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緑海嘯  作者: 大石次郎
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13話 ホットドッグとコーラ

ティアビルケン号は幅の広い滝の大きな滝壺に着水した。


「ちょい遠いけど、ブースト商会以上に用心しとくよ、竜都(りゅうと)の側はヤバいからさ~」


小さなヴァルシップは小さな回転椅子をズラしこちらに向けた。


「騒ぎが起きたり、大樹虫君達のネットワークで救援要請したり、24時間経っても戻らなかったらウラドーラを向かわせるから。上手く落ち合えなかった場合、竜都近くの遺跡で合流! 対応できる?」


「そこは任せとけっ、つーか、ヴァルシップは来ねーのか?」


「いざとなったら船、必要だし。それにあの竜都には会いたくないのがいるかんね」


苦々しい顔をするヴァルシップ。


「ふ~ん?」


(世俗に永くおれば色々あるのじゃ)


「世俗って随分だねっ。ま、いいわ。気を付けてよ~?」


「デデヨジカ、しっかりフォローしろ」


「おうっ」


ヴァルシップとウラドーラや他の普通の花混じりのクルーにブリッジで見送られ、船を出たオレ、モパヨーヨ、デデヨジカ、ヌヨ、ジンフーは一飛びで滝壺の淵まで跳び、駆け出した。



竜都。

世界に百数十箇所ある竜教の拠点。それぞれが独立してるが竜教、ていう明確な指針があるからブースト商会よりも足並みは揃ってる感じ。

今の世界を実質、統制している組織と言ってもいい。


オレ達の狙いはイズモクラのある地域から一番近い、78番竜都。


ジラ達の調べによると、世界中で竜、竜狩り、竜教の三者の動きが活性化してきてるらしい。

一方で別に竜狩りの支援組織でもなければ、積極的に各地の竜と関わってるワケでもないブースト商会は出遅れ気味・・


オレとモパヨーヨが茸食ってる間に、リーラや各地で目敏かったりたまたま成り行きで様子を伺ってたブースト商会員達の提案で、ブースト商会は情勢把握を連携して始めることになっていた。


オレ達も、まぁ竜狩り自体は組織でも何でもないから微妙なとこだが、ティアビルケン号のグループは一役買う流れだ。

どうもこの78番竜都でどうも妙な動きがあるらしい。

中にはジラ達が先に潜入している。まずはそこと合流だ!



78竜都はイズモクラ並みにデカい。城壁は普通の焼き石材だが、規模的に緑壁を思わせた。

夜中だってのに、魔力灯(まりょくとう)なあちこち点いてやがる。


オレ達はジラ達が買収したこの竜都で働く花混じり達が管理する通用口の1つから中に潜入した。


「帰りまでは付き合えない。下水を使ってもらう。入り口は3ヶ所だ。いずれも通れるのは明日の朝までと思ってくれ」


警備や護衛を担当しているグループに所属してるらしい花混じりはそう言って、地図何かの資料をジラに渡してきた。


「助かる。もし騒動になったら巻き込まれないよう上手く立ち回ってくれ」


「当たり前だ。早く行け」


オレ達は言われるまでもなく、灯りをなるべく避け、路地や屋根を伝ってこそこそ移動を始めた。


「あ! 飛行艇、いや飛行船の発着場ですっ。商会より進んでませんかっ?」


ティアビルケン号より余裕で大きい船が何隻も停泊してる発着場があった。

ヌヨは機械イジりが好きだから関心強い。


「ブースト商会も大概シブチンであるが、竜教の文明独占も胡散臭くはある!」


機械には感心薄いジンフー。


「ウチの船の方が速い。ただ物量はただごとじゃないな。気を付けようぜ?」


基本的に堅実なデデヨジカ。


(船よりも、巡回のヒポグリフ乗りの方が厄介じゃ。ヒポグリフは目が良いからの)


竜都は上空をヒポグリフに乗った僧兵が巡回している。現状通常配備だから大した頻度じゃないが、上空からのカバー範囲が広いから厄介だった。


「こんだけ規模があって文明進んでんなら何か旨い夜店とかあんじゃないかぁ?」


(指摘。観光ではない)


「ちぇ。飯も食えないし、危ないし、ブースト商会の仕事だろこれぇ? ったくさぁ」


元々潜入に乗り気じゃないから、ふて腐れた感じになるモパ公。


「ま、オレも別に乗り気じゃねーけどな」


「「「えーっ???」」」


全員に驚かれた。ん?


