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優しい世界が見たいんだ  作者: 川崎殻覇
紫悠遥稀は戻れない
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理性を飼い、狂気を見つめる。全てを切り崩した時、その先にはいったい何が見えているのだろうか

閲覧感謝です

「今すぐには無理なんだけどね、そうだなぁ…二ヶ月くれれば調達や調整も終わると思うからそれまで待っててくれるかな」


「…冗談で言っている様には聞こえねぇな。…なんでそんな意味わかんねぇ思考が出来るんだ?」


「意味がわからない? それはどういうことだい?」


…努めて冷静に思考を促す、先生の治療のお陰で死にたくなる様な激痛が我慢出来ない痛み程度まで引いているからな…まだ頑張れる。


「そんな非人道的なもんはいらねぇつってんだよ。そもそもどうやってンなもん用意するつもりなんだよ」


「どうやって…かぁ、それは今までの伝手を使ってかなぁ…」


伝手というのは俺が先程提示した資料に書いてある連中のことだろう。…何故俺がこの資料を出したのか理解してないのだろうか。


「…アンタ自分の立場わかってる? 遠回しにアンタは終わりだよって伝えてんのわかんないの?」


「何故? 欲しくないの?」


…なんだろう、話が通じる気がしない。…まるで別世界の住人みたいだ。


「…はぁ、…まぁいい、本題を言おう。…テメェはどうして紫悠遥稀をあんな体にした、まさか完全な善意でやったってわけじゃねぇよな」


これ以上まともに聞き続けると脳が腐りそうだ…なので強引に話を持っていく。


コイツを豚箱にぶち込むことは既に決まっている。だがその前にコイツがどういう動機で遥稀を壊したのか知る必要があると思った。

興味本位と言われればそれまで…けど、俺はそれでもどうしても知りたかったのだ。


「…っ! よくぞ聞いてくれたね…!」


この先、こんな異常者と相対する可能性があるかもしれないから…それに備えられるかもしれないから。

だから、俺は知りたい。


「だって、あんなにも美しい存在はこの世に存在しないだろう?」


「……は?」


けど、そんな備えなんてものは無駄、コイツらのことを考えるのなんて無意味でしかなった。


「僕はね、男の娘という存在を愛しているんだ」


好奇心というものを抱くのは構わない、それで終わるのなら問題はない。

が、それが現実まで染み込んでしまえば、それは冒涜的とまで言える程の事態になる。


「男と女のどちらにも属さず、さりとてどちらの美点を有している存在…男の様にむさ苦しくなく、女の様に醜くない…まるで幻想の様な存在だと私は思っていた」


恍惚とした表情でそう言っている。

まるで自分の言っていることが世界の真実とでも言う様に、酔っ払いの戯言よりも非現実的な言葉を吐き出していた。


「だが現実にはそんな幻想はない、どれもこれも贋物さ、分厚い化粧で、外科的方法で取り繕っているだけの紛い物…気持ち悪い汚物だ」


そいつの言葉は止まらない、聞いてもないことをベラベラと喋り続けている。


「嗚呼…! それでは世界に汚物だけが残る、贋物だけが蔓延る…。……だから、私は理想を造ったのだ」


「あっそ、…で? その理想が紫悠遥稀だと?」


「そうとも、…アレは本当に素晴らしい逸材だ」


よくもまぁこんなペラペラと喋り続けられるものだ。危機感というものがないのだろうか。

…きっとないのだろう。


コイツは狂っている。狂っているからこそ本来躊躇する筈の境界線をいとも容易く超えてしまっている。


「全てが理想的だった…あどけない顔、凛とした声…何にも疑うことのない無垢な瞳…」


遠い過去を見る様に、目の前の男は興奮の声を出す。…本当に気持ちが悪い。


「だが、それは一過性のものだ。人間は成長というものが必ずしてしまう。…あのままがいいのに、時が止まって欲しい程お前は美しいのに…全ては過去になってしまう………」


自分に酔った発言とはこういうものなのだろう、まるで演劇に出ているかの様に大袈裟な動きと声をしている。

しかし、それは一瞬。


「だから成長を止めた」


一瞬で平坦な声になる、先程まで外に発せられていた熱が内側に引っ込んだ様に見た目だけはマトモになる。


「まず母親を殺して心の平穏を閉ざした、その次に体の成長ホルモンをイジリ現状を維持、次に女性ホルモンを注射して理想の体へと変貌させる。成長期に打ったのでその調整も楽だ。他には食事、運動の制限、心の拠り所を無くす為にそこらの者達に徹底的に凌辱させた。他には………」


