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優しい世界が見たいんだ  作者: 川崎殻覇
恋は熟せど散りぬるを
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或る少女の一歩

閲覧感謝です

一人の男性に恋をしました。

思えば、人を好きになるのはこれが初めてのことでした。


キッカケは貴方が私を助けてくれたから、非凡でありながら当然の様に私は貴方に恋をしました。

絶望の淵に陥った時、助けてくれたのは貴方でした。そこからずっと私は貴方に恋をしています。


…でも、こんな想いを抱くのは初めてだから、どうやって気持ちを表せばいいのか私にはわかりませんでした。


初めて漫画本を買いました、皆さんがよく見ている少女漫画、今までそういう本に興味を持ったことがなかったので買う際には少し緊張しましたが、なんとか買えてその日のうちに熟読しました。


面白かった、とても物語にのめり込んでしまった…まるで自分のことの様にその作中に登場する人物に感情移入をしてしまいました。


主人公が相手役の男の子と良い関係になりそうになるとドキドキして、ひょんなすれ違いから距離が離れそうになるとハラハラして、その誤解が解けて仲直りして…今までよりも更に関係が深まると感極まってしまう。

少女漫画というものさとても心臓に悪くて…心から楽しめる読み物でした。


私もあの子達みたいにあの人と関係を深めたいと思っていても、やっぱり行動に移す勇気はなくて…。

…でも、それでもと思ってしまって心がヤキモキしてしまう。…多分、今の私は少しおかしいのだと思います。


今までこんなに心が動くことなんて全くなかった。心を動かそうとすら思わなかった。

みんなが思う自分になって、その期待に応え続けることだけで精一杯だったから…それ以外の何かを手に入れ様だなんて思いもしませんでした。


そんな周りに必死に合わせていた私も最近では少し変わりつつありました。ある人に言われて自分の意識を変えてみたのがキッカケです。


少しずつでもいい、誰にとってでもなくてもいい…本当の私を知ってもらって、その上で私と接してくれる人は必ずいる…そんな言葉をもらって、私は少しずつ変わっていきました。


以前の様に完璧を演じることはなくなって、周りの人はほんの少し離れてしまったけれども…それでもいろんな人が私と関わってくれようとしてくれた。私のことを友達と言ってくれた。

…本当に簡単なことだったんだと実感しました。


「ねぇ、聖ちゃんはバレンタインデーで誰かにチョコあげないの?」


バレンタイン、それは好きな人にチョコをプレゼントする日。

それはとある教皇の殉教日、恋人を祝福し、そのせいで当時の皇帝に処刑されてしまった彼の功績を讃えるべく生まれた日。愛を伝える二月十四日。


「チョコ…ですか」


まだ早いかもしれない。まだ彼と知り合って半年と少ししか経過していない。

想いを伝えるにしてももう少し準備とか、覚悟とか…色々なものを用意する必要があるのはわかっています。


「…そう、ですね。…一人、渡したいと思っている人はいます」


でも、それじゃきっとダメなのでしょう。臆病なまま、今の関係のままで満足してしまえばきっと私はこれから先も動けなくなってしまう。


「…えぇ?! だ、誰!?」

「それは…ひみつです」


好きな気持ちを隠しても仕方がないのだから、この気持ちを放置することなんて出来ないのだから…なけなしの勇気を出して、想いが伝わって欲しいって思って…そう願わずにはいられなくて。


「…誰にも内緒です」


きっと、叶って欲しいと思うのです。


「こ、この反応は本命だね…! いいなぁ、私も聖ちゃんのチョコ欲しいなぁ、友チョコでいいから私にも作ったよー」

「すみません…その、本気でその人の為だけに作りたいので…二月十四日以降でなら作りますよ」

「ぐあぁ…っ! 本当の本気で本命ダァぁ…!!」



クラスメイトとの雑談、それは楽しいものだった。


なんでもない話をするのは楽しい、有意義な時間でなくても構わない。だってこの時間に意味なんて求めていないのだから。


意味なんてものは求めず、ただ楽しさだけを追い求められるというのは本当に幸せなことだと思う。ほんの少し前、そんなありふれた幸せを失いそうになった記憶が更にそれを強く感じさせる。

家族が今も元気でいる嬉しさ、今も家族みんなで幸せにいられる時間の大切さ…その全てが彼がくれたものだった。


…彼は、そんな幸せを今も感じられているのだろうか。


彼の事情を良く知っているわけではない、あくまであの日実家に帰り、戻ってきた彼の表情と、その薄暗いまでに掠れてしまった明るさから推測してしまった。


もしかしたら、彼は自分の家族とあまり良い関係を構築出来ていないのではないか…そんなことを考えてしまうのだ。


思えば、事態が解決に乗り出した日の彼の様子もおかしかった。

自重をする様に頭を抱え、まるで嫌なものを見るかの様に携帯端末を取り出したかと思うと、何度も何度もため息を吐きながら電話をしていた。


多分だけども、彼は本当はあの日電話をしたくなかったのではないか、その人に頼るなんてことはしたくなかったのではないか…ずっとそういう予想が私の頭の中で彷徨っている。


それでも彼は結局電話を掛けてくれた、私の、そして私の家族の暮らしを優先してくれた。…それは本当にありがたいことだけれど、その代わりに彼に大きな傷を与えてしまったのではないかと今でも思う。


精神的にも、物理的にも…私は彼に痛みを与え過ぎてしまった。そんな私がどんな顔をして告白をすればいいのだろうかと今少し悩んでしまっている。


躊躇いはある。

これ以上嫌われたくない、これ以上距離を離されたくない…そんな気持ちが残っているのは確かだった。

確かではあるが…その躊躇は先程終わらせたばかり…もう気にしない。


彼と距離を離せば二度と近くには戻れない予感がある。漠然としたその予感を私は確信してしまっている。


半年以上も一緒に過ごしているのだから彼の性格も少しは把握出来ていると私は思っている。今までずっと人の顔裏ばかり窺っていたから余計に。


性格的には人とのコミュニケーションを好みそうな部類のはずなのに、人と親密な関係になることはない。それは彼が意識的に線引きしているからだ。


"これぐらいまではいい、これ以上はダメだ“ ……そんな独自の境界線が彼にはあるのだと思う。

その境界線を越えればきっと彼は私との関係を断たれるのだろう…そんなことは百も承知だった。


その上で私は彼が好きだと言いたかった、それはこの恋を諦める理由にはなってくれなかった。

怖いと思う気持ちはある。でも、それでも私はこの先の関係になりたかった。


その一歩を踏み出そうと思えたのはとある例外を見たから…友人の枠を超えた関係になった人をこの目で見たから…だから、私もそんなふうになりたいと思ったのだ。


「………」


胸が苦しい、焦燥感で心臓が嫌になる程動いている。

まだ彼に渡すチョコを作ってすらいないというのに…渡す想像をしただけでこれだった。


ドクンドクンと、心臓は今も止まってくれない。

ぼちぼちと更新していきたいですね、今回はとある少女目線で進行していきます

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