体力的に厳しいぞ
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「今すぐ正座するか、もしくは私のサマーソルトを食らうか選びなさい」
「どっちも勘弁」
「ふんッ!」
ドスンと腹パンを委員長から貰った。結構いいストレートじゃねぇか。
「ごほっ!」
「ふん…これで昼休みサボった件はチャラね」
「うぃ…」
さて、当然の報い受けたところで…。
「なぁ委員長、ちょっといいか」
「なに、名取」
昼休み終わり、屋上でとある約束をしてから教室へと戻った。紫悠とは連絡先を交換したのでそのうち連絡するとしよう。
委員長にキレられるかなーと思いつつ教室へと戻り、案の定バチくそキレられたのが今の状況なんだが…戻って来て早々理解不能なことが黒板に書かれている。
「あのさ、俺の目が節穴か、曇っているのかそれとも幻覚を見ているのかわからないが…出場種目の欄に俺の名前書かれ過ぎじゃね?」
「あら、別に名取の目が節穴でも曇っていてもなく、更に言えば幻覚を見ているわけでもないわよ? ちゃんとここに書かれていることは現実だからね」
ほーん。…ええと、百メートル走、綱引き、長距離走、障害物競走、棒倒し、騎馬戦、借り物競走、クラス対抗リレー…流石に多過ぎじゃね…?
「ねぇ、俺の体力のこと考えて? どう考えても体力持つわけないよな、特に長距離走」
「あら、我儘ね…じゃあ仕方ないから長距離走だけは外してあげる。感謝しなさい」
「ありがとう。…じゃなくて」
えー、俺の意思は? 俺の意思はこの黒板には反映されないのか? 正直リレーとかに参加するつもりはなくて…玉入れとかをやろうと思っていたのだが…。
「委員長、本人の意思を確認せずに種目を決めるのはよくないぞ。少数の意見を無視するのはよくない」
「あら、ちゃんと確認したわよ? 名取はこの種目に出ても平気かって、ちなみにこの種目は全部推薦によって決められたものね」
それってよー、もしかしてだけどよー…俺がいない時に勝手に決めただけなのでは?
「俺、出るって返事してないけど…」
「確かにその時は返事はしなかったわね。でも出ないとも言ってない…そして私は十秒間何も答えない場合、沈黙は肯定と看做すから、だから全部に沈黙をした名取は全部に肯定したことになるわね」
こいつ性格わっる…! 人がいない時に自分ルールを押し付けやがった…。
「…ちなみに俺を推薦した奴は何処?」
「勿論私よ。光栄に思ってよね。私の期待を一身に背負っているんだから」
知ってた。
…はぁ、これ、どうにもならんよなぁ…だって昼休みにサボった俺が一番アカンからなぁ…。
しかしここで素直に首を頷かせることはしたくない。…もう少し、もう少しだけ譲歩させてみせる…!
「あー、いいん…」
「あ、これ以上私に楯突いたらマジで全部の種目に出てもらうからね。それを踏まえて何か言いたいことがあるのならどうぞ」
「…い、いや…なんでも?」
………沈黙は金なり、ここは黙って従うとしようか。ガチギレ委員長こわい…。
「そ、ならよかった。…これで実行委員からうだうだ言われるのも終わりね…あー疲れた。皆にはもっと自主性を持って欲しいわね。切実に」
ここでお疲れと言おうものなら次の一撃が襲い掛かって来るので、やはり俺は沈黙を選択するのだった。
………。
「おつかr……」
「ふんッ!」
怖いもの見たさにやっちゃうことって偶にあるよな。
─
「ってなわけでうちのクラス委員長にしこたまキレられてよ…こんな男はダメだからな? 今回は反面教師的な手本だからな?」
「う、うん…」
放課後、またもや屋上に集まっている。
この場にいるのは二人、俺と紫悠だけだ。
手本を見せると言っといてなんだが、俺はこいつのことをよく知らん。なので早速連絡した。
俺の呼び出しに二つ返事で了解し、今ここでちょっとした雑談をしているというわけだ。仲良くなる為には雑談が必要不可欠だと俺は思っている。
