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優しい世界が見たいんだ  作者: 川崎殻覇
紫悠遥稀は戻れない
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いつだって正解は身近に存在する

閲覧感謝です

「とは言ったものの、どうやって調べたもんか…」


啖呵を切った後、俺は紫悠の家を後にした。長く滞在する理由もないからな。

俺はいつだって即断即決…やると決めたものは即座にやり始める主義だ。


そんな感じで家に帰ったのだが…とても困った。


今、俺の家の中には先生がいる…。

そして今の俺の顔は穴が空いている状態…分かりづらいけどな。

それでもちょっとした傷だし、結構出血している…どう誤魔化したもんか。


「……まぁなんとでもなるか」


これしきのことで悩んでいる暇はない。今はとにかく紫悠のことに脳味噌を回したかった。


「ただいま」


「おかえりー」


家に戻ってからの第一声。

最初はこの家に引っ越して来てもただいまと言う習慣がなかったが、先生がやって来るに当たり自然とそう言う習慣が出来てしまった。


「遅かったね、何かあった?」


「まぁ色々と…」


先生は前を向いているので俺の方は見ていない。これならなんとかなるか。


先生に気付かれないように救急箱から消毒液を出そうとする。

なるべく自然に、察知されない様に取ろうと思ったのだが…。


「……あ」


消毒液を取り出そうとした段階でバレてしまった。…ヤバイな。


「もしかして喧嘩してた…って、凄い傷じゃない!」


そうして俺の顔を確認した先生は急いで駆け寄って来る。


「えぇ…? どうしてこんな傷が…顔に穴が空いちゃってるじゃない! いたたた…」


「別に大した傷じゃ…」


「傷に大きいも小さいもないの! ほら、貸して」


そう言うと先生は消毒液をガーゼに出して俺の頬をさらってくれた。


「また喧嘩売られたの? ちゃんと手加減した?」


「そりゃあ勿論。むしろ俺の方がやられた側ってくらいには手加減しました」


実際被害の度合い的には俺の方がデカい。向こうが受けたものといえば数発ぶん殴ったぐらいだしな。俺の方がよっぽどやられている。


「ほんと? ちゃんと私が教えた技使った?」


「んぐ」


そこを突かれるとちょっと痛い…傷跡も染みてちょっと痛い。


「もう…これは相手の為なんかじゃなくて君の為に言ってるんだからね? 変に怪我させたらあっちが悪くてもこっちが不利になっちゃうでしょ? だから護身術を教えてるのに…」


