学園祭の終わり
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映画を見た感想としては…アレだな、自分の出た場所はちょっと恥ずかしくて見てられなかった。
けれど全体的にいい作品になったんじゃないかなとも思う。物語は普通にいいかなと思えたし、映像は学生レベルにしては高すぎたし、演技も多少棒読みが多かったが見てられないほどじゃあない。
なんなら場面の切り替えとかはほほうと頷ける程度のクオリティだったしな…これ編集したの眼鏡女子と先生だろ? 凄くね?
「どう? いい作品だったでしょ」
眼鏡女子が映画が終わった後に声を掛けてくる。…いい作品ではあったがな…。
「あぁ、あの大柄な男が出てない場所は最高だったな。他はダメだ」
「えぇー、あのキャラクターが物語に一番か二番くらいに重要なのに…」
そりゃわかっているが…自分がやった役を見るとどうしてもうわぁって気持ちになるんだよ。羞恥心が湧くんだよ。
「俺ぁもっと端役をやりたかったんだが…例えばそこら辺にある木の役とか」
「お遊戯会じゃないんだからそんな役はないよ」
当然のツッコミを入れられた。そうだよな、これは映画であって劇じゃないもんな…。
「私は名取君の演技嫌いじゃないよ? 紫悠君には全く勝ってはないけど充分いい演技してたし…今見てみると凄く自然に演技してたね」
「あー…実を言うとあんま演技しているつもりはないんだよな」
「と言うと?」
俺は他の奴等と同様に演技については素人…役を演技しようとしてもクソ程棒読みになって作品をダメにすると思った。なので…。
「演技もクソもねぇ、単純に本気でそう思って本心で体を動かし声を出しただけだ。…そのせいで厨二病よろしく後に見返すと恥ずかしい黒歴史の出来上がりだ馬鹿野郎」
結局はそういうこった。本気でそう思って本気でやれば多少は形になった…それだけのことだな。それでも紫悠の演技の足元にも及ばなかったが。
「…ふふ、そこまで本気でやってくれるなんて嬉しい限りだよ」
「マ、嫌いな内容じゃあないからな。…台無しにしたくなかっただけだ」
物語の内容としては単純、絶望的な状況に陥った主人公が目先の楽しさや幸せを手に入れず、苦しみながらも本当の幸福を探し続けるという作品だ。
俺は案外こういう頑張ったら報われるということを指し示す作品は嫌いじゃない…それに最後に救いがあるのが最高に良い。やっぱ鬱々としたエンディングよりハッピーエンドが見たいからな。
「それにこの映画はあいつの為でもあるんだろ?」
「……やっぱりわかる?」
眼鏡女子は照れ臭そうにしながら堪忍した様子だ。何も誤魔化しやしない。
「そりゃあな、これまで孤立していた紫悠だが、この映画をキッカケに俺やお前以外の奴とも関わる様になった」
首を動かして紫悠のいる方向を見る。
紫悠は映画を見た感想を他の生徒から嬉しそうに聞いている。それを見ていた近くのクラスメイトが紫悠に笑顔で話しかけていた。
距離が離れているので何を言っているかはわからんが…唇を読むに流石紫悠だな…とか、お前やっぱり凄いなぁ…とか、そんな感じにクラスメイトにわちゃわちゃされている。
「あんな感じでな…これで今後紫悠はクラスで孤立することはない。そんで映画の内容もまぁこれまたよくある勇気を出せば受け入れられるみたいなことを示唆するもんだ」
「…別にそれだけのつもりはないんだよ? 前々から考えていた物語だし…偶々使えるかなって思っただけだし…」
