12話 最強
飛行艇、ティアビルケン号内は機械だらけで、思ったより狭く、雑然としていた。
(飛べばいい、くらいの大味な改修じゃ。動力系以外は元の素材はほぼ残っておらんのう)
(スエリア帝国の船がベース。皮肉なこと・・)
「何帝国か知らねーが、大丈夫なのかこの船? 素人から見てもガチャついてんぞ。何か錆びてるし」
「2ヶ月は遠征してるからさ。オレ達の拠点に戻ったらちゃんとメンテするさ」
斧使いの男はデデヨジカといった。別に拠点まで持ってんのか。
「そ、その前にイズモクラ近くのブースト商会拠点に寄られるんですね?」
鎖鎌持ちの女の竜狩りヌヨ。髪、めちゃ長い。挙動不審気味だな。
「寄られる、って程じゃないが情報確認すんだよ」
「やぶさかでは、ないです・・」
「悪いがブースト商会にこの船は直に見せられぬ。発掘された高度な飛行艇は扱える者の間で取り合いとなる運命・・」
鉤爪使いの虎系獣人のジンフー。言い回しの癖、強ぇな。
「まぁ間で寄ってくれたら何でもいい。モパ公も寄りたくないなら船に残っててもいいぜ?」
ずっとムッツリ黙ってるモパ公に聞いてみる。
「嫌だ! 知らん竜狩りの船で待つのはお断りだぞっ」
「何で急に人見知りみたいになってんだよ・・」
蕪噛ってきた勢いどうした?
「とにかく嫌だ!」
断固拒否のモパヨーヨにデデヨジカ達は苦笑だったぜ。
そっから操縦するとこ、ブリッジ? に通された。
本の挿し絵でしか見たことない船員服を着た、普通の花混じり(花混じり自体そんないないんだが、何か最近は麻痺してきた)がいた。
「頭、来やがったですぜ?」
初めてみる巨漢のオーガ族ベースの竜狩りと、
「ふふん、ようこそ! 我がティアビルケン号にっ」
何か船長っぽい服を着た、人形・・に見える手のひらサイズの蜻蛉みたいな羽根の生えた人間の女! ピクシー族だっ。
ピクシー族自体こんな近くで初めて見たが、花混じりで、しかも竜狩り何て!!
「私はこの船の船長! キャプテン・ヴァルシップだよっ」
「おお・・」
(こやつ、何百年か前から活動しておるぞ? よく働くヤツじゃの)
船長ピクシー族かよ。つーか、長生きっ。
「俺様はウラドーラだ。片腕だぜ?」
筋肉を見せ付けてくるオーガのウラドーラ。この2人、竜滅器が見当たらないな??
「ココロだ」
(ラシュシュじゃ)
(我はオトシュ)
「・・・」
「モパ公」
(推奨。挨拶)
「・・モパヨーヨだ。飯は5人前は食べんぞ?」
「こんな後退した時代に豪気な子だよ!」
「違いないっ、ガハハハッ!」
おっしゃ、いい感じの流れ。
「モパ公はわからないが、オレは子爵級竜エゥガラレアに身体をとられた弟を助ける為に旅してる。それが第一ってことは踏まえといてくれよ?」
「クルーの目的はそれぞれ。いつの時代もそうだった。乗る資格を私と、このティアビルケン号が認めていればそれで十分なのさ~」
ヴァルシップは文字通り時間を越えたようなおおらかさでそう応えた。
───────
双子の竜、カノレアとシノレアは岩影に身を潜めながら驚愕していた。
「裂け散らせ、ゼルシュ」
(御意)
その長身の花混じりの竜狩りの男は、突槍型の竜滅器を放射状の燃える荊のように変形させると、小山のようの熊型の侯爵級竜バンガレアを引き裂き、解体した。
血と肉片が焼けながら岩場の大地に落ち、その脳髄から耳の長い痩せた老人の男がよろめきながら立ち上がろうとしていた。
長身の竜狩りは竜滅器ゼルシュを突槍型に戻し、燃える肉片を踏み潰しながら老人に歩み寄りだす。
「はわわわっっっ」
「バンガレア侯爵様がっっ」
震え上がる双子の竜。
老人の眼前まで来た長身の竜狩り。
「ぐぅぅっっ・・竜を、滅ぼせて、本望か? だが、気付いておるか? お前は、竜その物である。竜族はっ、不滅なり!!! ははははっっ!!!!」
突槍の一振りで老人の下半身から脳天まで消し飛ばし焼き尽くす、長身の竜狩り。
核を失い、周囲の竜の肉片は急速に腐り燃焼し滅び始めた。
「シノレア、この時代、終わってるっっ」
「カノレア、まず逃げよっっ」
2人は竜の身体の特徴を高め、最速で岩影から遁走していった。
「・・鼠か」
(あれでも元は子爵級。滅するか?)
