表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
那北の春  作者: 森三治郎
9/35

9 脱出

 夕食会は唐沢邸の大広間で、七時に始められた。矢板市の主だった要人たちが、多数招かれている。正面に唐沢の一族、右の列は警備隊や消防などの治安関係者、左の列は商工会の関係者が座っていた。正人と中沢は唐沢一族と向かい合う形で、彼らとは一番遠くに離されていた。当然、まだ信頼はされていない。用心のためらしい。

善道の弟、正義が立ち上がった。

「この度、秋津君、中沢君を得て警備隊もますます頼もしくなった。今とも、矢板市の発展のために尽力してもらいたい。それでは、乾杯」

「かんぱーい」

皆が一斉に唱和した。次に、善道が立ち上がった。

「皆さん、ご苦労様です。どうぞ、気楽に食事をしながら聞いて下さい。私が矢板市に奉職して三十数余年、その間いろいろあったが何とかやって来られたのは、ひとえに皆様方のおかげと感謝しております。辛いこともありました。悲しいことも、嬉しいことも、楽しいことも・・・・。え~何だ・・・・、ちょっと待ってください」

善道はイスに座り込んだ。頬杖をついて、目をつぶって考えた。そして、そのまま寝てしまった。席の大半の者たちが、マズイと思って睡眠の誘惑に必死に抵抗していた。そんな中、佐藤だけが姿勢を正したまま、腕組みをして目を(つむ)っている。

不気味な存在ではあったが、正人たちは予定の行動に出た。中沢が「ちょとトイレに」と言って出て行った。その後正人は、席を立って廊下に出た。


 「どこへ行く」

廊下に目をヌメリと光らせた小夜が、ふらふらと出てきた。正人は困った。小夜にねめられて、うまい言い訳も思い浮かばない。正人は意を決した。素早く駆け寄り、素早く当身を食らわせた。

「ぐうっ」と言って、小夜は恨みがましく正人を見てかがみ、崩れた。

「こりゃあ、死ぬほど恨まれますよ」

すでに山口も席をたって、後ろにいた。

「イヤな事を、言わないでください」

「そうでね、急ぎましょう」

山口は、馬の用意に走った。正人は追ってが掛かった場合を想定し、後ろを警戒しながら予定の場所を目指した。唐沢の館を出ると、守衛が倒れているのが見えた。


 「待て!」

突然の誰何(すいか)に振り向くと、男がいた。手に、鈍く光る日本刀を持っている。

「秋津だな。どこへ行く」

「あなたは誰です」

「第二警備隊副長、新見(にいみ)という者だ。それよりお前、小夜さんをどうするつもりだ。小夜さんは、お前と一緒になるつもりだぞ」

「どうもこうもするつもりは、ありません。俺は出て行きたいだけです」

「それは、ちと冷たいじゃないか。小夜さんは、いろいろ悪くいわれているがいい人なんだぞ。可愛いところもある」

小夜を、別な見方をする男がいた。正人は意外な思いがした。『(たで)()う虫も好き好き』を()(げん)する男だ。

「あなた、小夜さんが好きなのですか」

「・・・・」

「ならば、あなたが小夜さんと一緒になればいいじゃないですか」

「そうはいかん。小夜さんは、お前が好きらしい」

「迷惑です。俺は小夜さんが嫌いだ」

「ならば、首を置いていけ。そうすれば、小夜さんも満足するだろう」

「無茶な。どうでしょう、ただとは言いません、金券があります。俺たちは、常に金を持ち歩いているわけじゃない。危ないし、重たいですからね。金券を持って、近くにある那北の出張所に行って必要なだけ金に代えるのです。それを、全部げましょう」

「ふ~む、いくらあるんだ」

「相当な額ですよ」

正人は、服の下に手を入れた。正人が出したのは、拳銃だった。『パン』と乾いた音がして、銃弾は(あやま)たず新見の額を打ち抜いた。新見は驚愕の表情のまま、ドッと棒のように仰向けに倒れた。銃声で、さすがに館が騒然としてきた。バラバラと人も出てきた。正人は予定の場所へと急いだ。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