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とんこつ彼氏とポンコツ彼女  作者: トン之助


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刻まれたシワの想いは何処


 今日から待ちに待った試験勉強が始まる。


 部活組の前田まえだもこの日はおにぎりの数を減らしていた。それでも俺に3つくれる習慣は残っていて貰った後に苦笑いを浮かべる。


 片原かたはら君の顔色は最近見た中では一番良くて、本人曰く「楽しみで眠れなかった」との事。遠足前の子どもかと思ったけど、俺も他人ひとの事は言えない。


 不屈ふくつはしきりにくしかがみで髪型を整えていた。鏡が女性ものだったので、もしかしたらマイハニーにプレゼントしてもらったのかも。


 後神うしろがみさんとはがね、それに美多目みためさんは女子同士でキャッキャウフフと楽しそう。本人曰く昔から仲がいいそうだ。


 美多目さんに勉強をお願いした時はその威圧的な雰囲気に冷や汗が止まらなかったけど、以前のように試される事はなくすんなりと許してくれた。


 俺達は放課後になると校門前に集まって一緒に帰っているのだが、道中珍しいものやお店があると、ところ構わず寄り道をしている。


「ソウジ見て見て! ひまわりが咲いとる!」

「おう、綺麗だな」


「ソウジあっちからいい匂いがする!」

「確かパン屋が出来たって言ってたな」


「ソウジ、これ見て! ウチが昔書いた落書きぃ」

「これは……ラーメンのナルトか?」


 とまぁ、こんな感じではがねが一方的に俺を呼びつけるわけなのだ。


 正直に言おう……めっちゃ恥ずい!


 思い返してみれば彼女とは調理室や銭湯、登下校、この前のデートは2人きりで過ごしてきた。こんな知人ばかりいる前でイチャコラした事なんてない。


 ちなみに転校生の俺は知らなかったが、みんなの接点はあるようで会話に困るという事はなかった。なんなら昔から知ってた友人の雰囲気すら感じたくらいだ。



藤江ふじえさんにお土産買っていこうかな……」


 パン屋の前を通るとそんな事を思ってしまう。今はまだバリバリ働いているけど今後の事はわからない。できるだけ楽して欲しいし、美味しいものだっていっぱい食べさせてあげたい。


「藤ばあちゃん、あんぱん好きやけん買っていこ?」

「そっか……藤江さんあんぱん好きなのか」


 自分の祖母なのにはがねの方が詳しい。でもそれでいいと思う。水族館デートを経て少しだけ心が軽くなった。


 自分が忘れても彼女が覚えていてくれる。


「じゃあ、あんぱんと……皆は何がいい?」


「俺達もいいのか?」

「うん、教えてもらうわけだし。ここはご馳走させてくれ」


 藤江さんからもらったボーナスがまだ残っている。返そうとしたけど「自分の為に使いなさい」と釘を刺された。なら今回の勉強会は自分の為になるから大丈夫。


「ヒカちゃんもデコちゃんも早く選び?」

「ありがとはがね」

「ごち〜」


 女子組を手招きする彼女は俺の隣にスススッと来ると「ウチが女の子の分出すけんね」と耳打ちしてきた。ゾワッと甘い感覚が体を抜けて反論出来なかった。なので代わりに……


「……ありがと」

「ん!」


 ただ一言で以心伝心。



 ………………


「藤江さんただいまー」

「おかえり総司そうじ


 今の時間は番台で準備をしているので、銭湯の入口から顔を出す。そしてゾロゾロと彼女達も入ってくる。


「藤ばあちゃんヤッホー! あんぱん買ってきたよ!」

「あら、はがねちゃんありがとねぇ」


「おばあちゃん元気?」

「まぁゼンちゃん。大きくなったわねぇ。お父さんの腰は大丈夫なん?」


「藤さん、これ僕のお母さんから」

「あらあら、イタちゃんわざわざありがとね」


「藤江さん、私の両親からも健康グッズ預かってきた」

「ヒカちゃんもべっぴんさんになって〜。ありがとね」


「藤ちゃん、今度私のばーちゃんが北九州に一緒に行こうって言いよったけん、予定空けとってよ?」

「そうね。土日が休みだから後で電話しとくよ。ありがとハデちゃん」



 アレ? みんな藤江さんの事知ってるの?



 俺の疑問は隣のはがねが教えてくれた。


「この街に住んどって藤ばあちゃんの事知らん人おらんよ。ソウジは有名人のお孫さんやけんね! にっしし」

「マジか……てっきり常連客しか知らないとばかり」


 少し意外に思ったけれど、この街で暮らしていくなら俺もしっかり藤江さんに学ぼう。


「……総司」

「ん?」


 藤江さんが俺に手招きをする。何か手伝って欲しい事があるのかと思い少し早足で番台へ向かう。すると……



 ギュッ



「おわわっ……ふ、藤江さん?」



 藤江さんの体から着物のいい香りがする。

 タンスから出したての少し独特な香り。

 俺の好きな香りだ。


 深いシワが刻まれた手で優しく撫でてくれる。みんなの前で恥ずかしいと思う心はあるけど、離れたいとは考えなかった。


「ふじえ……さん?」


 少し混乱したけど、おばあちゃんの腕の中は昔の記憶を思い出させる。


『総司……』

『ん?』

『友達できたと?』


 何度も聞いた言葉がフラッシュバックする。一瞬の思考の後に現実に戻り目の前の藤江さんの瞳をじっと見る。そして俺のおばあちゃんは朗らかな顔で笑うのだ。



「友達できたと?」


「うん……俺の大切な友達がたくさんできた」



 触れ合った時間は短いけれど、これからも一緒に居たいと思える……そんな友達。






 それから勉強を始める前に銭湯の手伝いをするという事に決まり、いつもの何倍もの人数であっという間に開店準備が終わってしまった。



「まったく……アンタ達は……」



 番台に座る藤江さんの背中が少し震えていたので、俺達はそっと自宅の方へと向かっていった。




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