お揃いの七味唐辛子
夏が近づく暑い季節。
自宅の居間のテーブルにはノートと教科書を睨めっこする4人の男の子。その周りには3人の女の子が笑っている。
シュチュエーションとしては心躍るものがあるけど、その内情は別物で男子達の顔は必死そのもの。
「前田そこ違ぇちゃ! さっきも言ったやんか! 片原はなんでまだ解けてねぇんかちゃ!」
「ひぃぃぃ」
「でもぉぉ」
美多目さん……いや、この場合はギャル子ちゃんの方が正しいかな。
ギャル子ちゃんは前田と片原君の隣に座りながら檄を飛ばす。
まぁ本人達は頭から電撃もらってるんだけど。
「マ、マイハニー……ぼ、僕にも教えてくれるかな……かな?」
「あら不屈。さっきは私の方がスパルタだって言ったじゃない?」
「ははぁぁぁ……惹様。どうかこのわたくしめに御教授を〜」
後神さんと不屈ペア。
ギャル子ちゃんのスパルタ授業を目の当たりにした不屈は背中のマントを翻して泣きついている。
「んでね、ソウジ……聞いとる?」
「あ、ごめん。聞いてなかった」
「もう! せっかくウチが丁寧に教えとるんやけん聞かな損よ?」
俺の隣に、はがね様。
他のツーペアに比べたら優しい方。優しいのだけど距離が……距離が……
「はがね、近くね?」
「いつもラーメン食べる時もこんくらいやん」
肩と肩が触れ合う距離がカウンター席だとするなら、これは明らかに近すぎる。だって教えてくれるはがね様は半身になりながら俺の右隣にいるわけで、ペンを走らせる度にシャボン玉の香りがする柔らかな体に当たってしまう。
「こっちの方が教えやすかろ?」
「う、う〜む……」
女の子ってなんでこんなにいい香りがするのだろう。ラーメンばっかり食ってる俺の体臭は大丈夫か? とんこつ臭くない?
そんな状態でまともに頭に入るわけもなく唸ってしまう。この状況、2人きりなら嬉しくて小躍りしていただろう。
「ねぇ次の問題読んでみ?」
「次? えっと……」
一旦思考を戻して彼女に言われたとおり机に向き直る。現在教えて貰ってるのは現代文で教科書に目を落として朗読していくと……
『忘れてしまった過去を思い出したいケイコさん。皆との認識のズレで苦しんでいた彼女は、ひとり故郷を離れようと決意します。
夏の日差しは熱いのに、蝉の声が"早く出て行け"と言ってるように冷たく刺さります。
そこに婚約者と名乗るナオキがやってきました。さて彼はどんな言葉をかけるでしょう……』
「……ねぇソウジ」
「……ん?」
「ソウジなら……なんて言う?」
いつの間にか周りが静かになっている。みんなの方を見るとソワソワとした様子でこちらを覗き込んでいた。
「俺は……そうだなぁ」
ここに来る前なら"無言で送り出す"という選択肢を選んでいただろう。それくらい他人との関わりに恐怖を持っていたから。だけど今は違う……
震え出す手を鋼の心が鎮めてくれる。ギュッとされただけで全てを赦してもらえた気がした。だから迷わずこう言うだろう。
「はがねが傍にいてくれたら……それでいい」
彼女がみんなを誘った事が少し心に引っかかっていた。なのでただ単に彼女と離れたくなくて言った……俺の独占欲。
しかし周りにいるのは思春期真っ盛りの高校生で……
「ひゆぅぅぅぅバリ熱っ!!」
「ちょっと! 誰か暖房いれたの?」
「くっ……リアルナイトは総司の方だったか」
「ひはははっ! こりゃ天然だわ」
「ふふふ……ジゴロね」
周りの友人に何を言われているのかわからない。疑問顔を浮かべる俺は隣のはがねを見る。今の彼女を現すなら……七味唐辛子の蓋ごと落としてしまったラーメン茶碗。
「ソウジぃぃぃ……ウチやなくて、ケイコさんやけんんんんんっ……」
ヨレヨレの声で俺の袖をギュッと掴む彼女は今までで一番恥ずかしそうにしていた。
「お、俺……なんて言ってた?」
自分の自爆に未だ気が付かない俺。そしてその答えは爆笑している友人達が声高に叫ぶのだ。
「「「「「はがねが傍にいてくれたら……それでいい」」」」」
間のとり方まで完璧だったと思う。
「ふふふっ……ふたりはお揃いね」
後神さんのその言葉を聞いた俺もまた……七味唐辛子を落としてしまったのだから。
〜ちょこっと博多ラーメン講座〜
博多ラーメン屋に行くと大体置いてある薬味があります。
紅しょうが
おろしニンニク
コショウ
辛子高菜
この辺が鉄板ではないでしょうか。本編に七味唐辛子が出てきましたけど、ラーメンよりはうどんにかける方がメジャーですよね。
味の好みは人それぞれ。
ちなみに僕は、おろしニンニク、辛子高菜、コショウを大量投入です。舌に残るザラつく感じがたまらない!
それでは、次回もバリカタ!




