14話 地下へ
78番竜都の大聖堂はかなり巨大な建物だったが、その別館も数十に別れ、広大だ。
1つ1つの別館とその関連施設は中程度の生活コミュニティと同じくらいの規模がある。
オレ達が目指してるのは0号別館。竜の遺骸を使った実験施設らしい。だいぶ端っこだぜ。
ヒポグリフ乗りの僧兵に加えて、敷地内は獰猛なヘルハウンドを連れた僧兵が巡回してる。
花混じりは精油をコントロールして臭いを誤魔化せるし、今は気配もある程度は隠せるようになってる。
物音や目視で見付からない限りはイケるが、潜入難度が格段違ってる!
「ムジぃな・・」
「オイラ、腹減ったぞ?」
「いつもだろ? 後にしとけよ」
「棒状糧食くらいならあるが?」
「んん? それ食ったからって子分にならねーからなっ、デデヨジカ!」
「いや、ならなくていいけど?」
困惑しつつ差し出された多分2日分くらいの糧食をあっという間に完食して、さらに困惑させるモパ公だぜ。
何だかんだで0号別館に着いた。やたら蔦の絡んだ辛気臭い古びた建物だ。
正門には僧兵とヘルハウンドの見張り。さらに建物は魔力の障壁で覆われてる。
オレ達なら普通に破れるが、そんなことすりゃ大騒ぎだ。
手筈通りならここも事前に解き易く魔力の障壁を緩めた通用口があるはずだ。
オレ達は裏手に周り、件の通用口の前に来た。確かにここは障壁が緩い。
「これくらいなら静かに解けそうです」
ヌヨが障壁に魔力で干渉しだし、ものの数秒でここだけ限定で解除しちまった。通用口の鍵まで開けてる。
「おお~。ヌヨ、やるじゃん」
(魔法の技を継承しておるのじゃ)
「わ、私の家系は意識的て花混じりの血統を維持して、失われた魔法を研究しているんです・・」
(稀に、この種の先見性の高い選択した氏族が各地に存在)
「オイラも意識的に大樹虫を食った」
(指摘、汝のそれはただの食い意地。我も食されるところだった)
「お前は喋るから見逃してやったろ~?」
(・・・)
オトシュも食べられかけてたのかよ。
ヌヨ凄い、から気まずい空気になりつつ、オレ達は裏手から0号別館に忍び込んだ。
入ったエリアは、廃墟のように荒れてる。
「もう一段進むと封鎖エリアらしい、資料通りなら、危険、て書いてあるからな?」
大事なとこが結構、雑い資料に眉を潜めてるデデヨジカ。
「腕が鳴る。我輩に任せよっ」
ずっとコソコソしてたのが窮屈だったらしいジンフー。
「暴れるのはいいけど、バレないようにしてくれよ?」
「心得た!」
(新入りが先輩風吹かせておるのじゃ)
(うっせっ)
思念で言い返した直後くらいに、忌避感を煽る系の障壁を越え、本格的にヤバそうな気配になった。
「・・イズモクラっぽいな」
「竜の死臭だぞ。おっ!」
(警告、敵意)
(構えるのじゃ)
さっそく、妙なのが現れた。
花だ。食中植物、みたいな鰐。ワラワラ出てくる。モパ公並みに腹ペコらしいぜっ。
「鰐ベースの花屍を人工的に造ったもの、でしょうか?」
「まずは一掃っ! ゴゴシュよっ」
(面倒だわ~)
自分のアンニュイな竜滅器に呼び掛け、ジンフーが先陣を切り、爪の竜滅器に風を纏わせてあっという間に劣化した騎士級竜とそう変わらなそうな鰐の花屍達を壊滅させた! つっよっ。
「やるなー、ジンフー!」
「むっふっふっ」
ちょっと褒めたらマッスルポーズ的なことを始めるジンフー。調子乗るタイプ・・
ま、こっからほぼジンフーの一人舞台で様々な普通の動物をベースにした人工的な花屍達を仕止め、オレ達は進み続け、合流ポイントのフロアに来た。
「お~い、こっちこっち!」
ガラクタと竜の血を帯びた植物が目立つフロア内のガラクタの山の1つの蓋が開いて、ジラ達が顔を出した。