「────あ?」


淡々と喋っている内容の全てが意味不明だ。


脳が理解を拒む、目の前の存在が同じ生物とは思えなかった。


「…お前、今なんつった」


「何とは?」


色々と言いたいことはある、…だが、特に一番聞かなくちゃならないのは一番最初にさらっと流したところだ。


「お前が遥稀の母親を殺した…? …お前、その母親の兄弟だっただろ…!?」


「そうだが? 紫悠遥稀の母親は私の姉だ」


…待て、待ってくれ。


確かに紫悠重の死には不可解なことがあった。警察の対応も雑だし、事故とは言ってもその場にいた誰にも追及がないのはおかしい話だった。

その違和感を無視した結果、俺はここまで動揺させられている。


「仕方ないだろう? 私の理想の為には邪魔だったんだ。それにアレの父親は精神が脆い、妻を喪えば精神が異常になってくれると思った。そこに救いの手を差し出せば嫌でもあの子は私の提案を受け入れざるを得なくなる」


全て…全てコイツの仕業だったのか? アイツの不幸は全て…コイツが生み出したものだと…?


「しかし人を殺すというのは面倒だな、色々と準備をしなければ足が付く。彼等の協力がなければ私一人でなんとかしなければならなかった。そのせいで余計なモノ(人間)を作らなければならなくなったが、それのおかげで紫悠遥稀を調整する目安を立てられた、つまらぬ仕事ではあったが役には立ったよ」


「………」


身勝手な熱が胸に宿る。


轟々と燃え続け、今にも噴き出しそうな熱が脳味噌を燃やす。



目の前の存在を殺せと、心の中の俺がそう言っている。



「───ふぅぅぅ…っ」


そんな自分を、理性という檻で黙らせる。


俺がここで手を出せば、その時点で俺の負けだ。

一度でも傷をつけた時点で俺の立場が不利になる…こいつを地獄に落とす為には余計なことはしてはならない。


俺の勝手な感情で動けば全てが台無しになる…だから、理性を飼い慣らせ。

本能だけで動く様な愚…そんなことはもうしないと誓ったのだから。


「しかし姉を殺して正解だった。まさかあそこまで上手く事が運ぶとは。お陰でイイモノが見れたし、私も随分と楽しませて貰った。…また、シタいなぁ」


「──…ッ!」


脳の血管が千切れる感覚、目線の先が段々と赤く染まってくる。


怒りだ、怒りに染まる。何度も何度も何度も何度も心が目の前の存在を殺したいと叫んでいる。


だってその方が楽だ、暴力は楽だ。…今、ここで目の前の男の首を絞め折ったならばどれ程胸がすくだろうか、どれ程気持ちがいいだろうか…。


…けれども、やはり俺がそんな怒りを抱くのはお門違いなのだ。この感情はあの親子が抱くべきものなのだ。


…だったら、部外者は部外者らしく、やるべきことをやれ。

…それが俺の仕事だそれを全うしろ、そうじゃなきゃ俺じゃねぇ。



「君も本当はアレを犯したのだろう? これほど親身になっているのだ、相当入れ込んでいる様だね」


先程の言葉も今の言葉も悪意は全くない。こいつは心身からそう言っている。


「あぁ、感謝の必要はないよ、私はあの子に君を誘えと言いはしたが、結局のところは本人の意思でそれをやったのだからね。よければこれからも大事にして欲しい」


コイツにあるのは欲望、その為にならこの世の全てを利用して捨てても構わない程の自己愛を有している。

現実を顧みることのない盲愛、思想で留まらず、現実にまで染み出してしまった害ある欲望。

悪意の無き邪悪、根本からズレている存在…コイツは生まれるべきではない人間だ。


例え神が全人類を愛していて、どんな人間も生まれるべきと言うのであれば…俺がその神を殺す。絶対にこいつを生まれるべきではないものにしてみせる。


「それで結局どうするんだい? やはり君だけのモノを作ってあげようか。あの子程美しいものは作れないが、醜くてもそれなりのものは作ってあげようじゃないか」


ただの個人がそんなことを言うなんて、お前は神にでもなったつもりか?

