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とんこつ彼氏とポンコツ彼女  作者: トン之助


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試験に向けてとモヤモヤと


 はがねにキスをされてからの記憶が曖昧だ。


 これはいつの間にか忘れていたという今までのような感覚ではない。


 文字通り曖昧なのだ。自分が発した言葉も彼女が言った言葉もハッキリと覚えている。

 だがそれは自分が体験したというのではなく、第三者視点から見ているような感覚。



 レストランでのカップル限定メニュー『凪の船旅』を食べている時も。


「ソウジ、美味しいね」

「あ、あぁ……美味いな」



 イルカショーではがねと一緒にステージに呼ばれた時も。


「ソウジ見て! イルカさんがジャンプしとる!」

「すげぇな!」



 カップル限定来館記念品『幸せの2匹のイルカ(青とピンク)』を貰った時も。


「お揃いやね! ウチピンクがいい」

「はがねはピンクが好きだな」




 言葉と彼女の姿は鮮明に覚えている。実際俺のポケットには記念品のイルカが握られているのだから。


 はがねが「ここまででいいよ」と言うので路地で別れて自宅へと帰ってくる。


 ガラガラ


総司そうじ、どけんやった?」

藤江ふじえさん! あわわわわっ」


 玄関をくぐると真っ先に藤江さんの声が聞こえた。デート自体は楽しかったし、秘密も打ち明ける事ができた。だけどそれ以上にはがねと……キ、キスをしてしまった事の方が衝撃だった。


「だ、大丈夫だったから〜」


 逃げるように自分の部屋へと駆け込んでしまう。



 ………………

 …………

 ……


 翌日の日曜日も藤江さんと顔を見て話す事に抵抗があったけど、試験勉強の時に自宅を使いたいと相談したらニコニコと頷いてくれた。



 そして月曜日。



「おはよ、ソウジ!」

「お、おう……おはよう細川ほそかわ


 自宅を出ると彼女が待ち構えていた時は心臓が跳ね上がってしまった。俺の答えが気に食わなかったのか頬をリスのように膨らませて怒り口調。


「細川やない、はがね!」

「え、えっと……でも」

「は・が・ね!」


 有無を言わさない彼女に頷くしかない。どうやらグイグイくる女子に弱いみたいだ。


「は、はがね。おはよ」

「はい、よく出来ました」


 幼子に言い聞かせるみたいな口調になんかちょっとイラッときた。まぁそれはどうでもいいか。


「それでだな、試験勉強の事なんだけど」

「うん」


「俺んでやらないか?」

「ほんと!?」


 その提案は彼女にとっても魅力的だったようで嬉々とした表情を見せる。


「暖かい温泉入って、藤ばあちゃんのご飯食べて寝れるなんて最高やん! ソウジめっちゃ好いとーよ!」


 朝のテンションなのか、彼女自身のテンションなのか、俺にしがみついてくる姿に困惑してしまう。道行く人は暖かな目で通り過ぎてるから尚更だ。


「わ、わかったから落ち着いてくれ」


 デートは終わったはずなのにいつまで経ってもドキドキしっぱなしじゃないか。


「にししっ! これも印象的な出来事になるやろか?」


 小悪魔的に笑う彼女に白旗をあげる。


「もう、好きにしてくれ……」

「ウチの勝ち〜っと♪」


 結局学校の下駄箱まで上機嫌な彼女に絡まれながら(物理的に)移動した。




「おう唐草からくさおにぎり食うか?」

「おはよう前田まえだ。じゃあ3つ頼むよ」

「任せろ!」


 教室に入るといつもの光景に安心する。ちなみに前田は柔道部の朝練後なのでもっと早く来ているらしい。


「おはよう〜唐草くん〜」

「おはよう片原かたはら君、眠そうだな。体調でも悪いのか?」


 片原君はいつもより元気がない感じで入ってきた。腹痛持ちにとっては登校も一苦労なのかと思ったけど予想はハズレて……


「いやぁ、徹夜でゲームしてたんだよね」

「「ゲームかいっ!」」


 前田と声が重なり笑ってしまう。片原君も前田からおにぎりを分けてもらうと3人でムシャムシャ食べ始める。


 なんでもない光景がかけがえのない事のように感じられる。



 ホームルームの時に担任の宗像むなかた先生から試験についての説明があった。試験前は部活動や委員会活動が無くなる事や諸注意。それが終わると一気にクラス内はため息を撒き散らす。


