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優しい世界が見たいんだ  作者: 川崎殻覇
高嶺聖は守られない
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ほんの少しの罪悪感

いつも見ていただきマジ感謝です。

目を開ける。

時刻は六時、女が就寝したことを確認し、気を落ち着かせて眠った時間が三時だから大体睡眠時間も三時間程度ということになる。


俺はショートスリーパーの気があるので睡眠時間は少なくても問題ない。普段はなるべく睡眠時間を確保しようと六時間は寝ているけどな。


取り敢えず周囲の確認、…女はまだ布団で眠っている様だ。


「……出て行ってくれているとありがたかったが…」


まぁ言っても仕方ないだろう。

…昨日一晩使って茹だった脳は冷やした。…もうあんな無様に、感情的にはならない。


昨日のことを多少は反省しつつ、取り敢えず朝飯の準備。


…いくら相手が死ぬほど不快なことを言ったとしても、女相手にいきなり怒鳴るのはよくなかった。…それは俺の唾棄する最悪な野郎とほぼ同じことだ。


俺もまだまだ…ということだ。自分では大人と思っていても、ふとした時に子供の様に振る舞ってしまう。…この悪癖は直さないとな。

それに俺は相手の事情も知らない。…あの女が何をされたのかも知らず、ただ自分の気分が害されたとして相手を排除しようとした…それはいくらなんでも短絡的過ぎるだろう。


自分のことが若干嫌いになりつつ、もそもそとパンを食む…食パンの味が若干しょっぱい気がする。不思議だ。


と、そんなふうに朝食を摂っていると、もぞもぞと布団が揺れる…割と早い起床だな。


「ん…」


あんまり見続けるのもな…と思ったので意図的に視界から女を外す。


「…ッ!」


女は周囲をぼんやりと眺めていたが、俺の姿を確認した瞬間にガバッと身構える様に自分の体を退かせた…いらっ。


「──ッ!? す、すみません…!」


しかし即座に謝罪。…はぁ、まぁ別にいいけどさ。

すぐに謝れるのならいいさ、それは自分の行動に罪悪感がある証拠…そして先程自分の体を退いたのは…多分本能的な部分に由来するのだろう。


まぁ気持ちはわからんでもない。俺も寝起きに見知らぬ女がいたら死ぬほどビビるだろうしな。


女はおろおろとしている。おそらく自分でも失礼なことをしてしまった…と思っているのだろうな。

…ったく、しゃーなしだ。


「起立!!」


「…っ!」


そんな微妙な空気を変えるべく、朝だから静かめに、しかし声を張らせて女にそう告げる。女は反射的に俺の言葉に従った。


「自分で使った道具は自分で片付けるべし! ということで使った布団は自分で畳め!」


「は、はい!」


何が何だかわからない…と、そんな様子ではあったが、女は素直に俺の指示に従った。几帳面な性格なのか、畳まれた布団は結構綺麗だ。やるな。


「お前は朝飯はご飯派か? それともパン派?」


朝飯を食べさせないなんて意地悪はするつもりはない。そんな嫌味な継母みたいなことしてたまるか。

俺の家にいるのならどんな相手だろうとしっかりと相応の世話をする。それは俺が昔から心掛けていることだ。


「ご、ご飯派です」


「そうか…残念だが我が家は朝はパン派だ。つまり米など炊いていない。なのでお前にはこの食パンを食べてもらいます」


「せ、選択肢の意味…?」


「いや、別に望んだ方を作るとは言ってないんだが? ただどっち派か聞いただけだ」


「ん、んー…」


納得いかない…みたいな顔されてもな。今から米炊いても一時間は掛かるよ?


