精査
期末テストは無事に終わった。
中間テスト同様、勉強を頑張った成果なのか、成績上位に僕は食い込むことが出来ていた。
藍はと言えば、僕との勉強会の成果なのか。さっさと僕の成績を抜いていった。やはり彼女の地頭は悪くなかったらしい。そして、学習能力も。
こんなことなら藍に勉強を教えるのではなかったと思いつつ、テスト用紙を持ち微笑みかけてきた藍を見たら、そんな気持ちも吹き飛んだ。
あの日。
言わないとわからない、と僕が藍に言ったあの日。
あの日を境に、藍は変わった。言葉数少なく、自分の気持ちを表現するのが苦手なのは相変わらずだが、それでも努めて素直に、嬉しそうにしている時間が増えている気がするのだ。
多分、当時の藍なら一緒に勉強をして、良い点を取れても僕に微笑みかけたりはしなかった。しても、多少うずうずしていたくらいだろう。
それなのに……たった数日で、かなり変わったものだ。
それも、ほんの些細なことで。たった一言で変わったのだから、彼女の根は相当、真面目だったのだろう。
ただ正直、僕は最近、そんな変わりつつある藍に上手く接することが出来ないでいた。
僕のほんの些細な一言で藍は変わった。
そのことが、胸にしこりのように残り続けていたのだ。
理由は、未だわからない。だから、気持ちが悪かった。
今日も、結局理由はわからず仕舞いでいた。放課後を告げるチャイムが、校舎に響いた。
「青山」
ショートホームルーム後、僕を呼んだのは藍だった。
「ん?」
「今日から、部活再開」
「うん、そうだね」
「一緒に行こ」
「わかった」
簡素な会話。それでも藍は、以前よりも微かに明るい顔をするようになった気がする。
多分、他のクラスメイトが見たらそんなことある、と疑問を抱くくらいの小さな変化。でも一緒に暮らした僕なら、わかる。それくらいの微かな変化。
でも、それが彼女にとって良い変化であることは間違いない。人は、一人では生きていけない。かつての誤解されやすい彼女の性格より、今の性格の方が生きやすいのは間違いないのだ。
ただ僕は、藍のそれが良い変化であるはずなのに、どうも釈然としない気持ちを抱え続けていた。
それでも表面上は、変わらない態度で接し続けていた。でもいつ、どんな些細なことがきっかけで、ボロを出すか。
少しだけ、怖かった。
藍と一緒に、物理室に向かった。
今日がテスト明け、最初の部活動。
前回は方針が決まったところで、テスト週間に入り色々とうやむやにされてしまった。なんとか、挽回しなければいけないと思っていた。
……だから、この藍に対するうやむやな気持ちにも、一旦蓋をした。公私混同は、絶対にいけない。
「こんにちは、坂本ちゃん。青山くん」
「こんにちは。早いね、優子さん」
藍から冷たい視線を感じた。
「エヘヘ。だってようやくテストが終わっての部活だよ? 楽しみで楽しみで」
「そっか。まあ僕も、それなりに楽しみにしてたよ」
「えぇ、本当?」
何故そこを疑う。
「……江頭先輩達は?」
「そろそろ来ると思う」
「こんにちは」
丁度、噂をしたタイミングで江頭先輩、と珍しい、もう一人の部員である宮本君がやってきた。仲睦まじく二人でやってきた故、僕と優子さんは二人をニヤニヤしながら見ていた。
「なんだい、わざわざ江頭先輩の教室寄ってきたのかい、宮本君」
「悪いか」
「べっつにー」
そんなしょうもない会話もそこそこに、部員も集まったところで僕達は早速、プラネタリウム製作のための資金繰り、のための見積の件の話を始めようとしていた。
「早速だけど、今日は件の見積の話をさせてくれ」
仕切り役は、部長である江頭先輩だった。
「と、言いたいところだけど……」
そして江頭先輩は、早速何やら含みある言い方をしてきた。
「実は、テスト終わって暇な時間に、見積を作ってみたんだ」
「おお、本当ですか?」
「うん。……青山君、見てくれる?」
「あ、はい」
僕は江頭先輩から、見積を受け取った。
えぇと、と目を通し始めると、横から視線を感じた。見てみると、そこにいたのは藍だった。身を乗り出して、僕の肩近くから見積の内容を覗き込んでいた。
「お気になさらず」
「あ、はい」
仕切り直して、僕は見積を見てみた。
見積に書かれた内容は、まずは種類。これはプラネタリウム製作に当たる材料を意味している。骨組み。遮光ビニル袋。骨組みを止めるパーツ。
諸々含めて、価格は二万に届くか届かないか。
「どうかな?」
「……えぇと」
正直、色々指摘したいところがあった。ただオブラートに包まないと、相手は女子だし。
「青山」
悩む僕に声をかけたのは、藍だった。
「何?」
「はっきり言って、良いんじゃない?」
どうやら藍には、筒抜けらしかった。
「別に、怒りたくて言うわけじゃないんだから。建設的な話のために、ストレートな言い方になるのはしょうがないじゃん」
「まあ、確かに……」
この会話の時点で、駄目であることは当人にも伝わると思うが……僕は、江頭先輩を不安げに見た。
「大丈夫。一思いにやってくれ」
「いいんですか?」
「……あたしだって」
江頭先輩は、一瞬逡巡した後、覚悟を決めたように続けた。
「あたしだって、あの時の後悔を忘れるためにも、より良いプラネタリウムを製作したいのさ。その目的を達するため、建設的な話になるなら、言い方なんてどうだって良い」
「……そうですか」
であれば、僕だって躊躇うわけにはいけない。
ここで躊躇うことは、覚悟を持った先輩に対して、失礼、と言うものだ。
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