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優しい世界が見たいんだ  作者: 川崎殻覇
恋は熟せど散りぬるを
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ずっとこのまま

閲覧感謝です、今回の章はわりと短めです

『──ねぇ、名取君…私と、ずっと一緒に生きていかない?』


寒い夜、二人でイルミネーションを眺めていると突如として彼女はそう言った。


『──名取さん、私…貴方のことが好きです。…好き、なんです』


夕焼けが校舎を焦がす頃、二人きりの教室で彼女はそう言った。



何か大切なものを得る、それはきっと素晴らしいものだ。


人生において大切なものとは生きる上での指針となり、財産となり、そしてこの上なく幸せなものなのだと思う。


…俺は、そういうのを得ようとは思ってはいなかった。


空っぽな自分でいい、何も持っていない自分でいい。過去に持っていた物を除き、それ以上に増やすことはないと決めている。


何かを守るのも、それは誰かにとっての大切なものだからだ。それは俺の大切なものではない。

俺に大切なものなんて勿体無い、俺には許されない。俺に必要なのは誰かの大切を守ること、それをしなければならない。


今も、これからも…ずっとずっと変わらない俺の生き方、変わるつもりがない俺の生き方…誰だって変えることの出来ない俺の生き方。

だから、俺はずっとこのままだ。


誰かの意思に捻じ曲げられることもなく、誰かに絆されることもなく、誰にも譲れない俺の生き方、それはずっと揺らがない。


今も、未来も…ずっと。




冬休みに入った、やることがない。

家でぐだぐだ、病院からはもう退院したのでもう自由に過ごせるぞ!


指のリハビリがてら適当に料理に洒落込んでみても余裕! なんとなくこの指の動かし方もわかって来た。

術後の経過をチェックしなきゃならんとか言われたので完全に治ったわけではないのだが…まぁ日常生活を送るのなら問題ない。何もスポーツしてなくてよかったぁー。


「……暇だな」


遥稀は既に何処か遠くへ、場所は聞いていない。

書くつもりがなかったというのもあるし、単純に聞くのを忘れたというのもある…今は若干聞いときゃよかったかなぁと思っている。


たまーにあいつの方から連絡が来るが惚気しか飛んでこない。いや別にいいけどね?


どーにもあの眼鏡女子と交際関係に至ったらしい、いやそうなるのはわかっていたし、わかっていながらサポートしたのだが…そんな早く惚気る?


いや本当に別にいいんだよ? 人の惚気聞くの嫌いじゃないし、中学の時はお嬢や坊ちゃんの惚気もめっちゃ聞いてたし。

けど…こうね? それを俺に話さなくても別によくねー? と思うわけですよ。それを聞いたところではははーしか言えないんだよね…やっぱつれぇわ。


というか、遠距離恋愛は別れやすいとかよく聞くのだがあいつらにはその傾向が全くないな、うん。


そもそも付き合い始めて数日とかそこら辺だし、遠距離恋愛で別れるパターンのカップルって付き合い始めからベタベタしてるパターンが多い気がする。

それに対して遥稀と眼鏡女子は奥ゆかしい付き合いをしている…うーんこれは負けない。どちらもカチカチ過ぎる。


というか性格がどちらも耐える向きなんだよなぁ…遥稀は言わずもがな、眼鏡女子だって根気強く遥稀に話しかけていたそうだし。

というかもし我慢出来なくなったら普通に会いに行きそう、多分だけど眼鏡女子にだけ引っ越し先教えてるぞあいつ。


まぁそれは別にいいんだよ、問題は惚気だよ惚気。


俺以外にそういうことを話せる奴がいないのはわかっているが…もうそろなんとなって欲しい。ていうかそういう惚気ってもっと大事にした方がいいと思うんだよな、うん。

なんというかさ…二人の思い出って言うか? 誰にも話したくない秘密の共有とかあるじゃん。そう言う感じにした方がいいと思うよ?


まーったく、俺が辛抱強くなかったらマジギレしてるよ? マジマジのキレキレだよ? よかったなぁ俺が辛抱強くて、今でもちゃーんとひゅーひゅーしてやってるぜ。


…えっと、何の話してたんだっけ? …あぁそうそう暇っていう話だ。


こういう時趣味がないのは困る、もっと趣味増やした方がいいのだろうか…?

