一先ずの完遂
数日間、あの日の藍の行動を思い出しては頭を悩ませる日々が続いた。
あの日。
具体的に言えば、僕が情けない奴、頼りない奴ではないと藍に認識されていたことを知った日。そして、色々あって汚名挽回した日でもあり、情けないことを許してもらえた日でもあった。
あの日は我ながら僕の今後を決める重要なターニングポイントだった気がしないでもないが、今僕が頭を悩ませていたのはそんな後悔にも近い感情なんかではなかった。勿論、後悔がないかと言えば嘘になる。あの日の僕はかなり優柔不断だったように思えるからだ。
しかし、一番の悩みはそこではない。
一番の悩み、それはあの日の藍の行動であり、言動であった。
思い返せば思い返すほど、あの日の藍の行動はかつての十年間を含めても滅多にない位積極的だったな、と数日経ち浮かれた感情が静まった頃に思ったのだ。
あたしだけを見ろだのあたしをもっと頼れだの。
いつか藍に、自分の現状も鑑みずに偉そうに言わないとわからない、などと宣ったが……最早答え合わせにも近い行動の数々だった。
極めつけは……その。ハ、ハ……ハグまでされるだなんて。
藍とハグした記憶はあまりない。とりわけ、藍からしてくれた回数で数えてみると、その回数は極々稀だったことは言うまでもない。
そんな四年に一度のスポーツの祭典くらい珍しい行動に、藍は出たのだ。
あれにはどんな意図があり。
あれには……どんな想いが込められていたのか。
それを考えると、頭が痛かった。
……さっきも思った。
あの日の藍の行動、言動について。
あんなの、もう答え合わせだと。
横断歩道の設置。
プラネタリウム製作のための部活動。
勉強会。
様々な藍との行動を通して、多分藍は……。
いいや、でも……。
でも、そう言われたわけではないのだ。
言われないとわからない。
一方的に好意を持ち、迫って、結ばれて……言葉足らずで生活を共にした結果が、あのザマだった。あの失敗だった。
だからだろう。
答え合わせみたいなものだと宣いながら、一歩を踏み出せないのは。
臆病心に駆られ、結論を欲しがってしまうのは。
……藍に、臆してしまうのは。
……このままではいけない。
いけないのだろう。
時間が解決してくれる問題もある。人間関係なんて、そんなことの方が多いはずだ。
でも、今回の件は時間に解決してもらってはいけない、と思うのはどうしてだろうか。
長年の勘、か。
はたまたシックスセンス。
どちらも勘だから、多分それなのだろうが……なんともフワフワした動機である。
まあ、そんなことでも構わない。決心さえ付けば。
今度、藍と二人きりになる機会が巡ってきた時、その時までに藍の気持ちを打ち明けさせられる術はないか考えよう。
幸いなことに、僕は藍と二人きりになる日がもう用意されているのだ。
その日までに、なんとか手を尽くそう。
そうして、今燻り臆しているこの気持ちに、区切りを付けよう。
と、すれば。
真っ先に片付けないといけない問題は、ただ一つ。
そう決心が付いた日からの僕の天文部での働きは、自他共認める鬼神の如きものだった。
この前まで他愛のないことで欠けていた集中力も維持し続けて。
「青山君って、将来ワーカホリックになりそうだよね」
からかう森下さんを無視して……。
「三人共、こっちはよろしく」
戸惑い気味な江頭先輩、優子さん、宮本君に的確な指示をして……。
「ちょっとは休憩しなさいよ」
怒る藍を宥めて……。
「別に。仕事を頑張るあんたを労いたいわけじゃない。あたしが食べたいだけだから、ファミレス行こ」
我儘な藍に付き合って……。
「お会計行ってくる。……割り勘? いい。いつかの勉強会のお礼。……男が廃る? 廃らせなさいよ、そんな無駄なプライド。
……そんなの無くても、あんたには色々、良いとこあるから」
照れる藍に甘えて……。
そんな天文部部員達との夏休みを謳歌して……。
キャンプの前週の水曜日、僕達はようやくプラネタリウム製作の作業書と見積作成を完了させるのだった。
3日もサボった。ごめんなさい。
前話の内容を見て、次何書けばよいかわからんくなってた……。