合流すると3人はだいぶゲッソリした。
「なるべく情報取ろうと、ここまで自力で潜り込んだんだがよ、散々だったぜ・・」
無精髭になってるジラ。
「竜教設備で怪しいのはこの先の地下ね。資料は造れるだけ作ったから・・」
渾身らしい資料を渡してくるアギーム。
「悪ぃが竜都から脱出手伝ってくれないか? ここの花混じり達、用心深いから最低限度しかサポートしてくれなくてさ」
何か凄い老けた気がするムラタ。
「ピックアップも想定してる。ブースト商会の依頼で来てるしな! ヌヨ、ジンフー付いてくれ。ウラドーラには、もう俺達の回収の準備を頼んでおいてほしい」
「わかりました」
「ココロとモパヨーヨも無理はせぬことである!」
「おう」
「オイラもここらで帰りたいぞ・・」
2人は付いてこようとするモパ公はスッと押し留め、ヨロヨロしてるジラ達を連れ、一番近い下水の脱出ルートを目指し先に離脱していった。
「で、どうするよ?」
「んー、正直、ジラ達のピックアップとこの追加資料だけでも十分なくらいだがな。地下の確認、ないし、より危険な状況を察したら即、離脱しよう」
(オトシュ、後手に回って構わんから、しばし警戒に専念するのじゃ。メルメシュはオトシュとモパヨーヨ、それから自分の契約者の守護に専念。交戦時の初手はワシとココロで引き受ける)
(了解)
(いいよーっ!)
対応は決まり、オレ達は資料を回し読みしてから、その怪しい地下とやらに降りてみることになった。
さーて、坊主達がクソヤバ動物実験以外に何やらかしているやら・・
───────
小さく細長い蛇の姿に変化したカノレアとシノレアは、通気孔から0号別館に侵入していた。
所々に格子や、忌避及び隔絶効果の障壁もあったが知性を失っていない子爵級竜である2人には何の障害にもならなかった。
2人は易々と地下施設内にまで到達すると、ゼリ・キャンデがよく着る今となっては古代の工学師の羽織りを来た僧侶達が水槽のような装置を前に作業していた。
(工学師だらけ! やっぱ人間達、懲りてないかも?)
(また妙な物を造ってるな。人工花屍? いや、これは・・竜狩りの赤子?)
水槽には人間ベースの赤子の竜狩りが多数、眠りに就いていた。
契約の成立の条件上、赤子の竜狩りは通常発生しない。
(度し難いな。女神の最後の情けさえ反故にするとはっ)
(カノレア、ここで暴れるのはマズいよ)
(忌々しいがわかってる。姿を消し、取り敢えず身体を乗っ取るぞ? シノレア!)
(うん!)
2人は身体を迷彩化すると、フロアの監視撮影装置の監視を掻い潜り、ちょうど撮影装置の陰に入った工学師僧侶2人の片耳から頭部に潜り込んだ。
「ぽっ?」
「べぇっ?」
脳に寄生され意識を乗っ取られた工学師僧侶は一瞬痙攣し、すぐに表情が消え、静かになった。
双子の竜は工学師僧侶達の脳の情報を素早く検索した。
(・・なるほど、女神の干渉を避けるつもりで、人工竜狩りを次の人類に仕立てる、か。まぁ浅薄な人どもにしては考えた物だ。だが、竜教全体ではいまいちこの技術や思想を共有できていないなようだな・・ここを潰せば、済むか?)
(うげぇっ、コイツ! 凄い生臭だっっ。キモい趣味してるよっ、カノレア!)
(シノレアっ、どうでもいいことを検索するな。・・取り敢えず、計画の首魁らしい特務司教とやらの様子を見てみるか?)
(わかった。せっかくホットドッグとコーラが買える世界になってるのに、台無しにするヤツはやっつけないとね!)
(いや、今、暗殺できるかは微妙だ。というか、さっきと言ってること逆だろ?)
(そうだっけ~?)
2人は工学師僧侶の身体で、特務司教ヴァルメシアの私室へと向かい始めた。