強烈な母
昼ご飯の支度が出来たことをお知らせに来た母に一連の僕達の仲睦まじい様子を見られ、居た堪れない気持ちの中一階のリビングへ行き、昼ご飯を三人で頂いた。
さっきのように、母に藍との仲睦まじい様子を目撃された回数は、実は大して多くなかった。だから、正直昼ご飯に出されたお浸しもみそ汁も、タンドリーチキンだって味はわからなかった。
「藍ちゃん、お口に合えばいいんだけど」
「はい、とっても美味しいです」
藍は、母にそんなお世辞を言っていた。いや、お世辞かどうかの真偽はわからないが、正直僕は母よりも藍の手料理の味付けの方が好みだったから、そうだと判断した。
母は、既に藍をかなり気に入っていたようだが、そのお世辞に気を良くし、一層彼女を気に入ったらしかった。
実の息子にさえ見せたことのない鼻の下を伸ばした情けない顔。それをどうして藍に向けてするのかは不明だが、一先ず険悪になったりしなくて良かった。
「あたし、実は男の子よりも女の子の方が良かったのよね」
「え」
それ、実の息子の前で言っちゃう?
良いんだけどさ。本当、尊敬の念を一度でも抱いたのに、裏切られた気分だ。
「男の子の服って、面白みがないじゃない。出来れば女の子を授かって、一緒に服を見に行って、そしてこれなんて可愛いじゃないって見てあげて、着させてあげて。
そんな子育てを体験したかったわ」
「それじゃあ着せ替え人形でも買えば良い」
「馬鹿ねえ。実の子だからこそ、可愛く着飾られれば嬉しくなるんじゃない」
「へえ」
母の熱い思いを語られたが、正直そこに関して深い議論をする気にはならなかった。だって、これから股間のブツを取れと言っても、もう遅いのだから。
「ねえ藍ちゃん。今からでもウチの子にならない?」
暴走気味の母は、気に入った藍にそんな提案をしていた。
「……えぇと」
藍は、露骨に困った苦笑していた。こういうのは適当に付き合っているよう見せつつ、話題を遮って黙らせれば良いのだ。こんな感じに曖昧に微笑み否定しないと、母は一層付け上がる。
「まあ、そうよね。……じゃあやっぱり、この子と結婚してくれない?」
ほうら見たことか。
また変なこと言ってる。……と、思ったが事実僕は、一度は藍と結ばれた仲だったのだから、母はそれなりに先見の明があるのかもしれない。
「それは……」
口ごもった藍と目が合った。助けを求めているのか、と思ったが、そうでもないらしい。
しばらく僕を見つめた後、藍は俯いた。顔は少し赤かった。
「母さん、あんまりあ……坂本さんに迷惑かけるなよ。困ってるだろうに」
「何よ、あたしを悪者にする流れ? あたしを悪者に仕立てあげて、その悪者から藍ちゃんを助け出し、そうして藍ちゃんの心を開かせる、そういう流れ?
構わないけどね、キチンと藍ちゃんのハートは鷲掴みにするのよ?」
妄想力逞しいな、この親は。
僕は露骨なため息を吐いた。一口チョコレートを頬張ったからか、それともさっきまでの緊張のせいなのか、いつもよりも少ない量で、腹は満たされた。もうご飯は要らない。
むしろ、一刻も早くこの母の元から立ち去りたかった。
「ご馳走様」
「あら、もう良いの?」
「うん。美味しかったありがとう」
「さりげないお礼が出来るアピールさすがよ、我が息子」
母にグーサインをされた。本当、今日は調子が良いな。
「あ、あたしも……その、ご馳走様」
「あらー、藍ちゃんももう良いの?」
「はい。……あの、美味しかったです」
僕は藍の分の食器も重ねて、シンクへと向かった。
「あ……ありがとう」
「いいよ、これくらい」
「じゃあ、あたしもこれ以上は太っちゃうし、これくらいにしようかな」
よっこいせ、と母は立ち上がっていた。
僕はシンクに、食器を置いた。
「置いとくよ」
洗い物は頼んだ、と母に言ったつもりだった。
「はいはい」
「あ……あたし、洗い物手伝います」
藍は言った。
「良いのよ、少し休んでまた武に勉強、教えてあげてくださいな」
「あの、さっきも言った通り、武君に勉強を教わってるのはあたしで……」
「そうだったわね。でも良いのよ。大丈夫」
その大丈夫、は。
僕が勉強教えているだなんて嘘ついて、僕を立てる必要なんてないぞ、の意なのか。
はたまた、洗い物は大丈夫、の意なのか。
正直、前者な気がしてならない。
考えすぎか?
「あ……坂本さん、部屋で小休憩を挟もう。この人もこう言っているわけだし」
「……うん」
藍は、不承不承と僕の提案に応じた。
「あの、ありがとうございます」
そして、立ち上がって深々と母にお礼をした。
母は藍に微笑みかけて、手をヒラヒラと振って、僕達を見送った。
それから僕達は自室へ戻り、しばらくの休憩を挟み、勉強を再開させるのだった。
助けて!
なかなかポイントが伸びなくて困ってるの!
何卒、たくさんの評価、ブクマ、感想を宜しくお願いします。。。
 