そこは誤魔化すのか…まぁいいや。
「お前は伝えたかったんだろ? 紫悠にさ…私達は何があっても紫悠を受け入れるって、君はクラスの仲間だってさ」
「……ん」
コクン…と恥ずかしがりながらも否定はしない。ほんと、こいついい奴だな。
「いや、さ…ずっと彼のことをなんとかしようと思ってたんだよ」
眼鏡女子は突然そんなことを言い出す。
「彼、ずっと一人で…一緒のクラスの仲間なのにまるで違う世界の住人みたいだった。なんとかしようと話し掛けてみても軽く流されちゃうし…体が悪いからみんな段々と遠巻きに避け始めるし…その時の私にはもう何をすればいいかわからなかった。…話し掛けることしか出来なかった」
いつもの元気そうな様子とは全く異なり、その顔には憂いがある…が、そこで少しだけ気になったことがあった。
「お前は…体の悪さを指摘することはあっても、紫悠の容姿には一切触れねぇんだな」
「ん…?」
前からそうだったが、こいつは紫悠の見た目を一切気にしない。他のクラスの連中が多少気にしているそれを全く気に掛けてもいない。
「だって人の格好なんてその人の勝手でしょ? そんなの気にする必要なんてないじゃん」
それがどれだけ難しいことなのかこの眼鏡女子はきっと知らない。
見た目が違うから、周りと違うからと人は人を排斥する。…現に今も何処かで人は差別し、差別されている。
「大事なのはその人がどういう人なのかってだけじゃないかな? 好きそうな人だったら仲良くなりたいし、そうじゃない人ならちょ〜っと避ければいいし…結局人付き合いってそういうことじゃない?」
「…へ、違いねぇな」
俺が最初からこの眼鏡女子に好印象を抱いたのもそういうことがわかっていたからかもしれない。…俺も割と見た目で損して来たタイプだからな、そういうことはすぐわかる。
だからこそ最初に行った紫悠のクラスであのざわつく学生の中で唯一俺に話し掛けてきたのだろうな。
「そういう意味では君とも仲良くしたいなって思ってるよ」
「お?」
急に変なことを言い出した。ビックリしてそんな反応しか返せない。
「だって君面白いし、優しいもんね。私が無茶振りしてもなんだかんだ聞いてくれるしっ」
「ばーか、映画出演に関しては今でも普通に腹立ってるからな」
いたずらそうな笑顔を向けられても困る。なんか段々と俺の扱いに対して怒りたくなってきたな。
「…それに、私達の学園祭を守ってくれたし」
「あ?」
…なんでバレたし。
俺がこいつらの元担任の所業をチクッたのは誰も知らないはず…紫悠も別に人に言いふらす奴じゃねぇ。
表面的にはポーカーフェイスで取り繕っているが、内心は凄く混乱していた。…本当になんでバレたの…?
「あはは、その反応じゃ正解って丸わかりだよ。誤魔化したいのならちゃんと言い訳をして貰わないと…まぁ元々確信があったけどね」
「確信…?」
言われた通り言い訳をするのは癪だったので言葉の真意を問うてみる。
「ふふふ、ヒント! 君が初めてクラスに来た時のことを思い出して下さい」
「初めて…」
確か紫悠に忘れ物を届けようとした時だったか…? あん時に何かヘマしたっけ…。
「あの頃、私はクラスの人以外に学園祭で映画を撮ろうとしていたことを喋っていません。…でも、それじゃあなんで君は私達のクラスが映画を撮ることを…それも一度ダメになったものを確信的にやるってわかったのでしょうかっ」
「あ」
確かにそんなことを言った方が覚えが…あれ、めちゃヘマしてんじゃん。アホかな?
