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とんこつ彼氏とポンコツ彼女  作者: トン之助


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忘却の彼方・善【前田善士】



 もしもタイムマシーンがあるならば、俺はあの日に還りたい。


 もしもタイムリープができるなら、俺はあの一瞬に還りたい。


 だけど現実は残酷で

 過去をかえりみることしかできはしない。


 ならば俺は前を向こう。


 あの日あの時あの場所で

 掴めなかった君の手を

 今度は離さず掴み取る


 夏の悪夢を乗り越えて

 この手で旗を掴み取る

 もう絶対に離さない




 ………………

 …………

 ……



 小学生の頃の俺は成長が遅く周りからチビだと言われ続けていた。両親はどちらも体格が良くて羨ましく思ったものだ。


 そんな両親は大きくなれば成長すると言っていつもたくさん遊んでくれた。


 友達は多くはないけれど当たり障りなく付き合えていたと思う。だけど長期休暇まで遊ぶような仲にはなれなかった。


 夏休みになり近所の公園に行った時、一際楽しそうな声が聞こえてきた。


「はがねーそっち行ったぞー」

「任せりー」


 サッカーボールで遊ぶ男の子と女の子。


 俺は自然と近くのベンチに座ってぼーっと眺めていた。そして男の子と女の子がこっちに歩いてくる。


 俺はドキドキしながら、もしかしたら一緒に遊んでくれるのかと期待した。だけど……



「ふくつ〜ひかれ〜こっちだー!」



 俺の横を通り過ぎて入口まで走っていく。


 あぁ。そりゃそうだよな。


 こんなちんちくりんの知らないヤツなんて誘っても楽しくないもんな。その事実が悲しくて悔しくて俯いてしまう。


 静かになる公園の地面にポタポタと雫が落ちていく。それが自分の涙だと気付いたのは随分あとになってからだった。


 しばらく地面と睨めっこしたら気分が少し落ち着いた。そして家に帰ろうと顔を上げると……



「……ねぇ、大丈夫?」

「え?」



 どこかに遊びに行ったと思っていたさっきの男の子が目の前にいる。


「……これあげる」

「え?」


 もう一度同じ言葉が口から出てしまう。男の子の手にはラップに包まれたおにぎり。


「これ食べて元気出して!」

「いいと?」

「うん!」


 なんでおにぎりなのか分からなかったけど次に来た女の子が理由を教えてくれた。


「君が元気無さそうやったけんソウジがふじばあちゃんに言っておにぎりもらってきたと!」


 そうじ? 藤ばあちゃん?

 女の子の言葉が最初分からなかったけど、金髪の男の子と黒髪の女の子が説明をしてくれた。


「ソウジっていうのがこの子の名前。それで藤ばあちゃんってのはソウジのおばあちゃん」

「ソウジ……君?」

「うん! 唐草総司からくさそうじ。キミの名前は?」


 おにぎりを持った手をグイッと俺に向けて笑顔で聞いてくれる。


「お、俺は……ぜんし。前田善士まえだぜんし!」

「そっか! ねぇ一緒に遊ぼう善士!」


 俺が欲しかった言葉……一緒に遊ぶ。


「いいと?」

「うん! ちなみにこの子がはがね不屈ふくつひかれで……あといたしって子もいるから」


 どんどん進む話についていけない。


「ソウジ、そんなにいっぺんに言ったらわからんやん!」

「えぇ〜。いつもはがねこんな感じだよ?」


「うそやんっ」

「ほんと!」

「うそ!」

「ほんと!」


「「うぅぅぅぅ」」


 なんだかとっても面白い。

 ソウジ君達と一緒に過ごしたら俺の小さな悩みも吹き飛ぶかもしれない。


「あ、あの……ソウジ君」

「ん?」


 進め! 俺は前に進む男だろ!


「こ、これからも……一緒にあそびたい!」


 今の精一杯の気持ちを声にした。


「だから僕と友達になってください! ソウジ君」


 もらったおにぎりをポケットに入れて右手を前に出す。


 しばらく海風が撫でていたけれど、ゆっくりと暖かさが増していく……そして包まれるように四方八方から同じ感覚が伝わる。


くんはいらないよ……善士!」


 夏の太陽のような笑顔で、冷えていた俺の心を解かしてくれる。この時のみんなの顔を俺は忘れはしない。




「わかったばい、ソウジ!」




 それからソウジ達との夏休みが始まる。俺のコンプレックスの体の事を相談したら大量のおにぎりを持ってきて、「とりあえず食って強くなれ!」なんて言ってたっけ。


 それから致とも顔を合わせて6人で『とんこつ戦隊ごっこ』をしながら遊んだ。





 あの日までは……





 ………………

 …………

 ……



「ソウジのお陰で優勝できたばい!」

「善士の頑張りの成果だよ」



 ここまで頑張って来れたのはあの日の後悔があるから。



「……ソウジ」

「ん?」




「いや……なんでもなか」

「ははっ。変な善士」



 あの言葉……過去を思い出したのだろうか。だけど俺が聞くのは違う気がする。それはきっと鋼ちゃんの役目だから。

 彼女からは夏休みに全てを打ち明けると聞いていたから。


 だから今は別の言葉を贈ろう。



「ありがとうソウジ」

「んっ!」



 無言で突き出された拳に俺は笑顔で応えた。あの時の温もりは変わらずそこにある。

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