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罪と罰

 結局、前の十年と同じになった。

 森下さんのその言葉は、そう言われれば確かに、と納得させられる言葉だった。


 前の十年。

 つまりは、藍と結ばれた十年。


 藍と結ばれ失敗し後悔した十年間。


 あの時は……いや、こちらに戻ってきてからの最初も、僕は藍との距離を置こうかどうしようか、迷った。

 それはあの十年の失敗を悔いて。


 同じ十年を繰り返したくないと思ったから、そうしようか迷ったのだ。


 ただ、色々な成り行きで今に至った。


 結果、藍と再び結ばれたいと思う時を歩んだんだ。


 


 ……それは、どうしてか。




「結局、君は藍との十年が幸せだったんだよ」




 悟ったようにそう言う森下さんのその言葉が、僕の心に浸透していった。


 藍との……あの十年が。

 幸せだった?


 失敗し、後悔をたくさん覚えた。

 だから僕は、ここにいる。

 失敗し後悔したから、ここにいる。




「青山君は、どうして自分がタイムスリップしたと思ってる?」


「え?」


「あたしはさ、小難しい性格しているじゃない? だからね、ずっとそんなこと考えてたの。どうしてあたしはタイムスリップしたのかって。誰があたしをタイムスリップさせたのかって」


 ……どうして。

 ……誰が。


 僕を、タイムスリップさせたのか。




「……神様が、運命を正しい方向に変えさせるために?」




「正しい方向って何? そんなの主観の話じゃない。人によっては前のあなたの人生で失敗も後悔もしないかもしれない。そもそも、夫婦痴話喧嘩も。あたしの失恋も。何人もの人が経験しているようなことでしょう? にも関わらず、どうしてあたし達だけがタイムスリップされたのか。

 どうして、大人数の中からあたし達を選んでくれたのか」




 確かにそうだ。


 失敗も後悔も。

 何人もの人が体験することであり、抗えない事象であり、やり直しの出来ないことである。


 でも、僕達はこうしてやり直しの機会を与えられた。


 ……やり直し、か。


 そのやり直しの結果、結局僕は前の十年と同じ選択をした。

 藍と結ばれることを望んだのだ。


 失敗し後悔した道を、進む決意をしたのだ。


 ……ただ、それではまるで。




『結局、君は藍との十年が幸せだったんだよ』


 森下さんの言葉が、蘇った。




「あなたは幸せだったんだよ。前の十年」




 次々と蘇ったのは、藍との思い出。


 船旅に行ったこと。

 口喧嘩をしてふて寝したこと。

 心臓を掴まれたように何も喋れなくなったこと。

 嫌がられながらも付きまとったこと。


 好意を、口にしたこと。




 好意を、口にされたこと。




 最早認めるしかない状態だった。

 藍との十年。あの十年は、僕にとって幸せだった。


 失敗も後悔も確かにあった。でも、それにも勝るたくさんの楽しい思い出が確かにそこにはあったのだ。




「……だったら」

 



 心臓が高鳴っていた。まるで溢れだした濁流のように、とめどなく、留まることなく心臓が高鳴り続けていた。

 薄々、森下さんの言いたいことはわかっていた。


 でも、認めたら……認めてしまったら。




「だったら、どうして僕はタイムスリップさせられたって言うんだ!」




 ……森下さんは、




「後悔させるためだよ」




 静かに、そう言った。




 後悔させるため。

 



 幸せな人生を送っていた癖に。想い人と結ばれた癖に。

 僕は思ってしまった。

 傲慢にも、思ってしまったのだ。




 やり直したいと、そう思ってしまったんだ……!




「多分、あたしの人生も幸せだったんだろうね。失恋はしたけど、好きな職業に就けて、気の置けない友人も出来て。確かに、楽しくなかったと言えば嘘になるもの。でもその癖、いつまでも一度の失恋を引き摺って、やり直したいとさえ思った。思い上がった。だから、神様が怒ってもう一度やり直させたんだ。結末が変わりもしない十年の時間をやり直しさせたんだ。その結果、今度はキチンと一生ものの後悔を背負ったわけだ」




 苦笑する森下さんに、僕は何も言えなかった。

 かける言葉が見つからなかったわけではない。慰めの言葉をかける気にならなかったのだ。




 結末の変わらないタイムスリップ。

 今回、僕や森下さんが送ったこのタイムスリップは、一見互いに後悔したことに対するやり直しの場が与えられているように見えた。


 でも、結末は何も変わらなかった。


 それは当然、元の互いの人生が幸せだったのだから。だから、僕達の人生が変わることがなかった。幸せな人生が変わることはなかった。

 当然だ。

 幸せになりたい、とそう思うのは、人として当然の考えだ。だから、幸せだった前の人生と同じになるのは、当然なんだ。




 僕達をタイムスリップさせた神様は言いたかったのだろう。




 やり直したいなどと思った僕達の人生が、如何に恵まれていたか、と。


 思い上がるな、と。


 それを僕達に確認させるために、突き付けるために……僕達に不毛な十年のタイムスリップを与えたのだろう。


 そう思うと、腑に落ちた。


 僕達の人生が何も変わらなかったことが、腑に落ちた。




 ……本当に、そうか?




 森下さんは、かつては燻り続けた想いを成就させることなく後悔した。

 前の十年よりも、その点では不幸になったのだ。




 ……僕も、そうなんじゃないのか?



 僕も。

 僕も……何か、後悔をしたんじゃないのか?




 このタイムスリップのせいで。


 取返しのつかない失敗を。

 後悔を……。




『仕事仕事って、そんなに忙しいなら辞めればいいじゃない』




 ……ある。




『花火でもしに行かない?』




 ある。一度は誤魔化して有耶無耶にした後悔。




『星、キレイだから』




 藍が、いない。






『……好き』






 この世界には、藍がいない。


 ……あの十年。


 僕と一緒にいてくれた藍が。

 僕に怒ってくれた藍が。

 

 僕と結ばれてくれた藍が……いない。


 十年を共に歩んでくれた藍が、この世界にはいない。


 涙が溢れた。


 取返しのつかないことをしてしまった。

 取返しのつかない失敗をしてしまった。




 これが……思い上がった傲慢な人間に対する、神の罰なのだろうか。

タイトル的に茶番になってンだわ

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― 新着の感想 ―
[一言] 凄くいい話の筈なのに何故かギャグにしか見えないンだわ
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