「くだらん。次へ向かう」
長身の竜狩りは背に竜の翼を出し羽ばたき、上昇を始めた。
(そう言えば、ラシュシュが契約し竜狩りを1体造ったようだ。まだ女神との誓約を果たすつもりでいる)
「ヤツが最強だったのは旧世界。現世界を統べるのは、この俺だ」
(御意)
長身の竜狩りは宙で強く羽ばたき、音の速さを超えて飛び去っていった。
───────
ティアビルケン号はすげぇ勢いで空を飛んでゆくっ!
「ひょーっ、これ甲板に出れねーのか?」
ブリッジでオレは興奮してた。
「海の船じゃないんだよ~? まぁ、空中戦の緊急状況ならないでもないけど、侯爵級と戦えるくらいじゃないと、無理だね」
小さな船長席に座ってるヴァルシップ。
「そっかぁ~、早く強くなりてぇー!」
(単純じゃの)
ラシュシュに結構失礼なこと言われつつ、目的地にはすぐ着き、船は近くの谷に隠れて停泊させ、オレとモパヨーヨ、それからなぜか付いてきたヌヨとジンフーはリーラ商店のあるブースト商会拠点に向かう。
「はぁはぁっっ、・・ひ、人里に来るのは2年ぶりですねっ!」
2年ぶり?
「ヌヨは平時、買い出しにも全然付いてはこぬっ。今日はいかにしたのだっ?」
「後輩が2人も増えたので! わ、わた、私の社交性をっ、高めようかと!!」
「天晴れな心掛けであるっ!」
「大丈夫かよ・・」
2人ともフード付きマントは羽織ってるが、態度や声の大きさでそれなりに目立ってる。
まず虎型獣人が珍しいかんな。
オレは例によって帽子とマフラーとマントで身を隠してる。
「ブースト商会拠点はゴミゴミしてんなぁ!」
変な兜は手で持ちオトシュの大剣はサイズに縮めて鞘に納めフード付きマントはしてるが、隠れる気が無いのとフェザーフットの花混じりってので目立ってるモパ公。
コイツらこっそり連れ歩くのムジぃな・・
それなりに拠点の連中をザワつかせながら、オレ達は目当てのリーラ商店に入った。
「増えたね」
回答一番、リーラは煙管で煙を吹きながら言った。うっ。
「いやまぁ、色々あって・・それより何か状況わかったか?」
「そっちも、色々あって、の部分を聞かせておくれよ? 慈善事業じゃないからね」
オレは他の連中を見回し、特に異論無さそうなのを確認した。
「わーったよ」
オレは、これまでのことをざった話した。ま、フェザーフットの生活コミュニティのことは把握してたようだったが。
「なるほどね。じゃあこっちの番。ジラ達もこの20日あまりでそれなりに仕事したよ?」
もう20日も経ったっけ? 何て思いつつ、オレ達とそれぞれ竜滅器から霊体だけ出した契約大樹虫達はリーラの話に集中した。