終業式
一学期の最終日。
茹だるように暑い外のせいで、クーラーの完備されていない体育館もまた、ジメっとした暑さに包まれていた。
一時間程行われる終業式。
タオル持参で臨んだその式で、タオルはすっかり水浸しになっていた。二階の窓を全開にしたくらいで何とかなると思っていたのなら、浅はかなことこの上ない。
ようやく終業式が終わり、短いショートホームルームを終えて、担任の須藤先生の挨拶を聞き、今日の授業は終了となった。
「行こ」
まだ少し喧騒としている教室で、僕は藍に誘われ、天文部へと足を運んだ。今日は、一学期最終日、という事情もあって、形式的な打ち上げ染みたことをするために呼ばれていた。いわば仕事納めのようなものだ。
それにしても、廊下で藍と二人で歩きながら、思った。
天文部の部員は、計五人。江頭先輩、藍、宮本君、優子さん。そうして、僕。ここである共通点に気付いた。
藍、宮本君、優子さん、そうして僕。
実に、僕達四人は、全員所属しているクラスが同じなのだ。
それにしても、僕達四人は一度だって一緒になって部室に赴いたことがない。なんというか、折角同じ部活に勤しむ同級生なのに、それは少し寂しい気がした。
「ねえ、坂本さん」
「藍」
「藍、天文部の部員って、四人も同じクラスの連中が集っているじゃないか」
「ん」
「今度、たまには四人で一緒に部室に行くのも良いと思うんだけど、どう?」
「嫌」
すっぱりと藍は断ってきた。それにしても即答だ。
「どうして?」
「……別に」
別に、との回答は些かおかしくないだろうか。
「宮本の邪魔、しちゃ悪いでしょ」
「……ああ、まあそうだね」
宮本君、部室に赴く日はいつも江頭先輩にだけ事前に連絡して、二人で一緒に行っているそうだし、それもそうだ。
……ただ。
「じゃあ、優子さんは?」
「ちっ」
露骨な舌打ち。
その後、藍はすたこらと足早に廊下を歩いて行った。……前々から思っていたが、藍は優子さんが嫌いなのだろうか。
その名前が僕の口から出る度、ちっちっちっと時計の針のように舌打ちをする。
……まあ、人の好き嫌いなんて、とやかく言うことでもない。友達百人なんとやら、と言うが、それは自己啓発は良くても強制することでは決してない。人付き合いが苦手な人だってたくさんいる。そして一緒にいたからこそわかっているが、彼女はまあ、つまりそう言う事だ。
……今後、今みたいな誘いはもうやめよう、と心に刻んだ。
そんな調子で、藍との世間話に興じてしばらく、僕達は天文部の部室に到着したのだった。
「こんにちは」
「こんちはー」
「こんにちはー」
「……あれ」
部室。
既にいた二人の部員の顔を見て、僕は首を傾げた。部室にいたのは、優子さんと宮本君。これは中々、不思議な光景だった。
何故なら、さっきも言った通り、宮本君は基本、江頭先輩と一緒に部室に来るから、だ。
江頭先輩がここにいない理由。つい昨日、似たようなことがあったので僕はそれに行き当たった。
「江頭先輩は、クラスの活動?」
「おう、そうだ」
「終業式の日も? 中々忙しないね」
昨日打ち合わせをやったとして、二日続けて活動に興じるとは。
だって、これからかれこれ一月は夏休みが入るんだぞ? だったら、仕切り直しになることも考慮して、夏休み後にスタートと思い至りそうなものじゃないか。
そうならない理由、それはつまり……。
「もしかして、夏休み中も活動するの?」
「みたいだ」
宮本君は肩を竦めた。
「勿論、強制ってわけじゃないんだろうが。あの人、お人好しだからな。一度受け入れたことがある手前、断りづらい雰囲気になっているそうだ」
「……なんだか、容易に想像出来る」
目を細めて言うと、頷いたのは同じクラスの天文部部員全員だった。
「大丈夫かな」
そう言ったのは、優子さん。
言わんとしている意味は、すぐわかった。夏休みまでクラスの活動にキャパを割かれて、天文部活動に手が回るのか、と言いたいのだろう。
「大丈夫だろ、こっちには青山がいる」
そう言ったのは、宮本君。
まあ、正直に言って、作業書作りも見積も、やり方は熟知しているしなんとかはなる。
……ただ。
「それ、良いの?」
藍の言葉に、僕は唸った。
「作業が進めば、別に良いじゃんか」
「江頭先輩なら、そう思わないと思うけど?」
宮本君はうぐ、と虚を突かれたようだった。
つまり、だ。
事の発端。部員数を集めて、天文同好会を部に昇格させることにしたこと。文化祭で上等なプラネタリウム製作をしようとしていることの、それらの発端。
去年まで代々受け継がれてきたプラネタリウムの破損。
江頭先輩は残念ながら、それの一端を担っているのだ。
だから後悔し、自責の念に駆られた。
自責の念に駆られたからこそ、部員を集めてプラネタリウム製作をしようと行動を起こした。それほどの自責の念に駆られている人が、一日二日ならまだしも、クラスの活動に注力するあまり、部の方が疎かになりました、なんて、果たして許せるのだろうか。
答えは、恐らく否である。
「……ただ、こればっかりは当人次第、としか言えないよね」
「ん」
僕の言葉に、藍の簡素な返事。
問題提起しておいて、藍はその辺、どうやら深くは気にしていないようだった。と言うか、僕の言う通り当人次第、と言う思考なのかもしれない。
だからこそ、深刻に捉えてもしょうがないと……だったら、そもそも部員を不安がらせるようなこと、言う必要ないか。
藍の真意は、どこにあるのだろう。
少しだけ消沈し始めた部室で、鳴り響いたのは宮本君の携帯電話だった。
「メール?」
「おう。夏美……江頭先輩だ」
「なんだって?」
「そろそろ来るって。後……客人も連れてくるそうだ」
「客人?」
首を傾げていると、まもなく江頭先輩は一人の女子を連れて、部室に現れた。
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