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第5章 愛する家族の再構築


 結婚の申込みをされた時、当然私はそれを固辞した。出戻りの子持ちで、しかも貴族でもない女が、子爵である領主様と結婚するだなんてとんでもないと思った。

 しかしグロリア様が私の側から離れず、他のご婦人方を受け付けなくなってしまっていた。

 私はきちんとナニーとして節度を守って接してきたつもりだったのだが……

 

「あの子には自分が実母に捨てられたという感覚が無意識に残っていて、若い女性に対して不信感があるのかもしれない。

 それなのに貴女だけは自分を捨てない、裏切らないと本能的にわかるんだろうね」

 

 と領主様は言った。

 そして何故か領主様の隠居なさっているご両親からも、嫁に来て欲しいと懇願されてしまった。

 どうやら、よく調べもしないで息子を変な思想かぶれのご令嬢と政略結婚させたことを、彼らは酷く悔やんでいる様子だった。

 

 領主のオスカー様は私より六歳上で、前の奥様は私より三歳上だったらしい。

 つまり私の予想した通り、奥様はトベラ様やスターレンと同学年だった。トベラ様は気付いていなかったみたいだけれど。

 つまりオスカー様は、私と同様に婚約者と学園生活を共にしていなかったために、妻がエセ理想主義活動をしていたことを知らなかったのだ。

 まあ、トベラ様が気付かなかったくらいだから、在学中は声高らかに理想主義を訴えるようなことはせずに、陰でひっそりと活動していたのかも知れないけれど。

 もしそうならば、少し調べたとしても、相手の思想まではわからなかったかも知れないと、領主様一家に同情した。

 

 

 そして今回は私のことをちゃんと調べたようだった。

 

「学園在学中に最優秀賞を三度も受賞した、稀に見る才媛の伯爵令嬢。

 淑女の鑑と呼ばれて周りからの憧れの対象だった生徒。

 奉仕活動に熱心で、聖堂附属の施設の環境改善と子供の学力向上に尽力し、しかも寄付金の倍増案まで提示して、財政面でも尽力してくれた正しく女神のような女性。

 一度結婚をして離縁となったが、これは夫側の有責によるものだったと裁判で結論が出ている。

 しかも離縁後は聖堂の保護を受けながらではあるが、働きながら女手一つで立派に子供を育てている賢母。

 その職場(子爵家)での評判も非常に高い。

 貴女ほど素晴らしい女性は他にいません。お願いです。どうか息子と結婚してやって下さい」

 

 元子爵夫妻に頭まで下げられてしまった。

 しかし、この結婚の申込みを受ける最終的な決め手になったのは、領主様のこの一言だった。

 

「僕をケビン君の父親にして下さい。僕はケビン君が可愛くて仕方がありません。ですからこれからも一生、娘のグロリアと変わらない愛情を彼に注ぎたいのです。お願いします」

 

 ✽

 

 結婚当初のオスカー様と私は、同類相憐れむという感じだった。偶然にも二人共『エセ理想主義者』の配偶者から、子供と一緒に捨てられた仲だったからだ。

 しかし無理せず自然に互いを思い合って暮らしていくうちに、私達四人は本当の家族になっていった。

 そして一般の夫婦とは逆かもしれないけれど、私達は同志から家族、それから夫婦に変化していき、今では恋人同士のようになっていた。

 

 そしてそんな私達二人の愛の結晶として、先月次女のリステアが生まれ、今日はその娘に洗礼を受けさせるためにこの聖堂にやって来ていたのだ。

 今日のヒロインのリステアは先ほど無事に洗礼を受ける儀式を終え、トベラ様達にあやしてもらっている。

 この末娘は父親や姉と同じ鮮やかな赤い髪を持ち、瞳の色は母親である私と同じライトグリーン色だ。

 そして、顔のつくりはまだはっきりとはわからないけれど、華やかで綺麗な姉や、整い過ぎて可愛げがないと言われる兄と比べると、可愛らしく愛らしい顔をしている。

 今でさえ父親や姉や兄達から溺愛されているのだ。甘やかされて我儘な娘にならないように、私が気を付けなければと思っている。


 私は遠目でリステアの様子を窺いつつ、二人の子供を抱いたままソファに腰を下ろした。

 するとオスカー様が私の前で腰を下ろし、私の目をじっと見つめながらこう聞いてきた。

 

「ソフィーネ、さっきは外で何をしていたの?」

 

麦浪(ばくろう)を眺めていたの」

 

「君はこの丘から麦浪の景色を眺めるのが好きだね」

 

「ええ。私が一番好きな風景だわ。だってここは、私が生まれて初めて自分の意志で訪れた場所だし、ここで新しい人生を始めるのだと決意をした場所なんですもの」

 

 私は目の前の夫オスカー様を真っ直ぐに見ながら言った。

 すると、突然私の左腕に抱かれていたグロリアがこう口を挟んだ。

 

「さっき、きんいろのかみのけがぴかぴかに光っている、とてもきれいなおじさんがいてね、わたしのことを、とってもおどろいたかおでみていたの。どうしてかな?」

 

 オスカー様の眉間に皺が寄った。

 

「それはね……」

 

 と私が慌てて説明しようと口を開きかけた時、今度は私の右腕に抱かれていたケビンがこう口を挟んだ。

 

「それはね、きっとグーアがとーってもかわいかったからだよ」

 

「わたし、かわいい?」

 

「うん。とってもかわいい。リステアとおなじくらいかわいい」

 

「それじゃあ、おとなになったら、ケビンはわたしとけっこんしてくれる?」

 

「うん、いいよ」

 

「やくそくよ。ゆびきりげんまん、うそついたらはりせんぼんのーます、ゆびきった!」

 

 私の両腕の中で、私の愛しい子供達が結婚の約束を交わした。それを私達夫婦は微笑みながら見つめた。

 その時の私達は、まさかその約束が本当に守られることになろうとは、さすがに思ってもみなかった。

 

 


 


 

 



 


 


読んで下さってありがとうございました!


続いて最終章を投稿します!

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