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那北の春  作者: 森三治郎
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4 馬頭の一夜

 二人は東よりの道、馬頭(ばとう)方面の道をとった。世情も荒れていたが、道も荒れていた。二人とも馬だったが、整備された道ではない。道はいたるところい障害物があって、思いの外、難渋していた。幹線道路のように、簡単には走破出来なかった。

「一雨来るかもしれんな。早いうちにねぐらを探そう」

「はい」

しかし、雨が降るとともに、あたりは急に暗くなり道行が怪しくなってきた。二人は今、どの辺を行くのか分からない。ただただ、東を目指しているだけだ。心細いことこの上ない。そんな時、正人は小さな灯りを見た。

「灯りが見えます」

「ああ」

暗闇での灯りは、たまらなく喜ばしい。心にポッと灯が点ったような、暖かい希望そのものだった。二人は、一心に灯りを目指した。

「もしもし、ごめんください。もしもし、お願いします。もしもし・・・・」

ようやくたどり着いて、ドンドンと戸を叩いても、なかなか家人が現れなかった。

「もしもし」

「はい、なんでしょう」

ようやく出た。若い娘のようだが、しかし戸は細目に開けられただけである。

「馬頭に行く途中なんですが、日暮れて雨に降られて困っています。物置でも良いから、泊めてもらえるとありがたいのですが」

「それが・・・・今お父さんがいないので・・・・、怪しい人は泊められません。すみません」

戸は閉まってしまった。二人は顔を見合わせた。

「何かヘンですね。(おび)えているみたいだった」

「そうだ、たぶん押し込み強盗が入っている。娘の後ろに、チラっと男の服が見えた」

ギラギラと目が輝いている。中沢は、ヤケに嬉しそうだ。

「やるか」

「はい」

「良し、二十数えたら戸を叩け。俺は裏から行く。秋津、迷うな。躊躇(ちゅうちょ)なく斬れ。迷うと死ぬぞ」

これは、中沢を見る良い機会だと正人は思った。たぶん、中沢も自分を値踏みしているはずで、絶好の機会と捉えているのだろうと思う。正人は、ゆっくりと二十数えて戸を叩いた。内で何者かが動く気配がする。そして戸がガタッと大きく開くと同時に、刃物が正人を襲った。正人はその剣をかわしざま、突き出された両腕を断ち切った。間髪いれず次の襲撃を跳ね上げると、思いっきり袈裟(けさ)()けに叩き斬った。なおも警戒を解かずに構えていると、内からゆっくりと中沢が出てきた。

「いかんな」と言いながら、中沢は両腕を失い「ギョエーギョエー」と(おめ)き転がり続ける男に(とど)めを刺した。念のためと言いながら、正人が袈裟懸けに斬った男にも止めを刺した。

「七十点だ」

「えっ」

「こんなに、大げさに斬る必要はない。急所を狙えばいいんだ。大きく斬れば、刃こぼれのおそれが出て来る。ナマクラな刀だったら、曲がるかもしれん。それに、人間をそれほど大勢は斬れないよ。脂が付くしな。それと、返り血を浴びる斬り方はいかん。血で刀が滑るのは危険だし、目に入ったら次の攻撃をくらうおそれもある。それに、汚いじゃないか。それと、止めはちゃんと刺しておけ」

「はあ・・・・心得ます」

屋内には三人の死体と、怯えて(すく)む老婆と老人と幼い子供がいた。三体の死人の内、一人は女だった。それぞれ、急所を一突きか二突きされている。正人が見た女の顔は、信じられないという表情のまま凍りついていた。『無残な』と思う反面、なるほど中沢はいうだけのことはあると思った。実に、効率的な殺し方だ。

「とにかく、死体を外に出しておこう」

二人は死体を外に出し、まとめてシートをかけた。

「死体のしまつは、夜が明けたら考えよう。ちょっと休みたいのだが、いいかな。物置でいいのだ、物置で」

恐怖で(うなず)くばかりだが、とにかく家人の了解を得た。二人は、物置で交代で眠ることにした。



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