複数ある内の一つの自分がそう自嘲する。お前も対して変わらない外道だろうと正論を言って来る。


…そんなことはわかっている。

どれだけ善い人間振ろうとしても根っこの部分は変わらない…どれだけ頑張ろうと俺はクズだ。


…けれど、そんなクズであったとしても意地はある。外道だとしても…それで終わるつもりはない。


だから、クズでもクズなりに…絶対に、絶対に…目の前の存在を潰す。



「はっ、いらねぇよ気持ち悪ぃ、脳味噌に蛆沸いてンだろ」


「ん?」


俺がそんな反応をすると思っていなかったのだろうか、呆けた声が聞こえる。


「お前の言っていること、一から全部なんも理解出来ねぇ、ただただお前が異常で気持ち悪い変態だってことしかわかんなかったわ」


「はぁ…君もそういう人間か…。可哀想にね、真の美とは何か理解出来ないなんて」


一丁前に憐んでいるところ悪いが…その言葉を言ってもよかったのかい? 突けって言っている様なもんじゃないか。


「へぇ? じゃあ聞かせてもらおうじゃないか、いったい具体的に何人の、どんな人間がお前の言う真の美を理解出来たんだ?」


「………」


目の前の男は少し黙る。そして、ほんの少し時間を使った後に…。


「沢山さ、多くの人が認めてくれたとも」


「アンタ言葉理解出来る? 具体的にどんな人間が理解を示したかって聞いたんだよ脳無し」


そいつの纏う空気が少し変わる。

先程までの軽快な雰囲気は消え、ようやく俺に敵対心を抱く様になった。


「ンだよ、黙ったまんまじゃわかないぞ? あ、もしかして俺のことを勝手にお仲間だと思ってる? ヤメてくれよな恥ずかしい、アンタみたいな異常者と同じ括りに入るの生理的に無理なんだけど」


「誰が君なんかを仲間だと言った、…勿論いるとも、僕の理想を理解してくれる人が…僕に協力してくれる人がいるんだからね」


「唯一捻り出したのソレ? そいつらはテメェの理想に理解したんじゃなくて、お前が作り出した商品に興味があるだけだぞ? お前自身の理想に惹かれたわけじゃない。それはお前もわかってんだろ? だって自分で言ってたもんな、面倒な仕事をさせられたって」


「………」


こういう時ほど俺の口はよく回る。


脳の血管が千切れそうになるほど冷静じゃないのにも関わらず、心の芯では冷たい自分がそれでも冷静になれと脅して来る。


「んで他は? 言ってみろよオイ」


「さっきから好き勝手言ってくれちゃって…そんなわけないだろう? 他にも僕の理想に賛同してくれる人が…」


きっと切り崩すならここだ、ここしかない。


「あー、はいはい。それってお前に金を出すパトロンのことだろ? そいつらは単に同性愛者なだけだから、別に男の娘が好きなわけじゃないから、お前は利用されているだけなんだよ」


「っ…」


本当はアイツの言おうとしていることに確証なんてなかった。はっきり言って賭けに近い。


それでもここで賭けに出たのは相手に思考を読み取られていると錯覚させる為、俺の方が優位に立っていると誤認させる為だ。

そして俺はその賭けに勝った。奴の苦虫を噛み潰した様な顔がその証拠。


「真の美とか色々気取ってるが、それってお前が考えただけの妄想だろ? もしお前の言う真の美が本当にあるモノだとしたらもっと多くの人間が賛同してくれたり、表に出しても問題ないモノなんじゃないのか?」


