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日程感

どんどんどんどん投稿していく。

 一先ず、森下先輩に協力することは了承した手前、善は急げ。さっさと本題に入りたいと僕は思った。


「先輩」


「何?」


「大体の日程感を教えてください」


 森下先輩は腕を組んだ。

 僕は、続けた。


「総括すると、僕が先輩に協力することはクラスで文化祭に出す映画のロケ地の承認作業。それをお手伝いさせて頂くこと自体はやぶさかではない。でも、話を聞いている限り、ここまでにはロケ地の承認を取らないといけない、というリミットがありますよね? そこを知りたい。遅れたら破綻するのに、のんびり構えて後ろ倒し後ろ倒しになって、後々どうにもならない日程感になったら全てが終わる」


「多分、夏休み終了二週間前くらいまではなんとかなる」


「その心は?」


「……映画の撮影が一週間くらいの予定だから。撮り直し含めてももう一週間予備日を用意しておけば、多分なんとかなる」


「本当にそうですか? 編集時間を加味して、本当にそれだけで足りますか?」


「足りるかどうかはともかく、これが現状の最短日程よ」


 苦笑したのは、内情を知る江頭先輩だった。


「小道具の準備。台本の準備。諸々、考えると、そこから撮影スタートが限界」


「何よ、それ」


 噛み付いたのは、藍。


「本当に大丈夫なの、それ」


 今の時点で、そこが決まっていない。夏休みを使う、と言うのに、夏休み前日に。

 まあ確かに、そう言いたくなるのも無理はない。僕も言いたかったくらいだ。


 じゃあなんで言わなかったかって、僕が納期を追われる立場になったことがあるから……。


 後は、結局森下先輩達は他所のクラスの人だから。手伝うと約束したことは手伝うが、それ以上の過度な干渉はする気はなかった。


「大丈夫」


「どうしてそう言い切れるのよ」


「これから夏休み中、週に二回進捗の確認をするから。遅れているようならフォロー出来るような環境を出来る。だから、間に合う。大丈夫」


 一体、誰がフォローするのか?

 クラスメイトの余力、まだあるのだろうか?

 えぇ、怖いんだけど。


「大丈夫」


 森下先輩は、僕の顔を見て微笑んだ。


「これ以上、天文部の皆の邪魔は出来ない」


「……だったら、良いですけど」


 だったらそもそも、最初から頼らないで欲しかったのですが。まあ口約束した手前、そこまでは言えないか。


 ただ、ともかくなんとなくの日程感はわかった。


「じゃあ、ロケ地の承認作業は、それまでにそこの管理者に行う、と言うことですね?」


「えぇ、そうよ」


「ちなみに、そのロケ地の場所は?」


「隣県の廃墟」


「廃墟、ですか。サスペンス映画でも撮る気ですか?」


「えぇ、そうよ」


「……そうですか」


 学生が撮るサスペンス映画、か。あの手の映画は臨場感が大切だと聞くが、拙い映像技術、その他諸々で面白い映画は撮れるのだろうか。まあ、それもまた僕が口出しするような話でもない、か。


「管理者はわかっているんですか?」


「えぇ、抜かりない。既に二度、クラスの子が交渉に当たっているわ」


「まあ、結果は聞くまでもないですよね。そうじゃなきゃ、天文部に相談になんて来ない」


「そうね」


 物分かりの良い僕に、森下先輩は微笑んだ。

 ……しかし、だ。そうであれば、これは中々難しい。


「ちなみに、どんな感じで交渉に?」


「聞いた話だと、実に簡単。単純にそこを使わせてくれ、と。それだけよ」


「それで、駄目だって頭ごなしに言われたらしい。その子も頭に血が昇りつつも堪えつつ、何とかなんとかって懇願したけど、それでも駄目だって」


「酷い人だね、ちょっとくらい良いじゃない」


 森下先輩、江頭先輩の論調に乗っかったのは、優子さん。そう言って、少し憤慨しているようにも見えた。


「……そうかな?」


 しかし僕はと言えば、それに異を唱えた。


「たかだか映画の撮影に使うくらいだろ? なんの問題があるんだよ」


 宮本君も、どうやら先輩達と同意見らしい。ただそこまで、強い口調では言っていなかった。


「だって……映画の撮影に使わせてくれ。先輩のクラスの人はそう言って、所有者に許可を求めたそうですけど、そんなの向こうにしたら関係ない話じゃないか」


「でも、ちょっとくらい……」


「一週間がちょっと、かどうかはこの際置いておいて、そのちょっと使わせてくれ、と願い出た高校生達に廃墟を貸す。果たしてそれに、管理者側にどれだけのメリットがあるんだい?」


 それはつまり、さっき僕達が森下先輩の依頼を断ろうとしたことと同義。主観的に見るとわかりづらいが、客観的になると当然だと思わされる簡単なこと。

 身に覚えがあったためか、同調していた二人は押し黙った。


「人に貸すことで、廃墟に損傷が入るかもしれない。貸した人がそこで怪我をするかもしれない。そりゃあ、赤の他人にわかりましたと二つ返事で貸し出すはずもない」


 肩を竦めて森下先輩を見た。

 彼女は、そう言うと思っていたと言う風に微笑みを崩さなかった。


「つまり、だ。先輩のクラスが廃墟を貸してもらうのなら、それだけの付加価値を提示しないと話にならない」


「そうね」


「……その廃墟の位置だったり、その辺を諸々教えてください。提示出来るものがないのか、調べましょう」


「わかった。明日までに準備しておく」


 ……この森下先輩に、全てを見透かされているような気がするのは、一体どうしてだろう。

 ミステリアスな少女のことを、僕は少し警戒し始めていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] その建物の状況だとかなり嫌がるよね。 廃墟関係は、資産価値が下がる可能性が高いからテレビ局相手でも嫌がるし。
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