「それにしても…殴られたって言ってたけど大丈夫…? アザとかになってないの?」
「おう、殴られた程度でアザにはならん。鍛えているからな」
実際ただの擦り傷だ。委員長も本気で殴っては来なかったしな。
「す、凄いなぁ…ボク、体が弱いから体が強いのは羨ましいよ」
「体が弱い…かぁ」
確かにこいつの見た目は細い。本当に細い。軽く殴ったら死んじまうんじゃないかと思うくらい細い。
だが細いのは鍛えることで改善する。…ここで一番重要なのは…。
「なぁ、もしかしてお前って飯の量が少なかったりするか?」
「え、う、うん…多分人より少ない…かな」
やはりそうか…。
「体を強くする為には体に肉を付ける必要がある。脂肪でもなんでも肉がなければ体に安心感が出来ないからな…」
ガリガリの状態で筋トレしても意味はない。筋肉をつける脂肪が存在しないからだ。それだとただただカロリーを消費しているに過ぎない。
かと言って無理に飯を食えというのは酷な話だ。…
飯を大量に食えるというのは一種の才能だ。食えない人間はとことん食えない。体が食事を受け付けないのだ。
巷では太るのは簡単とか言われているが、それは間違い…実際には飯を食う方が辛かったりする。自分の満足以上の飯は苦痛にしかならないからなぁ。それで吐いたら余計に無駄だ。
「まぁ、取り敢えず普段の食事を言ってみろよ。そこからどう改善すればいいか考えよう」
「改善…うん、それじゃあ言うね」
そう言って聞かされた食事内容は…。
「お前…そんなんで生きていけるのか…?」
なんというか…俺がもしその生活をしたら一週間で餓死してしまう程度には少なかった。
「ボクも頑張って食べようとはしているんだけど…どうしても食べきれなくて…」
コイツなりに悩んでいるというのは一瞬でわかった。…なら、俺がすることは少しでもコイツの悩みを解決することだけだ。
その為の一手としては…。
「あー…まずその頑張って食べるのをやめろ」
「えっ?」
まずそれに限る。
「いいか? 人間無理なもんは無理だ。嫌なもんを無理にやらせようとしても余計にそれが嫌になるだけだからな…嫌なもんを受け入れるのにはまずそれを受け入れる土台を作ることが第一だ」
例えるとすると、トマト嫌いの奴に生トマトを食わせてもすぐに吐き出す。それを繰り返すとそのうちトマトを見るだけで拒否反応を起こす。
そういう時は一旦生トマトから離れさせて…例えばケチャップとかを使った料理を食べさせたり、トマトの原型がなくなるまで刻んだりと、色々な手間を掛けた方がいい。
コイツの場合だと…そうだな。
「お前、チョコ好きか?」
「チョコ? ううん、食べたことない」
あら珍し、今時チョコを買ったことがない奴がいるなんてな。
「まぁいいや、取り敢えずコレ食ってみろよ」
そう言って鞄から出したのはどこにでもあるチョコ菓子…俺のお気に入りのやつだ。
「あ、ありがとう…それじゃあ、いただきます…」
紫悠は渡したチョコを恐る恐る口に含むと…。
「……っ! お、おいしい!」
「そうかそうか…気に入ったか」
目を輝かせてそう言って来やがった。口にあったならよかった。
「そんな感じで、取り敢えず色々なもんを間食として食ってみろよ。胃袋が小さいんなら少しずつデカくしよう作戦だ」
これを続ければそのうち普通の食事が出来るぐらいにはなるんじゃなかろうか…素人知識で申し訳ないが…。
「あ、でもアレだぞ? 間食をしたからって飯を食い忘れることだけはするなよ? それだと意味ないからな。…そうさな、間食は飯を食う三時間前までやっていい。そっから先は腹が空いている時以外は何も飲み食いするな。そしてその後ちゃんと飯を食え…いいな?」
「うん!」
取り敢えず方針は決められたか…んじゃ次の方針。
「それと暫く昼休憩の時間は俺とここで飯を食え、いいな?」
「は、はい!」
明けましておめでとうございます。お正月ですね。
まぁ正月だからと言って特別何かするとかはないです。普通のお話で申し訳ないですが、取り敢えず今年もよろしくお願いします