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言わないと、わからない。

 僕が皆に提案した作業書の内容についての概要は言った通りだった。現状頭の中でだけしか考えていない作業を、一度でも図示しておけば、部員達とのプラネタリウム製作の手順の共有化。まあ昨今の社会人が好きな言葉で言うなら、見える化、が出来る、と言うことなのだ。


「ねえ、青山君?」


「はい、何でしょう優子さん」


 ちっと藍が舌打ちをした。


「なんだか、遠回りしていない? 大丈夫?」


 なんだかその台詞、既視感を感じる。いつかの横断歩道設置の申請の時、藍にも似たようなことを言われたな、そう言えば。

 

「大丈夫。遠きに行くは必ず近きよりす、だよ」


 そのことわざを知らなかったのか、優子さんは首を傾げていた。


「つまり、物事は順序通り行うことで上手くいくでしょう、と言う事だ」


「順序通りって……最終的なプラネタリウム製作に向けて、だからまずは見積を作ろう、って話だったんでしょ?」


「そう。それは間違いない。だから今も、見積を作る、という工数を変更する、と言うわけではない。

 僕が作業書を作りたいと思ったのは、その見積の精度を上げるため。文化祭執行委員を手のひらの上でコントロールしやすくするため、さ」


 優子さんは、再び首を傾げた。


「つまり、だ。さっき僕、江頭先輩が作ってきた見積の数量に関しての指摘をしたけど、無闇に数を増やす、と言っても、もし文化祭執行委員に、『なんでこれだけの数量パーツが必要なんですか』、と問われた時に的を得た回答が出来ますかって話だよ。

 歩留まりを考慮して、と答えても。

 じゃあその歩留まりを教えてください。

 等々、突っ込みようは多種多様でしょ?」


 まあ、そこまで向こうが考えて指摘してくるかはわからないが。


「だから、導いた数字に対する根拠を示したいんだよ。それが作業書の作成、と言うわけだ」


「……なんで、その……作業書の作成が数字の根拠になるんだ?」


 そう尋ねてきたのは、江頭先輩だった。


「作業書が作れる、と言う事は、作業内容は熟知している、と言う事でしょ?」


 部員達は、ああ、と納得していた。

 まあ正直に言えば、所詮机上論である作業書を作っても、完全に作業内容を理解する、と言うのは困難だ。実際に組み立ててみると、あれだこれだと問題が発生するのはよくあること。


 ただ、それだけの準備をした上で交渉に臨めば、それだけ文化祭執行委員に作業内容を熟知している上で申請しているんだな、と思わせることが出来る。それは直結して、それだけの費用を捻出しても良いと思わせる材料にも成り得るわけだ。


「それに、作業書を作るメリットはそれ以外に色々あります」


「例えば?」


「まあさっきの話に組み込まれてもいた話ですが、まずは作業書を作る最中、この辺の工程が難しそうだ、とか事前に今後押さえておくべきの工程が洗い出せることですね。机上論で考えても、これは中々大変そう。そう言うのが見えておくと、後々組立の時、その工程を注意してやろう、と思えるでしょう?」


「そうかも……あたし本棚を作る時、説明書とか見ながら作らないから、ネジ締めた後に裏の仕切り入れ忘れたことに気付いたり、そういうの結構ある」


 同調してくれたのは、優子さんだった。


「そっか。あの本棚用の説明書も、言っちゃえば作業書だもんね。メーカーが言う説明書通りに作る。だから皆、完成品ではなくてパーツの状態で物を買える。

 その結果、企業は人件費を抑えられるし、購入者だって安価に商品を買える」


「そうですね、江頭先輩。後は再び、今の話に絡む話をすると……もし形状の変更が望めそうな物なら、組立が容易に出来るように構成を変えようか、とも検討出来るわけです。

 作業書を作る云々でもないですが、誰でも作れるような構造にすることは、とても大切なことです」


「そうだよな。特にこのプラネタリウムは、今後後世の天文部も使い続けるわけだから、作業書と、かつ作業性が容易な物に出来たら同じ轍を踏むことはなくなるかもしれない」


 宮本君は、敢えてか同じ轍の内容を明言することはなかったが、まあ当人含めてそれは重々承知しているだろう。


「その通り、だね」


 そして僕は、美味しい話を宮本君に取られ少し苦笑しながら、続けた。




「作業書を残す一番のメリット。それは何より、宮本君の言う通り、また破損事故を起こさないことにある。作業書通りに作れば、短時間で容易に作れる。

 組立に当たって受け継ぐべきコツ、みたいな要因だって、作業書に書いておけば途絶えず言い伝えられていく。


 それこそ一番の、江頭先輩みたいな後悔を生まないための再発防止策だと、僕は思います」




「……言わないと、わからない」




 藍は、呟いた後僕の顔を見た。


「それの、延長ね」


 そして、少し晴れやかな顔でそう言った。


 言わないと、わからない。


 ……確かに。

 統計として、交通事故を起こす人の特徴で一番多いのは、車の運転に慣れだした人らしい。つまり、少し前に口酸っぱいくらいに教官に言われた指示を忘れ、無茶な運転に興じ事故を起こすのだ。

 そういう話を聞いて、思う事がしょっちゅうあった。

 

 そういう連中は、言い続けないとわからないのだろう、と。


 優子さんの本棚作りの件もそうだ。

 自分なら出来る。説明書なんてなくても、作業はこなせる。そう言う慢心が、ミスを生むのだ。


 かつての江頭先輩に慢心があったかは、知りようがない。

 でも、話を聞く限りミスを生む要因。焦りを生む要因は間違いなくあった。


 作業書作成は、作業工数の見直し。そして作業の見える化を同時にこなせる、再発防止策に間違いない。


 僕が藍に言ったように、言わないとわからないことを、後世まで確実に伝えていく術、なのだ。




 ……そして、僕はようやく気付いた。

次回、主人公は何に気付いたのか。まあ本作ラブコメらしいし、キムチでもいい? とかそんな話やろ。

評価、ブクマ、感想宜しくお願いします。

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