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付加価値

「結論から言います。僕はこの廃墟が、若者達のたまり場になっていると思っています」


「……たまり場?」


「はい。よくあるでしょう。不良達が、廃墟を深夜徘徊するんです」


 イマイチ、森下先輩はピンと来ていないようだった。


「……この時期の風物詩にあるでしょう。度胸試しみたいな、心霊体験みたいな」


「ああ、肝試し?」


「そうです。不良とやらは、こういうところでビビらない自分の姿を見せて、自己の力を誇示するものなんです」


「なんだか偏見交じってない?」


「多分に交じっています」


 そこは、同意する。


「ただ、だからこそ管理者は、ここを若者に貸したくないと思ったんじゃないかと思っています。自分の肝を冷やすためだけに、不法侵入された挙句、悪戯書きだとか器物破損だとか、被害が絶えないんじゃないかな」


「……ねえ、青山君?」


「はい」


「もし青山君の説が正しいなら、管理者の気持ちも良くわかる。そりゃあ、誰かもわからない人に不法侵入されて被害が出たら誰にも足を踏み入れて欲しくない、と思うのも無理はない。

 でも、本当にそうだって確証はあるの?」


「確証はないですが、物証はあります」


「例えば?」


「この立地です」


 僕は地図帳のペケマークを指さして、そこから駅の方へ向けて指をなぞらせた。


「この廃墟は、山の中にある割にアクセスが手軽だと思いませんか? 大きい駅からアクセス出来る程ほど大きい駅のバス停から数十分で来れるんですから。

 しかも目の前は公道なんて舗装された道まで完備されている」


「まあ、確かに」


「後、ロケーションとしても魅力がありますしね」


「……いや、万人がそう思うかはなんとも言えなくない?」


「自分達がここを使ってホラー映画を撮影しようとしている癖に、それを言いますか」


 森下先輩は、確かに、と言いたげに手を叩いた。

 もっと言えば、この廃墟に彼女達はアクセスもそれなりに容易だと思ったからこそ、数ある廃墟から選んだ、と言う点もある。


 つまり、僕が今言ったこの廃墟のアクセスの容易さ。ロケーションとしての魅力は、彼女達がそもそも認めている事実。

 そこを否定するのは、おかしな話なのである。


「若者なんて、移動距離はたかが知れていますからね。それでこれだけお手軽に行ける廃墟があるなら、たまり場になっても何ら不思議はない。で、深夜にそう言う場所に集う若者がすることは、相場が決まっているんですよ。邪なことじゃないなら、真昼間から出来るってもんです」


「ふうん」


 納得げに、森下先輩は唸った。


「ねえ、青山君?」


「なんですか」


「若者若者って、まるで自分が若者じゃないみたいに言うね」


「……そうですね」


 背筋に冷たい汗が垂れた。タイムスリップしただなんて、当然言えないではないか。


「……話を戻しましょう」


「うん」


「……そう言うわけで。なんとなく見えてきませんか?」


「……何が?」


「向こうが、どうしてここを貸したくないのか。その理由がなんとなく見えてきませんか。もし見えてきたなら、どうすれば廃墟を貸しても良いと思うか。

 そこが見えてきたと思いませんか?」


「……うぅん、どうだろ」


 森下先輩は難しい顔で腕を組んで、唸っていた。

 ……あまり、時間を割くのも嫌なので、僕はさっさと話すことにした。


「つまりです。管理者さんは、若者達の不良行為に頭を悩ませて、ここを誰にも立ち入って欲しくない、と思ったわけですよ。今も恐らく、この廃墟にはその若者の不良行為の残滓が残っているんじゃないですかね。

 ……例えば、空き缶。タバコの吸い殻。スナック菓子の袋。弁当の空箱。等々」


「あ、そっか」


 森下先輩は納得げに手を叩いていた。


「廃墟の清掃作業。それを交渉の材料に加えましょう」


 僕は森下先輩に頷いて見せた。


「撮影の日程が、一週間から三日に短縮出来そうなんですね。だったら、それを四日に設定しましょう。一日は清掃作業に当てる。これで、どうでしょう?」


 淡々と、僕は思ったことを森下先輩に提案した。

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