弁当シェア
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「つーわけで…俺と弁当をシェアしよう」
「しぇあ?」
昼休憩、俺は約束通り紫悠と飯を食っていた。その時の会話。
「あぁ、人と飯を共有することで自分が知らなかった新たな味覚に辿り着くかもしれん…簡単に言うと新しい好物を探し出そうぜってことだ」
「…そういうことなら、うん…交換しよっか」
暫く昼飯は紫悠と食べる…ということで、日課の先輩との昼ご飯はこの件が片付くまで控えることにした。
無論、先輩には一言入れて、了解との言葉も貰っている。
少しだけ寂しそうな顔をされたが、それは俺がこの件を早急に解決すれば問題ない。…まだ解決する目処は全然立っていないけど。
ぶっちゃけ男を教えるってどうすればいいのだろうか? 俺が自然とやっていることを教えてもコイツには合わないだろうしなぁ…何で、とりま肉を付ける為に食生活の改善をしようとしているわけなんだけどな。
「取り敢えず俺の飯はコレだ」
そう言って取り出したのはいつもの弁当と比べてヘルシーなやつだ。
いきなり脂っこいものを食っても後で気持ち悪くなったりするからな…徐々に変えていくのが重要だと俺は思う。
「わぁ…凄いね。これは名取君が?」
「おう、俺ぁ一人暮らしだからな、大概のことは何でも出来る…んで、お前の飯は?」
「あ、うん…ボクのはコレかな」
そう言って取り出して来るのは…想像した通りのちっちゃい弁当箱だった。一段でコレとはね…。
「んー…」
それと他に気になることと言えば…弁当の中身がやけに美容効果にいいとかそういう食材ばかりだ。簡単に言うと肉がとても少ない。あと米もな。
「どう…かな」
「悪くはない。悪くはないが…良くもないな。これじゃあそんなガリガリな体なのも納得だぜ」
今一度紫悠体をジロリと見る。
…弱々しい癖にやけに肌が良いなとは思っていたが、ここら辺でカバーしていた訳か。
「栄養バランスが偏っている。…もう少し米と肉を食え。炭水化物とタンパク質を摂らないと話にならないからな…ほれ」
俺の弁当の蓋を皿にして…少しの量を取り分ける。それを紫悠の前に差し出した。
「取り敢えず今日はこんぐらい食ってみ。無理だったら無理って言えよな」
「…うん、それじゃあいただくね…」
そう言うや、紫悠は恐る恐ると言った感じで俺の作った飯に箸を伸ばす。そしてそれを数回の躊躇を得て口の中に放り込んだ。
…もしかしたら人の作った飯が嫌とか気になるとかの理由があるかもしれない…が、ここは我慢してもらうしかないコンビニとかで買う飯は最近お高いからね。
「んぐ…んぐ……」
咀嚼音もどこか弱々しい。もう少しガキガキと力を込めて噛んで欲しいものだ。
「……っ!! お、美味しい!」
「おっ」
そう言った直後、紫悠は次のおかずに手を付ける。
そのままパクパクと食べていき…気付けば分けたおかずが全て消えていた。
「あ、…もうないんだ…」
終いにはそんなことも言ってくれた…悪い気分はしないな。
「よかったら他のも食ってくれ。無理のない範疇でな」
「いいんですか!?」
残りの弁当を差し出しながらそう言う。それに対する反応も芳しいものだった。
「あぁ、そこまで気に入られると気分が良いからな。特別サービスってやつだ。…でも自分の飯もしっかり食えよ?」
ふふんと鼻を高くしながらそう言ってみたが、紫悠が気にしているのはどうやらそういうことではないらしく…。
「あ、えっと…違くて…ボクにこんなに渡したら名取君のお昼ご飯が無くなっちゃんじゃないかなって…」
どうやらそういうことらしい。…まぁ確かに気になる問題ではある。
しかしそれに及ぶことはない。ちゃーんと俺の分の飯は確保しているからな。
「安心しな、俺は弁当二つあるからよ」
そう言って取り出したるはいつもの様な巨大な弁当箱…大食いな俺には弁当箱一つは少々スモールサイズって訳だ。
「な、なるほど…名取君ぐらい大きくなるにはそれぐらい食べる必要があるんだね」
「まぁ質量的にはそうだな。けど過食は人にとって大概悪いことにしかならん。ただ闇雲に食ってもデブになるだけだ。大切なのはその人間に合った量の飯を食うこと…それさえ守れればお前だっていつかは平均的な体重になるだろうさ」