「えと、一つ気になったんですが…朝ごはんは食パンだけですか? ジャムとか、バターとか、焼いたりとかは?」


俺の食っている食パンを見たのか、そんなことを女は聞いてくる。それに対する返答は簡単だ。簡潔に一言で終わる。


「そんなものはうちにはありません。ノーマル食パンオンリーです」


「あ、味気なさ過ぎる…」


いや、ほら…別に食パンだけで事足りるから。エネルギー摂取には充分だから…。

しかしそんなこと言われてしまっては仕方ない。何か適当に作ってやるか。一応お客人だし。後ろめたさもあるし。


「…ちょっと待ってろ」


重々しく椅子から立ち上がる。あ、そうそう。


「お前、目玉焼きは半熟派か? それともかた焼き派?」


「え、…と。半熟派です」



「ほい」


軽くささっと目玉焼きを作る。ハムも丁度あったので一緒に焼いてみた。

それを皿の上に乗せ女に渡す。


「ったく、贅沢な奴め…こんな豪華な朝飯久しぶりに作ったわ」


「ど、どんな環境で生きて来たんですか…?」


おいおい、これを豪華と言わずしてなんと言うんだ。最近卵高いんだぞ? ハムも言わずもがなだ。


「…えっと、流石に家主より豪華な食事を食べるのは申し訳が…」


「家主は朝は多く食べれない体質なんだよ…遠慮せずに食え」


「…はい」


そう言うと女は遠慮がちにパンを食べる。…うん、まぁ普通の態度だ。


「…さて、と、飯を食いながらでいいから聞いてくれ」


「は、はい」


「………昨日は悪かった」


取り敢えず先に言わなければならないことを言う。


「昨日はいきなり怒鳴って悪かった。…俺は顔が厳ついし、相当怖かったと思う。…本当に申し訳ない」


俺は目の前の女に謝罪をする。

やってはいけないことをやった。恥じたことをしてしまった…ならば、それに対する謝罪はしないと。


「い、いえ…私の方こそ貴方を穿った見方をしてしまいました。…貴方は最初から何も要求してはいなかったのに、本当に浅慮でした。申し訳ありません…」


女は慌てるようにパンを食べるのをやめ、頭を下げる。


「そこに関しては死ぬ程腹が立っている。今も若干不快に思っている…が、それは俺がお前の事情を知らないから…。だから、お前がなんであの場所にいたか教えてくれないか?」


「事情…ですか」


女はその言葉を嫌がる様に目を逸らした。どうやら相当口にしたくないことらしい。だが、俺はそれでもその事情を知らなければならなかった。


「あぁ、だが勘違いするなよ。別に俺はそれを聞いてもお前の事情を解決出来ない。…ただ、俺が納得したいから聞きたいだけだ。家賃代わりというわけではないが、取り敢えず話してみな」


事情を聞く理由はそれだ。


俺は納得したい。俺の怒りが正当なものだったのか、それとも不当なものだったのか…。

正当なものならそれで終わり。だが、その怒りが不当なものなら…過剰な攻撃なのだとしたら…それは俺の過失だ。それは俺が嫌いなものと同じ。

もしそうなのだとしたら…やはり謝らないと。俺のなりたい俺になる為にそうしなければならない。


「…そう言われては話さないわけにはいきませんね」


女はパンを食べる手を止め、改めて俺の方へと振り返る。

俺の方も言葉を聞く姿勢…をしようと思ったが…。


「まぁ、それは朝飯を食い終わってからでいいさ、飯中に話すことでもないだろうし…」


内容は知らないが、多分ヘビーな話だろう…飯を食いながらそういう話は聞きたくない。


「…それもそうですね」


そう言って女は再びパンを食べ進める。俺の方は既に食い終わっているため無言で待つことにする。


「…………す、すいません。すぐ食べ終わりますので…」


「え、あー…」


俺が無言になるとどうも相手に重圧を与えてしまうらしい。…まぁ、顔がこんなんだしな。


「別にゆっくり食べてていいぞ。飯が喉に突っ掛かったら大変だ」


「は、はい…」


しかしながら、女がパンを食べ終えるのはそれからほどなくすぐのことだった。

なんか、急かしているみたいでごめんね…。

主人公は沸点を超えない限りは温厚ですが、一度沸点を超えたら激しく怒ります。ですがそれは一過性、それを長時間維持することはあまり出来ません。

その後、そこまで怒ることでもなかったかもしれない…いや、そうだとしてもいきなりああいうことをする必要はなかった…と、そんな反省を凄くしてしまいます。

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