「…君には本当に感謝してるんだぁ。…君のおかげで紫悠君と仲良くなれたし、みんなとも仲良くなってくれたし…本当にありがとネ?」
「…マ、ただの気まぐれだ。気まぐれ」
もう誤魔化しても仕方がないので何も否定はしまい。幸いこいつ以外は気付いてない様だしな。
だが、なんかしてやられた感が半端ない。…ここは一つ反撃をしてみようか。
「…あー、…ちょいと話は戻るが…そういうお前はどうして紫悠と仲良くなろうと思ったんだ?」
「ん?」
我ながらどうかしている話の切り出し方だが気にするもんか。反撃は秒速でやらなければな。
「ん〜…ふふ、えっとね? …例えばさ、みんなが消し忘れていた黒板を誰に言われずとも消したり、係の人が忘れていたプリントを何も言わずに配ったりしてくれる…誰に褒められるわけでもなく、誰に頼まれるわけでもなく…そういう細かい気遣いをする人って素敵じゃない?」
「え、まぁそうだな。いい奴だとは思うぞ」
話のピントが合わずにちょっと動揺…もう少し具体的な理由が聞きたかったのだが…。
「…彼は、そういう人だったの。…理由なんてそれだけだよ」
「………」
反撃しようと思っていたが、逆に手痛いカウンターを貰ってしまった。…なんだよ、やるじゃん紫悠。
少し顔を動かし、紫悠の方へと顔を向ける眼鏡女子の顔は…正しく恋するなんとやらだ。きっとこの世で最も美しい存在だと言えるだろう。
「……顔あっつー、…じゃあはいコレ! 君のステージ衣装ね!」
眼鏡女子は少しだけ赤くなった顔を手で扇ぎながら、ドサっと何か思いたい物を俺に渡して来る。
「…何コレ」
「今日君のクラスは出し物しないんでしょ? それならこっちに顔出してよ。あと打ち上げにも参加すること! いいね!!」
「あ、オイ!」
早口でそう言い、足早にこの場から離れたので止めることもままならない。…後に残るのはちょいと前に来た衣装だけだ。
「…はぁ。…マ、乙女の秘密を暴いちまったんだ。…それぐらいやってやるのが人情かね」
少しだけ苦笑いをしながら仕方なく衣装を羽織ることにする。
幸い俺の衣装は顔を隠すタイプのもんだ。知ってる奴以外は俺の存在に気付きやしねぇ。
そんな感じで、俺は適当に暇を潰す。…結局何かをすることになっちまったな。ま、別にイイケド。
───
「…ふぅ」
長かった学園祭がようやく終わった。
自分達のクラスでは最後険悪な雰囲気になりつつも、結果的に総合優勝が取れたということでクラス内ではお祭り騒ぎになっている。
どうやらクラス全員で打ち上げに行くとかの話になっていたが俺は遠慮させてもらうとしよう。だって行くのめんどいし。
厨房メンバーは何卒…! とか言っていたが普通に無視する。もう厨房メンバーは解散したんだ。それぞれがそれぞれの道を進むべきなのさ。
…と、適当に言ってみたものの、実際は先約があったから断ったのだ。無論、先約とはあの眼鏡女子の言葉である。
長居するつもりはない。適当に眼鏡女子と紫悠に声を掛けてさっさと家に帰ろうと思っていた。…あと、この着ている衣装も返さないといけないし。
そんなわけで再び紫悠のクラスに足を運び、一言挨拶をした後に着ている衣装をどうすればいいかと聞くと、近くの教室を荷物置き場にしているとのこと…そこに置いてくれればいいと言われ、今はその教室に移動している途中だ。
「は、疲れたなぁ…」
苦笑いをしながら廊下を歩く。…本当に激動の日々だった。
思い切って楽しんだとは口が裂けても言えない程度に面倒な日々だったが…まぁ、悪くはない。少なくともぼーっとしているよりは有意義に時間を使えたと思う。
「…えっと、ここがその教室か」
暫く歩いた後に件の教室へと到着する。
もう教室内には誰もいないとノックもせずに無造作にドアを開いてしまった。
「えっ…?」
「……あ?」
一瞬で後悔した。せめてドアのノックをすればよかったと本気で思った。
目の前には上半身が裸の女がいた。電気が消してあってよく顔は見えないが、少なくとも髪が長くて胸の膨らみが確認出来る程度にはそいつは女性的な体格をしている。
「チッ…」
急いでドアを閉めようとしたがもう遅い。ここで逃げ出せば着替えを覗いたと騒ぎになるだろう。それは多少面倒だった。
なので、俺に残された選択は如何にこの女子を説得するか…非常にメンドクサイ状況になったもんだ。
「おい、着替えるならせめて……」
鍵を掛けろと言い訳をしようと思ったその刹那。
「な、名取…君…?」
その声を聞いて心底耳を疑った。
どうしてかって、その声は聞き覚えがあるからだ。
「……紫悠?」
ようやく、一つ確信に迫っていく。