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優しい世界が見たいんだ  作者: 川崎殻覇
紫悠遥稀は戻れない
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精一杯のエール

閲覧感謝です。あともうちょいでこの章も終わります

やるべきことはすぐに頭に浮かんだ。


遥稀の親父が遥稀の言った通りの人物なら…もし本当にそんな人間なのだとしたら…きっと俺が思い描いた未来になる。

その他の可能性は全く考えなかった、この先のことは正直全部遥稀の親父に掛かっているとも言ってもいい。


けれど不思議とそれ以外の未来になるとは思わなかった。だって、あの写真を見れば一目瞭然だろ?


あんな幸せそうな家族写真が撮れるのであればきっと上手くいく、俺はそれを信じて動けばいい。

…だから、他のやるべきことに俺は目を向けなければならない。


「すみません…俺に力を貸して下さい…っ!」


「いいわよ、なんでも言って」


恥を忍んで頭を下げて。


「親父、力を貸してくれ」


『…急にどうしたんだ?』


頼りたくない人を頼って。


「すんません…ちょっと調べて欲しいことが…」


『おうよ! お前は仕事仲間だから特別に割引してやってもいいぜぇ…?』


手銭を切って、同僚に頭を下げて…俺に出来ることはなんだってした。


その結果知りたいことは知れた、そいつを使うのは…もう少し後になる。…まだその時じゃないってやつだな。




「…展開が早過ぎないかい?」


「あ? 何悠長言ってんだ、善は急げって諺知らない?」


「それは知ってるけど…もう少し心の準備が欲しいんだけど」


二週間後、俺達は行動に移った。

丸々二週間全部を準備に費やしたので文字通り準備は万端だ。


「心の準備なんかするんじゃねぇ、お前はそのまんまの心で動けばいいんだ、逆に何か考えたら全てが失敗するぞ」


今なお怖気付いている遥稀を奮い立たせる為に説得する。


「…でもさぁ」


しかしどうしても遥稀はうじうじと悩み続けていた。



遥稀の親父を指定の日に呼び付けることには成功した、ぶっちゃけ準備期間に二週間も掛けた理由は遥稀の親父の予定に合わせる為だったりする。他にもいろんなことをやったがな。


「阿保、用意した言葉で相手の心を揺さぶれるかよ。…その時、その一瞬にしか湧かない言葉…それを伝えるだけでいい、それまでの露払いは俺がやってやる」


「…いちいちカッコつけなくていいよ」


「これがノーマルだ」


軽口で返されるが俺としては当たって真面目なことを言っているつもりである。なので茶菓子にも真剣に答える。


この二週間、俺は遥稀に何もさせなかった、ただこれまでの日々を続けさせた。


遥稀にとってそれは不安しか残らないだろう。

何も準備が出来なくて、考える指標すらなくて…いきなりのぶっつけ本番が今から始まるのだ。


だが、それが必要になる、逆にそれ以外は要らないのだ。だから何もさせなかった。


心を引き締める為に今日の俺はスーツを着込んでいる。…これなら見た目だけなら普通の大人と見間違えるだろう。


「いいか? 今から俺はお前…紫悠重の友人という体で家に入る」


「う、うん…」


作戦内容はざっくりと言った、それを今から敢えて言葉に出すことにより俺自身を含めて確認を深める。


「最初、俺はお前のことを紫悠重として扱う、それまでは俺に話を合わせろ、…得意だろ? そういうこと」


「言い方悪くない? …得意だけどさ」


演技という点においてこの場で遥稀の右に出る者はいない。

なんたっておよそ五年以上の間自分の存在を偽り続け、紫悠重という人間を演じ切って来たのだ…学園祭での演技の上手さにも納得がいく。


遥稀は所作の全て、表情、そして表向きの感情すらも偽ることが出来る、むしろそれが出来たからこそ今まで崩壊しなかった。

…今まではそれでよかった、だが…最後の状況になったその時、その演技が邪魔になって来る。


遥稀の化けの皮を剥がし、想定する未来に持っていく…それがこの場における俺の役割だ。


この役割のことは遥稀には伝えていない、あくまで遥稀にはありのままでい続けて貰う必要があるからだ。


「合図は出さねえ、だが行動はわかりやすくやるつもりだ。…俺の役目が終わり、その時になったら"お前”が説得しろ。これはお前以外には出来ないことだからな」


「無茶苦茶…君の提案に乗ったことを後悔しそう」


元々無茶を承知の作戦だ、そもそも人の動きなんて完璧に予想出来たりはしない。どうしたってぶっつけ本番になってしまう。それは遥稀や俺を含めてもそうだ。


そも、俺は遥稀の親父について何も知らない、というか知るつもりはない。

だって他人の親だし、そいつのパーソナルな部分を知ったところで俺のやるべきことは変わらない、そいつのことを想ってやる必要は俺には一欠片もない。


そういうのは息子である遥稀の役目…俺は戦争前の明智宜しく相手を追い詰めるだけでいい。



情なんて一切湧かさず、冷酷に冷徹に…今から俺は遥稀の親父に罪を突き付ける。


遥稀の親父が今まで忘却をし続けていられたのは偏に遥稀の優しさのお陰だ。


お父さんを傷つけたくない、お父さんに悲しい思いをさせたくない、お父さんに嫌に記憶を思い出させたくない…。

そんな思いやりがここまでの歪さを使った原因の半分…いや、そのまた半分だ。


酷なことだが、どうしたって事実は事実…外野の俺だからこそその事実を断定してやれる。


ま、もしすぐそのまま事実を突きつけていたらそれはそれで遥稀の親父は命を絶っていただろう。

忘却する程の絶望を再び与えてしまったなら必ずそうなる…わかるんだ、俺には。


そんな袋小路に立たされ、どうしようもないまま長い時を過ごした、そのままもう元に戻れない位置まで来てしまっている。

…そんな今だからこそ、ようやく遥稀の親父は救える。


「…遥稀」


「…どうしたの?」


もうすぐ行動に移る、これ以上時間を掛けたら遥稀の親父が不審がってしまう。もう既にこの家に行くという連絡はしたからな。

だからもう遥稀に言えることは少ない…そうさな、後もう一言ぐらいが丁度いいだろう。


「頑張れよ」


「…何言ってるのさ」


結果的に出て来た言葉はそんな安直なもの…気の利く言葉なんか俺には使えない。

だから、これが俺の精一杯のエールだ。


「なんでもね、…じゃあ、行くぞ」


「うん…」



この時間が終われば最終的に結末が決まる。


俺の行動が何の意味も為さずに全てが滅茶苦茶になるか、それとも片一方が救われる結果となるのか…それとも、両方を救える結果となるのか。

…しかし、俺が追い求めている結末は決まっている、なんたって…。


俺は、優しい世界が見たいんだからな。

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