「凄いシャキシャキ取り組んでたろ?」


「思う所があるのかと思ってました」


「誰ぞ宿敵でもおるのかとっ」


「何だよ宿敵って? オレの弟と関係無い。竜教とか別に何とも思ってねーよ。さっさと竜の糧食って竜狩りまくって強くなりたいだけだよオレは! その過程で何か引っ掛かりたくないし、成り行きだから来ただけ。つか、やるからにはちゃんとやんないと危ねーだろ?」


デデヨジカ達は面食らった顔をしたが、


「なるほどな」


「もっともではある」


「合理的何ですね」


納得はしたみたいだった。


「お前はさ、テキパキしてるから逆にわかり難いとこあるよなぁ」


「別に!」


(ちなみに竜の糧は、十分育っておらん者が過剰に食うと身体が爆発して死ぬのじゃ。やたらドカ食いしても爆発するだけで強くはなれんぞ?)


(ばく)・・」


オレは絶句した。


「ラシュシュ! お前、そんなもんオレにやたらと食わせてたのかよっっ」


(やたらとは食わせおらんのじゃ。折々様子を見て勧めていたじゃろ? まぁモパヨーヨが来てからはやや大雑把にはなったが、半分になる故、問題無しなのじゃ)


「のじゃ。ってお前なぁ! モパ公も知ってんなら言えよ!」


「ああん? オレは竜の糧一杯食っても、肥るだけ、だから気にしないぞ?」


「「「えーっ?」」」


「何ですかその特殊能力っ?!」


「さすが大食いの竜狩りである・・」


「余剰な魔力を食い溜めできるのか??」


話題がオレの本心からモパヨーヨの謎能力に移っちまったが、とにもかくオレ達はコソコソ隠れながら、ジラ達と合流予定の78番竜都の大聖堂別館を目指した。



───────



この夜、78番竜都にもう一組、潜入していた。


「くっそ~っっ。竜狩りは何かヤバいから代わりに竜教の秘密を暴いてやる! この(みやこ)はどうも胡散臭い・・て、シノレア?」


路地の物陰で、相方の双子の妹がいないことに気付いて戸惑う子爵級竜カノレア。


「カノレア~! 凄いよっ、夜店でホットドッグとコーラが売ってたっっ。文明復活させんの、そこ? て感じっ。へへへ」


竜の特徴の薄い姿でフード付きマント姿だが特に隠れずジャンクフードを2人分持って駆けてくるシノレア。

目を丸くするカノレア。


「おいっ、普通に買ってくるな! というか金はどうした??」


「え? 溝とか隙間に落ちてるの念力で拾ったけど? もったいないし」


「子爵級竜ともあろう物が何というっっ」


「いいから食べなって~。もうウチら竜の糧、食べられないんだし~」


姉の分のホットドッグと炭酸飲料を差し出すシノレア。


何千年ぶりかのジャンクフードの、チープだがクッキリとした匂いと湯気に腹が鳴りよだれが出てしまうカノレア。


ガッ、と奪い取って飲み食いしだした。


「むぐぐっ、味は悪くないではないかっ! ふんっ、下等な人類めっ!!」


シノレアも美味そうに路地の陰でジャンクフードを飲み食いしだした。


「何か、竜になる前、ハイスクールに通ってた頃思いだすよね~」


「ハッ!」


飲み尽くし食べ尽くし、鼻で嗤うと、容器も包装も麦の茎らしきストローも竜の牙を出した口で食べ尽くすカノレア。


「全ては(まぼろし)だ。忘れろ。花混じりどもが勝手に名乗ってるが、我々こそが竜戦士! 陛下の元でっ、この狂った世界を浄め、光をもたらす使命を忘れるなっっ」


「そうだけどさ・・」


炭酸飲料を一口飲み、小さくげっぷを圧し殺すシノレア。


「今って、浄め終わってさ、光、もたらされた後の世界っぽくない?」


「なっ・・??」


口元にケチャップを付けたまま、カノレアは絶句するのだった。

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