見た目と心眼【細川鋼】
突然の事でビックリした。
デコちゃんにお笑いのDVDを渡していた時に急に彼が飛び出して来たから。
『細川さんを虐めるな!』
きっと彼は自然とそう口にしたのだろう。だけどその言葉を知識の中で知っていても、実際に投げかけてくれる人なんてほとんどいないんだよ?
彼の背中を見つめるウチは、気付かれないように一歩下がる……この鼓動の音を聞かれないように。だけどその感情とは裏腹に、もう一歩彼に近付きたいと心が訴えていた。
デコちゃんに立ち向かう声が聞こえる。
『……細川さんをおっちょこちょいのポンコツ女だとか』
ねぇ、それは言われてないよ?
それは君の主観だよね?
ウチの事そんな風に思ってたの?
その後は彼の勘違いが発覚して"帰りたい"と言ったけど、ウチとデコちゃんが逃がさない。なんであんな事をしたのか聞きたかったから。
『あたしとの間に入ってきたのは?』
『細川さんがカツアゲされてると思って』
カツアゲの現場を見ても普通は誰も助けに来ないよ?
それでもデコちゃんの容姿を見て引かなかったのは凄いと思う。街でデコちゃんと一緒に歩いていると遠回しに避けてる人も多いから。
チラリとデコちゃんを見れば驚きと納得の表情をしている。全てを見透かしたような顔で上手い芝居を打っている。
全く……性格悪いなぁ。
『お前が悪い。唐草』
『……アレ? 俺キミに名乗ったっけ?』
『あぁん? それは、はが……もががががっ』
おっと。思考の海に飲まれていたらデコちゃんがボロを出し始めた。これはまずい止めなくては!
デコちゃんの口を塞いで彼を急いで調理室から追いやる。最後に言ったウチの言葉だけは……届いて欲しいと願いながら。
………………
…………
……
「ふぅ……なんとかなったばい」
調理室に残ったウチはため息を吐く。そして隣を見るとジト目のデコちゃんがすんごい顔で睨んでいた。
「はぁぁぁぁぁ〜」
ウチに負けないくらい盛大なため息。なにか気に触ることしたかな。
「で、デコちゃん?」
「あのなぁ鋼」
「う、うん」
全てを見透かす瞳。デコちゃんはこんな見た目だけど心根はめちゃくちゃ優しい。
もちろんウチは虐めの事も分かっていた。それを1年の時から同じクラスのデコちゃんと数人の友達が、ウチの側にいる事で和らげてくれたのだ。
そんなデコちゃんは真っ直ぐに、そして真剣に真実を物語る。
「また会えたんだろ? ……唐草に」
「…………」
ウチの心を見透かしたような優しい声音。その質問に答える事は……まだ出来ない。
「まぁ、事情はあるだろうからな。あたしからとやかく言うつもりは無いちゃ……ないけど」
「……けど?」
デコちゃんはウチの事を心配して次の言葉を言ったのだろう。だからウチも覚悟を決めてその言葉を魂に刻む。
「……アイツはヤベェぞ?」
そんな事……初めから分かってる。
ううん……初めて会った時から分かってるよ。
ねぇ? そうでしょう……ソウジ