそんな感じだね)


(コイツらの中ではこの司教は生え抜き、風変わり、僧として以外の経歴は不詳となっている)


(この時代で文明を享受する所まで来れたヤツは大体そんな感じみたいだけど??)


(そこじゃない。シノレア、我々はこの奥の男に関し、薄っぺらい情報しか得ていないということだ。そもそも竜教の僧というのは魔法の技をいくらか継承している風でもある。事前に魔術への対抗式(たいこうしき)を組んでおこう)


(慎重だね)


(今の脆弱な身体なら当然だ)


2人は乗っ取った脳内で防御の魔法式(まほうしき)を組み、僧の身体でうなづき合ってから、司教の私室をノックした。


「どうぞ」


「失礼します」


「No.40以降のシリーズの経過報告を」


2人は淡々と、僧達が把握している中ではこのアイマスクをした特務司教が関心を持ちそうな実験体シリーズについて詳細に報告し、その中で司教や部屋の様子等を細かく観察した。


「合成エーテルは悪くないみたいですね」


「はい」


「最近、活性化した竜の遺骸がよく手に入りますので」


不意に攻めたことを言うシノレアにギョッとするカノレア。


「確かに。しかし竜教だけでは管理しきれません。竜都によっては技術の拡散に積極的なところも少なくはなく・・」


アイマスクの特務司教ヴァルメシアは憂鬱げであった。


「竜が活性化すれば竜狩りも増え、竜狩りが勢い付けばブースト商会の勢力も増すでしょう。・・遠からず、争乱が起きるでしょう。備えなくてはならないのです」


「仰る通りで!」


(シノレアっ)


追従しつつ、値踏みする顔になってるシノレアにも思念で促すカノレア。


「・・ヴァルメシア司教様は、人工竜狩りの軍勢を造られるおつもりで?」


(シノレアってばっっ)


「いいえ、所詮は本物に及びません。しかしただの花混じりでは秩序が無く、何より大樹虫を介して神の干渉を受け過ぎます」


「宗派によっては女神の慈悲によって大樹虫と花混じりは広まったとありますが?」


(シノレアっ、もういいから!)


乗っ取った身体で冷や汗が止まらない。この部屋は奥間以外は監視撮影装置があり、既に撮られていた。

ヴァルメシアは薄く笑った。


「そもそも、エルフ、をそそのかし、旧世界を滅したのは神でしょう? 慈悲等、自作自演という物ですね」


「そうですか」


(カノレア、コイツはすごく危険だよ。臭いも変だ。殺ろう)


(本気か?! ええいっ)


2人が牙を剥こうとしたのと同時に、


「ところで」


ヴァルメシアの魔力が唐突に増大した。侯爵級を上回る魔力量であった。調度品が全て粉砕されてゆく。

衝撃か? 魔力探知か? 施設内に警報が鳴り響きだす。

驚愕した2人は出鼻を挫かれた。


「脳に寄生する竜というのは珍しいです」


(失敗だ!)


(カノレ)


「光よ」


ヴァルメシアから魔力の閃光が放たれ、双子の竜は乗っ取った僧侶の身体を引き裂かれ、吹き飛んだ部屋の残骸もろとも、廊下の壁に激突した。


用意していた防御の魔法式で即死を免れた2人は慌てて無力な蛇への変化を解いた。


「逃げるぞっ」


「竜の身体があればこんなヤツっっ」


背に翼を出し、全身の竜の特徴を高め、もと来た道を遁走し始める双子竜。


「後始末が億劫ですね」


ヴァルメシアは身体を半ば光に変えると、一瞬で2人に追い付いた。

再び唖然とする双子の竜に、ヴァルメシアは閃光を炸裂させた。


「うぁあああっっ?!!」


「痛いよっ、もうっっ!!!」


全身の裂傷と火傷受けて、水槽のような装置の並ぶ最初に降りた部屋まで吹っ飛ばされる2人。


警報に既に工学師僧侶達は避難していたが、駆け付けていた地上にいなかった機械化装備で固めた僧兵達は、飛ばされてきた2人と、衝撃の余波とそれによって破壊された水槽や周辺機器揉みくちゃにされた。


少なからず下敷きや突き刺されて死に、あるいは水槽の溶液を地肌に被りその部位が花屍のように異常変異しだして錯乱させられてゆく。

水槽から零れ落ちた人工竜狩りの赤子達は空気に触れる即座に劣化し、蠢きながら死んでいった。


シノレアは取り乱したがカノレアはいくらか冷静さを発揮し、再度間近に光と共に瞬間移動してきたヴァルメシアの挙動を見切り、トドメの閃光を撃たれる前に口から滅びの炎を吐いて怯ませた。


ヴァルメシア以外の竜教側の生存者や残っていた水槽の赤子は全て焼き尽くされる。


カノレアは追い打ちしようとするシノレアを抱え、炎に包まれたまま形を保っているヴァルメシアを無視して出入口を突き破ってその場を離れた。



───────



オレ達は突然の警報と爆発? の連発に慌ててた。オレ達切っ掛けじゃないよな??


「いやっ、何かわからんけど逃げた方がよくねーか??」


「そうだな、何かトラブルだろう」


(警告。竜が2体来る)


「「「竜っ???」」」


ここでっ?

益々ワケわからなくなってると、ホントに前方から来やがった! 妙に人間っぽい2人っ。傷だらけで1人は抱えられてる。


(確か、あの2人は)


「どの2人だよっ!」


ラシュシュがのんきに回想してる暇無いっ。オレは凄い勢いで背の翼で飛んできた2人に燃えるナガマキで斬り付けたが、あっさり躱され、通路の後ろに逃げられた。


「下手クソ女っ!」


「うわっ、ラシュシュと契約してるよ?!」


似た顔の2体の竜はそのまま通路を曲がって消えていった。


「何だぁ??」


「いいからもう帰ろうってっ、何かめちゃくちゃじゃんか。腹減ったし!」


(来る。これは?)


オトシュの困惑の思念の直後、光と共に、法衣とアイマスクを焦がした竜教の高位僧らしいのがいきなり現れた。


「これはこれは、あなたの竜滅器、イズモクラの虫の物ですね。奇遇が続く物です。ふふっ」


焦げたアイマスクにヒビが入りだしながら、急に出てきた僧侶は笑いだした。


何だよコイツ??

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