10話 電光
全域の空気が小さく放電する。
洞窟の中を逃げ惑っていたダンジョンバット達が巻き込まれて次々と黒焦げにされてゆく。
「バフッ、バフッッ」
独特の鳴き声、家並みの大きさの馬のような子爵級竜ミゼンは鬣を逆立てさせた!
「来るぜ! モパ公っ」
「いやっ、というかさぁ、もう1個くらい竜の糧食ってからよぉ」
電光っっ!!!!
デタラメは全方位への電撃を、魔力の流れを先読みして避けるっ。
「ぎゃんっ?!」
モパヨーヨに直撃っ、て、おいッ?
(構ってられんのじゃ)
「わーってるっっ」
ミゼン! この馬みたいなヤツはとっくに知性を棄てて竜その物になってる。
制圧力と機動性は半端なく、20年ぐらい前から起きてる時間が長くなりだしていて、気紛れに目についた人間の軍事勢力を襲って被害を出しまくってる。
オレ達はリスキーでも機動性は何とか封じることにした。ねぐらの洞窟への奇襲だ。
速いのもあるが、上空から延々と雷を落とされたらどうしようもないから。
電撃を躱す躱す躱すっ! 距離を詰める詰めるっっ。
「ラシュシュ!!」
(どーんっ、とやるのじゃ!!)
竜滅器のナガマキに滅びの炎が燃え上がる。
「どーーんんっっ!!!!」
跳び上がってミゼンの胸部を斬り付けるっっ。傷口を炎上させて仰け反る子爵竜。
(わりと素直に実行するからヒヤヒヤするの・・)
「何だよそれっ?」
カウンターの電撃と、肩甲骨の辺りから伸びる鱗状の触手を避け、打ち払いながら仕切り直す。
事前に空中で魔力を乗せた足で大気を蹴る技、モパヨーヨに習っといて助かったぜっ。モパ公、あんな感じだけど器用何だよなアイツ。
「バフッッ!」
激昂し、地面を砕く前肢の踏み付けと噛み付きも絡めて襲ってくるミゼン! これは打ち払えねーなっっ。
「モパ公! いつまでノビてんだっ?!」
「ノビてないしっ、作戦考えてただけだしっっ」
兜を吹っ飛ばされた髪をチリチリにされたモパが突進してきて、燃える大剣で牽制を始めたっ。
(開示。しかしノープラン)
「うっ」
「ノープランかよ!」
まぁでも楽にはなった。畳み掛けるかっ。
「オレ、左だ!」
「んじゃオイラ右なっ」
オレとモパ公は左右に大きく分かれた。ミゼンも前肢と噛み付きが届かなくなり、触手と雷も散漫になる。
「よぉ・・っっし!!!」
ナガマキを回転させ、炎の渦を作りっ、それをそのままミゼンに浴びせてやった!
ゴォオオッッ、浅く全身を焼かれ、堪らず雷と触手の猛攻を一時止めるミゼンっ。
そこへ、
「モパスラーーッシュ!」
適当な技名で左前肢を斬り付けるモパ公っ。ミゼンは大きく体勢を崩した。
ただし勢いよく攻撃し過ぎたモパ公は触手でボコボコにされて吹っ飛ばされるっ。
「あばばっっ??」
が、オレは既にミゼンの向かって左の側面(右脇腹)に迫っていた。
「うらぁっ!」
脇腹を斬り付け、触手は腹の下に入り込んで切り抜け、左後ろ肢も斬り付けて背後から飛び出したっ。
触手の代わりに電撃の追撃がきたが、精度もパワーも甘いっ。利いてる!
(ココロよ、この場で迎え撃つ理由がない、と気付く前に仕止めるのじゃっ)
「のじゃのじゃ言うのは簡単だよな!」
文句言いつつ、再突入の隙を伺っていると、
「?!」
急に電撃が止んだ。
バリリッッッ。傷付いたミゼンの巨体に電気状の魔力が集束する!
「溜め撃ちかっ?」
(いや、上じゃ!)
