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緑海嘯  作者: 大石次郎
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1話 オレの物 1

一粒の種が荒野に落ちて芽吹いた。


一片の胞子が泥濘に落ちて覆いだした。


その森に至る生命は暴走を始める。


爆発的に世界の可能性を喰って増えたそれらは、


「何だ?」


「・・森の、津波?」


全ての不夜城の工学都市を、火力鉄道(かりょくてつどう)を、砲撃車(ほうげきしゃ)を呑み込み、


藻場さえも、珊瑚さえも森として暴走を始め、海洋資源採掘所も蒸気船舶(じょうきせんぱく)潜水船(せんすいせん)も呑み込み、


やがて狂った森から現れた()の竜達はその豪腕の滅びの息で、全てのガス飛行船とエンジン飛行艇を打ち落とし、全ての星の船(ほしのふね)の打ち上げ基地を壊滅させた。


わずかに生き残った人類は絶望の中、考えた。

これは懲罰だと、これは恩寵だと、これは単に自然の反発による現象だと。


しかし敗残者達のいかなる思索も2000年が過ぎ去る頃には全てが時に押し流され、多くは忘れ去られた。


狩猟採集をし、農耕し、ささやかに文明を営む。

争いはあった。弓と槍と、せいぜい火縄銃と丸い砲弾の大筒で行われる紛争。


それで事足りていた。


気球とガレー船と馬車。


それで事足りていた。


それは森の動物達に工具の1つも必要ないのと同じ道理であった。



──────────



オレはミスリルスパナでブーストランスのボルトを締め直した。


「できた! へへ」


オレの魔力に反応して柄が伸縮し、穂先の魔力刃(まりょくじん)展開も悪くない。バッチリだ。


「姉さん、ホントに行くの?」


自分のブーストコダチの調整していた弟が聞いてくる。


オレ達の住み処は森の中に廃棄された機械ゴーレムの胴体をリサイクルしたヤツだ。

今は右脇腹辺りに作った勝手口の前の屋外作業場にいる。


こっち側の電気式の魔物避けは一基だけだが、結構状態がいいのと、森の魔物達はゴーレムの死骸と、オレ達の臭いが嫌いだからこんくらいでも寄ってこない。


「オレのアマヒコは心配性だな」


頭に咲いたオレとは違う花の香りが今日もいいと思いながら、左の頬にキスしてやった。可愛いヤツ。


オレ達姉弟(してい)花混(はなま)じりだ。2人ともちっとだけ植物っぽい姿をしている。

普通のヤツらの生活コミュニティじゃやってけないから森暮らし。


オレは一息でクルリと回転しつつゴーレムの腹、住み処の屋根に飛び乗り、遥か向こうの森の地表から突き出した巨大な骨のような支柱の絶壁を見た。

その骨の先端辺りをいくつもの黒い靄のような物が逆巻いている。


「見ろ、昼間だってのに緑壁(りょくへき)でダンジョンバット達が騒いでる。森の魔物や獣達もおかしい。それにさ」


オレはブーストランスを持ってない褐色の、引き締まってるが棒きれみたいでもある自分の右手を見る。かすかに震えてた。


「混ざってる、クソ竜どもの血が騒ぐ気がする。アマヒコもそうだろ? ちょっと様子見に行こうぜ! 竜の遺骸に何か起きてるかもしれないだろ?」


「でもココロ姉さん。竜教(りゅうきょう)の人達に見付かったら、面倒だよ。いつかだって・・」


「大丈夫だ! あんな辛気臭いボウズどもっ、いざとなったらオレがとっちめてやるっ。この森が具合悪くなったらまた他所に移りゃいい。オレとお前なら、どこでも天国だぞ? へへっ」


「姉さん・・わかった。でも、もしもの時は僕も戦うからね!」


「頼もし~。もっかいキスしてやろうか?」


「はいはい、行くなら早く行こうっ」


「やる気あるんじゃんかよ。じゃ・・行くぜっ!」


オレは緑壁を向け、森の中へとゴーレムの腹の上から飛び出した。気配と物音でアマヒコも付いてきてるのがわかる。



深い森を、オレ達姉弟は風のように走る。


前方に気配と臭いを感じた。芽吹きスライムだ。大人しい魔物何だが、十数体飛び掛かって来やがったっ。

よしゃいいのに!


オレはブーストランスを振るってほとんどを小間切れにしてやり、取り零した数体はアマヒコがブーストコダチで始末する音が聴こえた。


「泥食って光合成してるようなのが襲ってきた! こりゃやっぱ何かあるぞっ?」


「花混じりがいきなり突進してきたからビックリしただけかも・・」


「だったらマジでごめんだぜ!」


冗談っぽく言ったが、ちょいと軌道修正。いちばん大人しい類いの魔物まで突っ掛かってくるってことは、気配を察したら即、避けてった方がいい。


緑壁までに狩りでもないのに無駄に森ん中血塗れにするのは行儀悪い気がするし、いちいち面倒だし、アマヒコが怪我するかもしんないしな!



軌道修正のお陰でそっからはどこにも引っ掛からずに緑壁まで来れた。


真下まで来ると異常な高さだぜ。竜の骨と皮膚や筋肉のようにも見える形だが、元は有機的だった風の物が、今は岩みたいに変質してヒビや破損も多い。


上にダンジョンバットどものいないエリアを狙って来てた。

あんな大群の下だと、ウンチがひでーからなっ。


「さってと」


この壁は竜の遺骸が墜ちたイズモクラという古代都市取り囲んでる。

遺骸を守ってるんだ。周りの地面は緑壁と同じ材質に浸食されていて、この向こうの都市が森に呑まれることも無い。


「登るぞ? おんぶかお姫様抱っこしてやろうか?」


「いらない」


ムッとしてるアマヒコ。反抗心、カワイイ~。


「んじゃあ・・ダッシュだ!」


オレは緑壁を駆け上がりだした。アマヒコも続く。


わざわざ骨の先端まで登ることはない、支柱と支柱の間の部位は弧を描いて凹んでる。オレ達はそこに飛び乗った。


「久し振りに来たね」


2000年前の古代都市が、竜の体組織だか何だかの浸食で、竜に滅ぼされた時の形を留めていた。


中央の小山みたいな塊とそれにヘバ付くりように新造された建造物は竜の遺骸と竜教のヤツらの寺院だ。


「2年前にアマヒコが風邪を引いた時に大樹虫(たいじゅむし)を採りに来た以来だな」


「・・虫を食べるのは僕だけでよかったのに」


普通の人間は大樹虫を食うと死ぬか魔物になるが、花混じりは大樹虫を食べると回復できる。

が、花混じりも大樹虫を食べると竜の血が濃くなる。食べ過ぎると樹の竜になるって噂もある。


オレは頑丈だから自分の回復の為に大樹虫を食ったことは無いが、弟が食べる時、オレも必ず食べてる。


「大樹虫食って血が濃くなって竜になっちまうなら、2人一緒だ。竜になっても天国だぜ?」


「・・ココロ姉さんのバカ」


アマヒコはそっぽ向いちまった。胸の奥がギュッとなっちまう。


お前はオレの心臓。


「今日は大樹虫は関係無い。竜教のヤツらが騒ぐ前に遺骸まで行くぞ?」


「うん」


俺達は時が歪に留められた廃都市に向け、今度は壁の出っ張り何かを足場や取っ掛かりにして、降りていった。

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