少しずつ相手の平静を削る。


こういう自分を芸術家とでも思っている異常者は自分の考えの根本を否定されるとすぐに頭に血を昇らせる。

そしてそういう奴等に対しては"みんな”という言葉が有効だ。


「それがわかっているからこそお前もコソコソと裏の連中の力を借りてるんだろ? それって真の美って本当に言えるのかねぇ…?」


自分の考えが絶対的だと思っているからこそそれが他人に理解されないのが腹立たしくて仕方がない。多くの理解者を募って自分が正しいのだと証明しようとする。

もし理解を示さないのであればそいつが可哀想だと言いそいつらを異常者扱いしようとするが、それは揺らぎでもある。


自分が正しいと思っていながらもそれが否定される不快感は凄まじい、その否定の数が多ければ多い程苛立ちは増えていく。


「誰にも理解されないのならそれは単なる一人遊び、お前の中での美でしかない。なぁにが理想の美だ、ただただお前が狂っているだけじゃないか」


これが真の異常者…自分のことを異常だと理解している相手ならば俺の言ったことは全て無駄だ。そういう奴等は自分の中で結論が完結していればいいというタイプだから何を言っても揺らがない。


だが、コイツはあくまで自分を健常と自認している。自分の考えが全世界共通のものだと妄想している。


「さっきお前は俺のことを可哀想とかなんとか言ってたけど、俺からしてみればお前やお前の周辺の人間が可哀想で仕方ない…。お前という異常者と関わって可哀想だ、自分の頭がおかしいって気付かなくって可哀想だ…お前、本当に哀れだよ」


だから他人に理解を示させようとしている。自分はおかしくないのだから、自分が正しいのだから…どんな相手にも布教する。

……それを全て否定してやれば、どうなると思う?



一つずつ切り崩していった。


俺の言葉、相手の言葉を使ってそいつ言葉を否定する。自分の協力者だと思っていた者は単なる利害関係の一致で繋がっていた存在だと気付かせる。全てお前の妄想でしかないと告げる。