「上?」
「バフッ」
一声鳴き、続けて轟音! 凄まじい閃光っ。ミゼンは真上に強烈な電撃を放ち、大穴を開けた。
冷たい風を吹き込む。
夜空の月が見えた。
(マズいの)
「コイツっ」
傷付いた身体で踏ん張り、翔び立つ構えを見せるミゼン! オレはとっさに蔓をヤツの放電する尾に絡めたっ。普通に感電する!!
「んがっ?!」
次の瞬間、爆発的にミゼンは翔び立ち、雷に貫かれた岩盤を掛け、上空へと翔び上がった。
オレは感電と風圧もあるが、気圧の変化に耳がヤられて、頭がクラクラするっ。
(こうなっては、離せばなぶり殺しにされるだけ、仕止めるまで根性でしがみ付くのじゃ!)
「ううっ、上等ぉ!!」
感覚が狂ってる、空気薄い、段々肌に霜が付いてきた! オレはより感電してもさらに蔓をヤツの身体のあちこちに絡め、背に跳び移って腰の辺りに竜滅のナガマキを突き刺して爆炎を上げてやったっ。
「ゴフッ?!」
苦しんで、下手したら星の世界まで飛び出てオレを殺すつもりだったらしいミゼンは、上昇を止め、触手でオレを弾き飛ばしに掛かりだすっ。
それでも、感電しまくりだが蔓を複数絡めて張り付いてる分、相手の魔力の流れが掴み易くどうにか捌けた。
蔓は焦がされ割かれて絡めた側からダメにされたが、すぐ絡め直す、激しく飛んで振り落としに掛かられたがそれも踏ん張るっ!
「観念しやがれってんだ!」
隙を見て背を斬り付け、触手の繋ぎ目を切断して数を減らすっ。
電撃は飛行と両立が難しいのか? 意外と時折体表を這うように放ってくる一撃があるくらい。
これは蔓だけ残し身体を浮かせ、別の蔓を交差させて電流をそちらにも流して出力を下げさせた何とか耐えられるっ。
オレは凌ぎながら徐々に肩甲骨の辺りまで上がってきた。
互いに満身創痍。いつの間にか高度が下がって、霜は取れ、呼吸し易くなってきてる。
(ココロよ、ワシの魔力の3割をお主の臓器と四肢の要所の保全と回復に使う。残り7割と、お主の力の全てで片をつけるのじゃ)
「よぉおし、かっはっっ」
血ヘドが出る。
はぁ~、アマヒコの膝枕で耳掃除して欲しいな・・
「やってやんぜ!」
鈍くなった左の肩甲骨の触手の根元を纏めて切断して「バァフゥッッッ」と悲鳴を上げさせ、首元に迫るっ。
もう、一手!
何だがっ、
「!!」
また唐突に全ての動きが止まった。この挙動っ!
(守るのじゃ!)
バリィイイッッ!!!
真上への最大放電っ! 夜空を焦がすような電撃でオレは全ての蔓を千切られ、雷に吹っ飛ばされた。
・・コイツ、この一撃の為にずっと空中で上手く電撃使えないフリしてやがったのか?
(ココロ! 四肢は残り、脳、脊髄、心臓も炭化しておらんっ、気を確かに持つのじゃっ!!)
のじゃのじゃ言っちゃってさぁ。あ、ダメだ。意識、いや、何か来る。
ミゼンが、大口を開けて、オレを・・
「モパヴィクトリィースラぁッシュっっ!!!!」
スゲぇ勢いで飛び付いてきたモパヨーヨがミゼンの首を切断し、ヤツの全てを根刮ぎ炎上させた。
「ふははっ、高度下げ過ぎだろうがよぉーーっ?!! ココロよ、どうだ先輩の決定打力!!!」
オレがまだできない宙を駆け回る技で焦げて落下するオレの周りをくるくる駆け回るモパ公。
(提案。素早い救命)
「おお、そうだったぁ! オイラのフェザーフット式」
(まず墜落死をどうにかするのじゃ、ワシも力が残っておらん)
「おお、そうだったぁ!!」
これは後で恩に着せられまくるな、と思いつつ、オレはとうとう気絶した。