「やべー試験いやだぜ」

「今回英語で80点以上取ったらおこづかいアップしてもらえるっちゃん!」

「いいなぁ」


 次の授業までの間に色々な声が聞こえる。それは俺達も例外ではないわけで。


「唐草試験大丈夫そうなんか?」

「う、う〜ん……」


 大丈夫かそうじゃないかで言ったら後者だろう。だけど今回ははがね様が付きっきりで教えてくれるのだ!


「ふむ。ならこの親友、薔薇ナイトが教えてあげよう!」


 相変わらずテンションが高い不屈ふくつがそんな事を言ってくれる。もしかしたら彼は成績上位者なのかな。しかしそれを打ち砕く声が後ろから忍び寄る。


「ふふふ、何言ってんのよ。不屈は万年下の方じゃない。アナタには無理よ」

「そんなぁ〜マイハニー見捨てないでくれ〜」

「だから私が見てあげるわ」

「マイハニー! アイラブユー!」


 俺の気のせいかもしれないが、後神うしろがみさんは不屈の事を下の名前で呼んでなかったか? それに"私が見る"って……もしかしてそういう関係なのかな。


 男女の関係に絶賛興味津々の俺の思考はそっちに気を取られていた。だから片原君の次の言葉に無意識で返してしまった。


「唐草君、一緒に試験勉強やらない?」


「はがねに付きっきりで教えて貰うんだ。俺の家で風呂入ったりご飯食べたりしながらさぁ……」


 さぁ……

 サァ……

 サァーッ……


「あっ……」


 無意識って怖いよね。


 もちろんはがねだけじゃなく美多目みためさんも居るわけだけど、今の俺には気にしてる余裕は無かった。



「あ、いや……今のは……そのっ」



 彼女の事をバカにできないくらい慌てる俺。クラスではどちらかというと物静かな方だったけど、はがねを廊下で助けて以降話かけてくる者も多くなった。


 俺は言ってしまった言葉を訂正しよと周りを見ると……


「ふふふ……やっと素直になったのね」

「なるほど、彼女のナイトは総司そうじなのだな!」

「俺のおにぎりがとんこつラーメンに負けた……だとっ」

「僕はお似合いだと思うよ……細川ほそかわさんと唐草君」


 敢えてコイツ等と言わせてもらうけど、なんでそんな達観したような目を向けてくるのだ? なんか少し怖いんだけど……


 不思議に思っていると片原君がパンッと手を叩いて口を開く。


「もし唐草君と細川さんが良ければ、僕も混ぜて欲しいんだけど……ダメかな?」


 恐る恐ると言った具合で聞いてくるけど、俺ひとりじゃ決められない。どうしようかと考えていると前田や不屈までお願いしてきた。


「頼む! 俺も成績ヤバいんだよ」

「マイハニーの教え方はスパルタなんだ。僕からも……」


 後神さんの目がめちゃくちゃ怖かったけど、そこまで懇願されたら断れない。とりあえずはがねに聞いてみると言ってその場は丸く収まった。



 昼休み。


「前田達も一緒でいいかな?」と聞いた俺に「みんなでやれば楽しかね!」と能天気に笑うはがねに対し、少しモヤモヤした感情を抱いてしまった。





「……2人っきりが良かったな」




 俺の独り言はスープの中に吸い込まれる。



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