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とんこつ彼氏とポンコツ彼女  作者: トン之助


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これがデートか!(いいえ日常です)




 細川ほそかわにデートに誘われた。



 細川にデートに誘われた。

 細川にデートに誘われた。

 細川にデートに誘われた。

 細川にデートに誘われた。



 ……細川に


 ……デートに



 その言葉だけが俺の心を満たしている。


 唐突に告げられた"デート"に固まるしかなかった俺の手を引いて、公園へ連れ出してくれる彼女。


 ベンチに座った放心状態の俺に向かって色々話してくれるが何一つ頭に入ってこない。これがデートに誘われた男の心情なのだろうか。


 心臓は破裂しそうな程早く鼓動し、もうすぐ訪れる夏の日差しより顔が熱い。隣にいるはずの彼女の顔を直視する事ができない。


「カラカラ聞いとーと?」


「え……いや……なにを?」


 普段通りに話す彼女に対して、俺は普段通りに返せているだろうか。

 否……絶対おかしな返しになっている。


 これがデートというやつか。


 ふたりでベンチに座って話すだけなのに、こんなにドキドキしてしまう。傾きかけた太陽の熱と春のそよ風が彼女の香りを俺に届ける。


 細川って……いい匂い。


 ラーメンを食べる時いつも隣に彼女はいた。だけどその時は食欲が勝っていたので彼女の匂いを確かめる事はしなかった。いや……できなかった。


「ねぇ、さっきから何も話さんけど聞いとーと?」


 彼女が不意に俺の視界に入る。覗き込むように下から見上げる彼女の顔。ショートの髪を耳の後ろにかきあげて、眼鏡の奥からブラウンの瞳が爛々と光る。


「いっ……」


 無意識に反対側を向いてしまった俺を許して欲しい。美の女神に願う俺だけど決して彼女は赦しはしない。


「もうっ! 話す人の方を見るって習わんやったと?」


 ベンチから腰を上げた彼女が途端に俺の正面へと移動して……しゃがみこむ。


「ちょっ……なっ」


 そして両手を俺の顔に添えたかと思うと強引に彼女の方を向かされた。


「……これで……もう逃げられんよ?」


 普段の彼女らしからぬつややかな声音に、メドゥーサに睨まれたように石になる俺。体育座りをしている彼女。もちろん制服を着ているので下はスカート。そして俺は見下ろす形で彼女を見ているわけで……


「ほ、ほほ……細川……その……スカートが」


 何とか声に出した俺。しかし最初の言葉がそんな事だったのでどうしようもない。

 いつもなら恥ずかしがってポカポカ殴る彼女だが、俺から目を離さずニヤリとした顔をしている。


「にししっやっと喋ってくれた……ねぇ、今日はどんな柄か言ってみ?」

「おまっ……何を……」


 何をとち狂った事を言い出すのか。いくら誰も居ないとはいえ……女の子が外でそんな言葉を……

 と思いつつ俺の視線はデルタの秘宝に吸い寄せられるわけで。


 これは男の性だから仕方ない! 男の性!


「ねぇ早く言ってよ。話進まんやん」

「ぅ……えっと。今日は……ね、ね……猫柄なんですね」


 バッチリ見えるお猫様。白の布地に子猫の顔がプリントされている。少しお子様思考なのかなと思ったけれど、次の一言でその気持ちは霧散する。


「この前の縞柄と今日の猫柄……どっちがいい?」


「…………は?」


 その質問の意味する所を随分長く考えてしまう。


 この前? 今日?


 そしてやっと思い至る。彼女は決してあわてんぼうだから転けていた訳ではなく、俺にパンツを見せる為に転けていたのだ!


「えっと……」


 実際俺の妄想も変な方向に走っている。冷静になって思い返せば彼女がよく転けるのも事実で、俺の為にパンツを見せているんじゃない事もわかる。少し冷静になれたので、俺も悪ノリで答えてしまう。


「お、俺の好みは……ピンクでリボンがついたやつ……かな……はははっ」


 なるべく彼女と目を合わせないようにしながら言えたと思う。そしてそれを聞いた細川はしばらく考えたあとに……


「…………そっか。ピンクでリボンやね。わかった」

「?」


 何がわかったのか俺には分からかなったが、俺の頬から手を離し元いた席に座り直す。


 ドキドキが収まらない俺はこれでやっと解放されたと認識する。デートって寿命が縮むものなんだな。気付かれないように心臓に手を当てドクドクが収まるのを待つ。


 これからまた海を見に行くのだろうか? それが終わったら何をするのか……生憎学生の身分なのでお金の持ち合わせは少ない。食事をするにしてもファミレスぐらいだろう。


 これでデートと言えるのだろうか。


 そんな言を考えていると彼女から週末の予定を聞かれる。


「ねぇカラカラ、今度の土曜日って予定ある?」

「いや……銭湯の掃除ぐらいだけど」


 それを聞いて何を思ったのか、彼女が自分のスマホを向けてくる。


「これは?」


 映し出された場所を見て疑問顔を浮かべる俺。そこには水しぶきを跳ね上げて飛んでいるイルカの姿。


 益々意味が分からない俺はスマホ越しの細川を見る。


「えっと……水族館……かな?」


 俺の答えに頷く彼女は誇らしく、大仰に宣言するのだ。




「土曜日はここでデートしよ! カラカラ」


「えっ?」




 どうや俺は勘違いをしていた。



 さっきまでデートだと思い込んでいた公園でのひと時は……ただの日常。


 彼女から誘われた土曜日こそ……本物のデート。


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