暗に無理をする必要はないと言う。
各々の速度で歩いても辿り着く場所は同じだ。ただ到着時間が違うというだけ…本当に焦る必要はない。
「俺を完全に真似する必要はない。ただ、俺のやっていることを自分の身に合う様にアレンジしろ。それが一番大切だぜ?」
「……うんっ! わかったよ!」
そう言って元気よく返事をする紫悠を見て、少しばかり微笑ましくなった俺だった。
そうして俺は紫悠と関わっていったが、学校生活はそれだけで終わるものじゃない。他にもたくさんやることがある。
例えば…ほら、もう少しでやると噂のあの行事…それの練習とか。
─
「え、俺がアンカーなの?」
「そうよ、だってこのクラスで一番足が速いの名取だし…陸上部の男子が嘆いていたわよ」
我が校では体育祭は十月に行われる。そしてそれ以前の体育の時間やらは競技の練習時間となるらしい。
なんで本来は体育の時間ではあるが、俺達はクラス全員で集まって競技の練習をしていた。
と言っても最初から競技の練習をするのではなく…まずは色々な役割を決めてからだ。今はクラス対抗リレーの話だな。
「やだよ面倒くさ……荷が重い。俺は最初に走ることを希望させてもらう!」
「却下、いいからアンカーをやりなさい」
ういっす…くそう。段々と委員長に飼い慣らされているきがするぞ…。
「後他には…他はいいでしょ、後は各々好きな様にやる感じで、それじゃあ各々解散して練習して頂戴」
「おいおい、ちょいと、適当すぎやしないか? もうちょい丁寧に話をしておくれや」
投げやりな態度にオイオイとツッコミをしようと思ったのだが…。
「…あのねぇ、そもそも私はクラス委員長なわけで、本来ここを仕切るのは体育祭実行委員の仕事なのよ? けどその二人があんまりこういうことが得意じゃないから代わりにやっているの…私、全然競技のルールとかも知らないんだからね? それを仕切れって言われても仕方なくない?」
逆の意味でオイオイだ。…こんなんで我がクラスはいいのだろうか。団結力が足りないんじゃないの?
「まぁ、最終的には名取に無双してもらうから大丈夫…頑張ってね」
人任せはやめて欲しいなぁ。…あれ、もしかしてこの言葉もブーメランか?
……しゃーなし、頑張るかぁ。
兎にも角にも、一先ず一緒にやる競技の奴と話さなければ話は始まらない。
俺がやる競技は全八つ。
百メートル走、綱引き、障害物競走、棒倒し、騎馬戦、借り物競走、クラス対抗リレー…。
この中でもクラス対抗リレーは既に色々決めた。リレー、綱引き、障害物競走、棒倒し、借り物競走は特に何かを決める必要はない。
つまり、後何かを決めるのは騎馬戦だけという状況ってわけだな。
「つーわけで、俺が馬になるから後三人誰かメンバーになれ」
騎馬戦をやるメンバーにそう言ってみたが反応が乏しい。…まぁ、そりゃそうだわな。
クラスの人間と関わってないからなぁ、そして関わるつもりもない…こりゃアレだな。どう足掻いも絶望ってやつだ。
「それじゃあ取り敢えず私が騎手になるわ」
「おう、頼むわ…ん?」
何やら聞き覚えのある女の声が…。
「なにぼけっとした顔をしてるの? 後二人ちゃっちゃか決めるわよ」
「委員長、何故お前がここに…」
まさかのまさか、委員長が騎馬戦のメンバーに混じっていた。騎馬戦って男限定の種目じゃなかったっけ。
「失念していたわ。名取が私以外のクラスメイトとまともに話が出来るわけないのにチーム競技に出してしまうなんて…その責任を取って私も騎馬戦に出場することにしたの」
「こいつほんま舐め腐りやがって…」
ぐうの音が出ない。正論キツー。
「だがいいのか? 騎馬戦って男限定の種目だった気がするんだが…少なくとも中学の時はそうだった」
「この学校では女子生徒も参加出来るわ。任意だし力の差的にもあまり女子は出場しないけど…少なくとも数人は参加する筈よ」
「ほーん…」
まぁ、そういうことならいいか。…よし、一丁他のメンバーも探すか。
結果的に、後のメンバーは一人が女子生徒、もう一人が男となった。バランスがいいね。
ちょい訂正、主人公がする競技のうちリレーを百メートル走に変えました。