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とんこつ彼氏とポンコツ彼女  作者: トン之助


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消えない想い【細川鋼】


 デコちゃんと一緒に日直の仕事をしていた日。ウチはまた彼に救われた。


 不注意で踏んでしまった何か……そして視界が天井を向く。手は塞がったまま重力に従うように落ちてゆく。


 あぁ……この光景は知っている。ウチがよく夢に見る光景だ。


 何度も、何度も何度も何度も何度も何度も……後悔した光景。




「はがねぇぇぇぇぇぇぇ!!!」





 あの時と同じ声が聞こえる。一生聞くことが無いと思っていた声。それでも戻ってきてくれた……彼の声が。



 目を開けると彼が居る。ウチの事を抱きしめてくれる彼の温もり。頭と背中にある手がウチを力強く抱き締める。目の前に映る自分の姿が現実だと教えてくれた。



「……………………ソ」


 ソウジ。



 彼の名前を叫びたい。あの頃みたいに呼んでみたい。でもそれはウチのワガママ。彼をこんな風にしてしまった……ウチの贖罪。



 今の彼は空っぽだ。

 その心も体も……頭の中さえも。


 空っぽの唐草総司からくさそうじ

 だから……ウチはこう呼ぶ事にした。



「……カラカラありがと」



 いつの日かウチの罪を言葉にできるだろうか。泣いて謝ったら許してくれるだろうか……ただそれだけでは……なんの罪滅ぼしにならないとわかっていても。


 それでもウチは諦めない。忘れているなら思い出させたい……それが叶わないのだとしたら……ウチの一生を彼に捧げてもいい!


 あの夏の日の輝きを……あの日誓った約束を……ウチは果たしたい。





「……なんで今日来んのやろ」



 翌日の昼休み、調理室に彼の姿は見えなかった。だからウチは彼の教室へと歩を進める。


「ごめんください……ねぇ、唐草からくさくんおる?」


「…………唐草君なら食堂に行ってるわ」


 返事をくれたのは黒髪ロングの美人さん。そしてその子はウチの……


「……ねぇヒカちゃん。ちょっと話があるんやけど」

「えぇ、私も報告したい事が沢山あるわ……はがね」


 その光景を近くで見ていた何人かも話に加わる。


 ………………

 ………………


 その日の夜。ふじばあちゃんのお風呂にウチは突撃していた。片付けしていた彼に何度も何度も罵声を浴びせる。


 本当に言いたい事はもっと違う事なのに。


 涙が出そうになる顔を隠しながら、彼とのラーメンの約束だけは取り付ける。そして次の日からはお互いぎこち無い会話になってきた。


 もしかしたら……昔を思い出して愛想を尽かされたのだろうか……あんな事になったから……ウチとは離れたいと思ったのだろうか。


 負の感情が支配する中、ウチは彼に声を掛ける。


「カラカラ……放課後一緒に帰らん?」


 しかし返ってきたのは不器用な微笑みと拒絶の言葉だった。


「……ごめん」


 咄嗟にその場から逃げ出した。逃げて隠れて女子トイレに引きこもった。もしかしたらラーメン食べてくれないかもしれない……それだけではなく、もう一度離れてしまうかもしれない。


 ポタポタと流れるのが涙だと分かったのは……授業の終了を告げるチャイムの音だった。


 もう……放課後。


 一体いつまでこうしていたのだろう。それが分からない程の時間が経っていた。そして不意に鳴ったスマホにビックリしてしまう。


「ぐすっ……あれ? ヒカちゃん?」


 画面に映し出されたのはヒカちゃんの文字。泣いていた顔を袖で拭いてタップする。


「もしもし……ヒカちゃん?」


 しかし向こうからの返事は無く、代わりに聞こえてきたのは別の声……


『隣のクラスの細川鋼さん知ってる?』


 あれ……この声……カラカラ?


 ドキリと心臓が跳ね上がる。先約があると言ってたのはヒカちゃんとの……嫌な汗が流れて切りたくなったけど、逃げたくなかった。


『彼女に昼休みラーメンを……』


 聞こえて来るのはウチの話題ばかり。もしかしてヒカちゃんに相談してるのだろうか……どうやったらウチと離れられるかを。


『名前を大声で叫んで愛の告白をしたっと』


 ヒカちゃん。それは間違いだよ……恨まれこそすれ告白なんて……ウチにされる資格はない。だけどウチからする分には……


 考え事をしていたらふたりが言い合いを始めてしまった。


『結局貴方はその子の事が好きなの? 嫌いなの?』


 ヒカちゃん何言ってるの? なんでそんな話になったの?


 だけど聞こえてきた言葉はウチの想像を遥かに超えた想いだった。





『好きだよ! 好きだから困ってんじゃん!』




 これが世界が止まるという事だろうか。


 避けられていたと思っていた。もしかしたらウチを助けてくれた時に記憶が戻ったのかもと……だけどそうではなく……ただ単に恥ずかしかっただけだと知る。


 その言葉を聞いて、泣き止んでいた瞳から再び涙が溢れてきた。


 この時だ……この時ウチは決心したんだ。


 例え何度忘れようとも……例え何度同じ事を言おうとも……ウチは彼の横で一緒に歩きたい。


 いつか本当の事を話す時は来るだろう。そうしたら拒絶されるかもしれない。だけどそれでも……ウチはソウジの隣にいたいのだ。




『そういう事よ、はがね。覚悟を決めなさい』

「……うん」


 ヒカちゃんの声がウチに勇気をくれる。ウチが勘違いをしていた事を強引なやり方で教えてくれたのだ。ありがとうヒカちゃん。



 やっと前を向く事ができる。だってウチは、初めて会った時からソウジの事が……





 校門を出た所で待ち伏せをする。そして歩いてくる彼に向かって、笑顔で言葉を尽くすのだ!





「ねぇカラカラ……デートしよ?」





 届いてくれるといいな……この想い。

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