強いて言えば家事? いや、家事は趣味というかやらなければならないことと言うか…もし全世界で何でも万能家事ロボットが普及して掃除も料理も何もしなくていいのなら俺多分やらないし…やはり家事は趣味ではない。


運動は…今はちょっとなぁ、他には読書…も特に読みたい本はなし。


外は寒いから出掛けたくないし、誰かを家に呼ぶつもりもない…うん、詰んだな。


だったらぼーっとし続けているとしよう。こうやって脳内で思考を空回しするのも案外悪くない、結構面白いぞ。


「入るわよー」


そんなふうに思考を世界に同調させようとしていると、急に部屋に押し掛ける者が…。


「合鍵渡しているとはいえ、急に入ってこないで下さいよ。せめてインターホンは押して下さい」


「別にいいでしょー? 細かいことは気にしない気にしない」


入って来たのはやはり先生だ。


先生は俺が指を怪我してからというもの毎日俺の世話をしようとしてくれている。

病院で差し入れをしてくれたり、何だかんだ毎日見舞いに来てくれたり…えらく甲斐甲斐しいのである。


別に気分としては悪くはないのだが…若干申し訳なくなる。迷惑を掛けている気がして落ち着かない。


「ふんふーん…」


帰って来て早々風呂掃除を始めているのがその証拠…うむむ。


「あの、先生…色々やってもらって助かってるのは事実なんですが…もう指もほぼ治ったんでそこまでしてもらう必要はないですよ」


「んー? そう? じゃあ私がやりたがってるってことにしておいて、実は家事が趣味なの、私」


「しておいてって…」


普段は俺に色々やらせているのに家事が趣味はないだろう。取り繕う気が全くない。

俺が何を言っても無駄なんだなということを察し、今ここでやめさせるのは諦める。俺が早く指を元通りにすればいい話だからな。


「……」


最近はこういうこともあり更に暇である。あー暇暇。


「…俺も手伝いましょうか?」


「大丈夫よー」


そう言いながら先生はテキパキと家事を勧めてしまう。


うーん、この人典型的なやろうと思えば普通以上に出来る人だからな…更に奉仕体質というか、頼まれなくても頼まれた以上のことをすると言うか…ダメ男製造マシーンと言うか…。


先生が何回も変な男に捕まる理由がよくわかった。この人とにかく便利なんだ。


仕事は出来る、家事も出来る。気遣いも上手くて性格もよい。あとちょろい、頼まれなくても何でもするが頼んでも何でもしそうな勢いである。


何でも出来るからこそ次第に何にもしなくなる。むしろそれが喜びとなるのだから手に負えない…こんな都合のいい存在がいたら堕落するのが目に見えてわかる。


「…やっぱ俺もやりますよ」


俺はそういうのを良しとはしない主義だ。

都合のいい存在がいたとしても使いたくない、それが俺を慮っているからだとしてめ認め難い。


「えー? 別にいいのに…」


「もう充分助かったので…後はリハビリがてら自分でゆっくりやろうと思います」


気が落ち着かないというか、有難いのは間違いないのだ。


一時的ということで今まで好意に甘えていたが、もうそろそろ自立しなければ…一人で生きていくと決めたのだからどんな状況でもなんでも出来るようにしないと。


先生は不満げな声をしているがそれを無視して先生を居間へと追いやる。


「適当なつまみ作っといたんで食べてみて下さい。割と自信作っす」


「…そう? じゃあ頂こうかな」


そうやって、俺と先生は前と同じような関係を演じる。…どうやら今の俺はこの関係でないと落ち着かなくて仕方がないらしい。


そんなこんな、だらだらと適当な時間を過ごす。

そんな時だ。


「ねぇ名取君、一つお願いしてもいい?」


そんな言葉を先生は言ってくる。


「別にいいっすよ」


俺は取り留めもない話だと思って簡単にそれを了承した。


「明日…ううん、明後日からの三日間、君の時間を私にくれない」


「ん…?」


突然の言葉に疑問はなかったけれど、その言葉を否定する理由も材料も俺にはない。


「わかりました、何をするんですか?」


「それはその時が来てからのお楽しみということで…ね?」


不思議に思いながら、俺はそれを受け入れるのであった。

章完結までの目処が少し経ったので取り敢えず一話投稿、続きはぼちぼちやっていきます。

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