「す、すんません…次からは気を付けます」


長年の習慣というのはなかなか消せないらしい。頭からすっぽりと抜け落ちていた。


「その次を作らない様に立ち回ること。いいね…!」


「あだっ…」


最後にペシンと先生は新しいガーゼを貼ってくれた。手際がいいっすね。


「まったく…口の中は大丈夫? 一応確認しておこっか」


「いや、そこまでは…」


「怪しい…あーんして」


「や、本当に大丈夫ですって」


「はい、あーん」


有無を言わさない感じでそう催促される。…これは致し方なしか。


仕方なく口を大きく開く。

先生はそれを覗き込むと…。


「…うわぁ、凄い痛そう、これでよく平気とか言えるね…」


「ひっはいほんなひたくないれすよ」


「いや、痛くないって…口の中血だらけだよ? 歯茎にこの傷…後で絶対口内炎になるやつだ…いたそぉ」


そう言うと先生は俺の口の中に指を突っ込む。

いきなりの行動に少し戸惑うが、この状態で口を閉じると先生の指を噛んでしまう…なのでなるべく大きく口を開いた。


「ひたないっすよ?」


ちょっとした抗議、人のというか生物の口内は中々に汚い。あと唾液が出続けているのといつも閉まっている舌が手持ち無沙汰なのがちょっと変な感じだ。


「汚くないよ。…まだ出血してるね。取り敢えず血が止まるまでガーゼで圧迫するけど…その前にうがいをしようね」


「…うっす」


先生の真剣な目を見ていると抗議をする気分ではなくなったのでそこから先は何も言わずにその状況を享受した。


そんな感じで先生の手当てを受けていると気付けば深夜と言ってもいい時間帯になる。


「取り敢えず応急処置はこんなものね…明日学校お休みだし病院に行って来なさいね」


「うーっす」


俺の学校の学園祭は土曜日が最終日だったので明日…というかもう今日ではあるが、次の日は休みである。ちゃんと土曜日開催した分月曜日も振替で休みだ。


なので明日は普通に時間があるが…取り敢えず紫悠のことで集中したいからな…俺のことは後回しでいい。


「あ、その声…適当に返事してるでしょ」


「…いや、別に? ちゃんと行きますよ」


「ふーん…」


なんでも見透かした様な声がする…。

まぁ実際行く気はないので正しい、いつも思うけどこの人察しが良すぎるんだよな…今まで一度も隠し事出来たことがない。


「…ちゃんと、後で病院行くんだよ?」


けど、こうやっていつも俺に譲ってくれている。…いつも俺は甘えっぱなしだ。


「ちゃんと後で行きます。…けど、今少し立て込んでいて…それが終わったらになると思います」


だから俺も全てを隠したりしない、それが誠意というものだろう。


「そっか…ならヨシ!」


そう言うと先生はまたいつものポジションに戻る。これが先生なりの見逃した証拠らしい。


「先生、そろそろ自分の家に戻った方がいいんじゃないっすか?」


「まだ飲み足りないからもうちょっと…ネ?」


ネ? じゃないんだよなぁ…この酒カスだけなんとかならないのだろうか。…ならないだろうなぁ。


「はぁ…程々にしてくださいよ?」


まぁそれでもいい。譲ってもらったのだから俺も少しぐらいは譲るべきだ。

もしかしたらそう言うことも考えて酒カスっぷりを披露したのかもしれない。少しでも俺の負担を減らす…みたいな?


「ぱはぁ! っぱハイボールは濃い方が美味いわねぇ…!」


いや、違うな…単純にこの人は酒にだらしないだけだ。なんとかして?


「……へっ」


なんだか先生を見ているとずっと張り詰め続けるのも馬鹿らしくなってくる。


確かに紫悠の件については真剣に悩むべきだ。けれどもその為に俺の何もかもを注ぐというのはちょっと違う気がする。


俺はあくまで助けるだけ…その為に覚悟を見せる必要があるならそうするが、それ以上のことはしない。人生全てを支えることなんてしない。


「あ、そう言えば先生少し気になったことがあるんですけど」


「んー? どしたの?」


心持ちが少しだけ軽くなり、ほんの少し気になっていたことを雑談がてらに聞いてみることにした。


こんな疑問が一番解決に貢献するのだから思い悩みすぎるのはよくない…意外なところから光明が差した。


「さっきアニメを見て微妙な顔をしてたじゃないですか、なんであんな顔したんですか? 内容が微妙だったとか?」


「あー…それ聞く?」


先生はやはり微妙な顔をしながらごろんごろんと寝転んで…顔を仰向けにしながらこっちを向く。


「んー、ん〜、んんん……まぁ名取君になら教えてもいっか」


先生はもぞもぞと姿勢を戻しながら座り直す。そしてガラスの中のハイボールをぐびっと一息で飲み切ると…。


「私がさっき見てたアニメでは最近のトレンドを追ってるのかどうかは知らないけど、結構今までなかった新めな感じのキャラ設定を出したりするんだけど…」


あー、最近はキャラの設定とかも煮詰まって来て普通のキャラが増え過ぎている。

そういうテンプレから逸脱したくてわざと変な設定を付け足すのはよくある話だ。


「あ、わかってると思うけどさっきのアニメは魔法少女ものなんだけどね? …遂に少女じゃない存在を魔法少女にしちゃったわけなのよ」


「ほほう」


まぁ魔法少女アニメなんてその最たるものだろう。可愛くて優しくて正義感の強い少女がベターな作品だ。

そこから離し、尚且つ先生の発言から少女じゃない魔法少女…例えば二十歳の魔法少女とか、三十路の魔法少女とかそんな感じだろうか。もしくは人妻魔法少女とかか? そんな馬鹿なありえん。


それにさっき見た映像には普通に若そうなキャラだったし…そうなるとあのキャラクターはどういう存在なのだろうか。


「なんと、男の子が魔法少女になっちゃったのよ…顔立ちは女の子っぽいから一見すると女の子なんだけどね? 所謂男の娘ってキャラが出ちゃったわけ」


ここで話が繋がった。

まだ線と線で繋がっただけだが…それでも共通している部分は多い。


「…えっと、先生は男の娘が嫌いなんですか?」


瞬間的に意識が切り替わり先程までの様に興味本位ではなく詳しくその話を聞こうとする。きっとこの話が紫悠の状態に深く関わっていると思ったからだ。


「まぁねぇ…。……ね、名取君」


「はい、なんでしょう」


先生は一度だけ深く息を吐く。

その吐息は酒気を帯びていたが、その顔には理性の火が灯っている。


「体の成長とか、遺伝子とかの違いがあるし、男の人っぽい女の人やその逆がいたりするけど、大体の人はその生まれ持った性別に相応しい容姿をするものでしょう? それってつまり本来男の娘という存在は例外的に現実に存在しないものだよね」


「えぇ、まぁ…そう思います」


先生の言葉に肯定を返すと、先生は再び俺に言葉を投げ掛ける。


「じゃあ、実際遺伝子的なものとかは関係なく…人為的に男の娘を作り出す為にはどうすればいいと思う?」


それこそが、この話の鍵だった。

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