心の奥底、自分でもそうだとわかっていたからこそ、敢えて何も見ることなく奴は蒙昧を徹していた。その現実を改めて少しずつ切り崩し、突きつける。


ここまで冷静を演技したのはそれが理由だ、もし俺が奴の理想を力で否定したらその瞬間から奴自身の思考で奴の理想が正しいと証明されてしまう。

俺は一度もボロを出していない、相手は何度も何度もボロを出した。


さぁ、最後の言葉だ。

最後だからこそ、絶対的に俺の言葉が正しいと思わせる為…違う、自分でもそう思っている為…俺はとびきりの笑顔でそう言ってやる。


「なぁ、そろそろ現実を見た方がいいって! お前頭がおかしいんだよ。ナ? キモい妄想は妄想だけに留めておけよなこの異端者が」


「黙れ黙れ黙れ黙れぇッッッッ!!!!」


「いヒャハハハッッッッ!!!!」


嘲笑う、顔の筋肉を全開に歪めて大笑いをする。


誰にも理解を示されないというのはそれだけで苦痛だ。自分が異常者だと認めるのは身を切り崩すよりも受け入れ難い。


だから俺は大衆を演技する、笑って笑って笑ってやる。コイツのコンプレックスであろう部分を刺激し続ける。


人は自分が笑われると馬鹿にされていると思う性質がある。それも大袈裟に、狂った様に笑ってやればそれだけで効果は大きい、一瞬で沸騰する。


「黙れッ! 黙れッ! 黙れぇッッ!!」


目の前の男は耳を押さえて無造作に暴れる。頭を抱えている。

目の前の現実を見ない様に、絶対的な自分の正しさを認めさせる為に、暴れて暴れて何もかもを受け付けない様にしている。


「ひぃハハハハハッッッ!!!」


「誰も、みんなみんなみんなみんな馬鹿にしやがって…ッ! 何がオカシイだ、何が気持ち悪いだぁぁぁ!!!」


過去、同じことを言われたのだろう、その目には何も映さず、俺を映さず、ただただ今まで受け続けていた言葉に襲われていた。


「あはははははッッッッ!!!」


「認めろ…ッ! 認めろぉぉぉッッ!!」


俺に出来ることは全て終わった、もう何も出来る気がしない。

それまで俺を保たせてくれた気力は使い果たし、後に残っているのは激痛が走る体と疲弊し切っている精神だけだ。


半狂乱に暴れ回っているそいつの矛先には俺も混じっている。机の上にある器具、鋭利な刃物…様々なものがここにいる唯一の人間、御手洗漢喜の理想を否定し続けてきた生物の一つである俺に向けられていた。


そいつを反射的に避けようとしても出来なかった…指が痛くて、立っているのも座っているのも…意識を保つことさえも難しい。


…もう体に力が入らない、もう俺の全部使い切った。…暴れ回るコイツを抑えることは出来ない。


暴れ回った拍子で俺は弱者の様に地面へと倒れ伏す、追撃が止まることはなかった。


「ひゃは、は…」


「認めろ認めろ認めろ認めろ…ッ!」


蹴られ、殴られる。


「認めろ認めろ認めろ認めろ認めろッ!!」


顔面、腹、足、腕、全身が傷付く。


「認めろ認めろ認めろ認めろ認めろ認めろ認めろ認めろ認めろ認めろ認めろ認めろ認めろ認めろ認めろ認めろ認めろ認めろ認めろ認めろ───」


……そして、遂にその部分が足蹴にされる。



ブチリ…と、何かが千切れる感覚があった。

これまで人生で一度も味わったことのない感覚、やられてしまえばあぁ、そんな感覚なのかと思える一瞬。


激痛はピークを超えている、これ以上はもう痛くはならない。…けど、それ以上に喪失感が凄かった。


「ひゃ、は…」


「認めろ認めろ認めろ認めろ認めろ認めろ認めろ認めろ認めろ認めろ認めろ認めろ…」


意識が薄れる、その認めろという言葉は未だに途切れることはない。


「何ッ…! 何が起きて…名取君!?」


ガシャんと弾ける様な音がする。


「は、はは…」


きっと先生の声だ、…この場における俺の唯一に味方、俺が合図するまで中に入らない様にお願いしていたのに、どうして入ってきてしまったのだろうか。


……あぁ、そういえば合図をするのを忘れていた。…平静を演技していたツケがここに来たか。



胸の熱が段々と冷めていく、もうやり切ったんだという達成感が胸を癒す。


本当はこんなことになるはずじゃなかった。もっとクレバーに、イイ感じに事を進められると思った。


過去の出来事を話し、そいつを認めさせて自首を促したり、もしくは証拠で脅して出頭させたり…暴れ回ったらそれを盾にして警察を呼んだり…当初のプランはそんな感じだった。

しかしいざ現実になれば相手の異常さに押され、最終的にはこんな結末になってしまった。


俺もまだまだということだ、これからはもっと上手くやらなければ。

…けど、今は少し疲れたから…もう休ませてくれ。


「…急…ッ! はや…ッ!!」


耳が遠くなっていく、意識は辛うじてでしか残っていない。


ズキズキとした喪失感だけが残り、ふわふわと体が浮いている様な感覚がある。なんだかとても落ち着かない。


「……して、ここまで頑張るの…っ」


水滴の様な物が顔に落ちた気がした。それが誰のものなのか…今の俺には全く気がつけない。


途切れる意識の中、最後にどうしてもその存在に安心を与えたくて…なんとか言葉を捻り出そうとしたけれど…結局俺は何も言えなかった。


最後の最後、喪失感を埋める為に指先を動かす。

その信号を受け取るものはもうなかったけれど、誰かが動かそうとした指先に近い部分を触ってくれた。

それだけで、充分安心出来た。


そして、無様に縋っていた意識が遂に途切れる。

もう目覚めないでくれ…と、残った一人の自分がそう言った。

ラストバトル終了。

この章も残り数話…そろそろエピローグに入ります

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