ツンデレのツンがない人
1日5話も上げてしまったぜ。4連休だからね、しょうがない。
「僕の家で、休みの日勉強しても良いか?」
「……うん」
「勉強しても良いか……」
勉強、しても良いか。
そんなの答えは明白だ。
「良いんじゃない?」
別に、断る話でもない。藍には何度か、僕から誘って僕の家に招き入れたことだってあるのだから。
「ホント?」
不安げだった藍の顔が、途端にパァッと晴れた。こんな満面の笑み、今まで見たことがなかった。まったく一々可愛いな、おい。
少しの不安。かなりの驚きを覚えつつ、なんだか少し様子の変わった藍に、僕は乾いた笑みを浮かべていた。
「でも、どうして?」
しばらく乾いた笑みを見せた後、僕は尋ねた。
正直、こうして藍から、それも高校時代の彼女から、こんな提案をされる日が来るとは思っていなかった。
そりゃあ、かつての高校時代の僕に比べて、色々な経験を経た結果、それなりに信用出来る姿を見せられている気はする。
それにしても、こんな申し出をしてくれるだなんて、どれだけ考えても思ってはいなかったのだ。
「ど、どうしてって……」
藍は、困惑気味に呟いた。
「……言わなきゃ、ダメ?」
「いや別に」
駄目、と言うわけではない。
むしろ、困惑気味に今にも泣きそうな藍を見ていると、駄目なんてことは全然ないよと声をかけてあげたくなる不思議。
ただ内心の疑問はやはり尽きなかった。勘の悪い自分に罪悪感を抱いた。ただ結局さっきの言葉通り、言ってくれないとわからない、と言う事なのだろう。
いや別に、と言っておいて、僕は藍に熱視線を送っていた。
教えて欲しい。
そう、思っていた。
多分、他でもない藍だから、そう思ったのだろう。
「……それじゃあ、いつにしよっか」
なんだか藍をイジメているような錯覚に陥ったのは、すっかり藍が頬を赤く染めたまま、俯き黙ってしばらく経った時だった。
教えて欲しい、と願っただけだが、そこまで思い詰めさせたかったわけではないのだ。
だから僕は、無理をせずに話を進めることにした。
「青山の家、行っていいの?」
「勿論。断る理由もない」
「……あれだよね。他の人、例えば櫻井だとか、宮本だとか、呼ばないよね」
「え、呼ばないよ?」
櫻井さんとは、優子さんの苗字だ。最近知った。
と言うか、なんでそんなことを尋ねるのか。
それではまるで、二人きりで勉強をすることを望んでいるようだ。
……まあ、大人数での勉強は勉強が快適に進むこともあれば、気が散ることになる可能性だって多いにある。休み時間の度に僕を捕まえては勉強に明け暮れるのだから、藍としたら外的要因で勉強が阻害されるのが嫌なのだろう。
わかる。その気持ち、わかるぞぉ。
「そう」
藍は、安心したようにため息を吐いた。
まあ、一度声をかけて、やっぱり来ないで、とは言い辛いし、呼んだ経緯がなかったことを安心した、と言うところだろうか?
うぅむ。合っている自信は、あまりない。
「行くの、今週の土曜日はどう?」
「大丈夫」
「そう」
一先ず、日取りは確定した。ただ中々、藍の胸中や意図は理解出来ない。国語の教科書で、作者の気持ちに答えよ、と指示される設問によく似ている気がした。
あれって実際、作者の気持ちではなくて話を読んで問題を書く出題者の、こういうことを書いて欲しい、と言う気持ちを当てる問題だよな。作者なんて大概、売れろ! とか、納期が近い! だとか、そんなことしか考えてないと思うんだ。
……それにしても。
藍の勉強熱心ぶりには、目を見張るものがある。次回の期末テスト、何とか前回の失敗を払拭して欲しいものだ。
「頑張ろうね」
だから、熱心な彼女を見て、激励の言葉が漏れた。
頑張って欲しい。結果を出して欲しい。熱心な彼女だから、そう思った。
「え……?」
藍にも、僕が何に激励の言葉を送ったのか、すぐにわかると思っていた。これほどまでに勉強に熱心に取り組んで、次のテストに向けての準備をして、苦労している分、報われたいと思っていると、そう思ったからだ。
しかし、藍は僕が何に対して激励の言葉を送ったのか、首を傾げて困惑していた。
……まるで。
まるで、勉強なんて片手間だ、と告げられた気分だった。
あれほど熱心に休み時間の度に予習復習に明け暮れて、テスト週間になれば放課後、更には休みの日さえ勉強をしてくれ、とツンツンした彼女らしくもない願い出をされ……、それほど苦心し、努力を続けていると思ったのに。
それが全て、何かの片手間だったと、そう思わせるような藍の困惑だった。
彼女にとって、勉強は何かのついでだったのだろうか……?
「……アハハ」
僕は、困惑する藍の前で、声をあげて笑った。いつもの彼女なら、睨んで咎めてきそうな行いだし、何なら今も睨まれている始末だったが……笑わずにはいられなかった。
藍の、しおらしい態度。
藍の、いつもと違う戸惑った顔。
藍の勉強会をしたい、と言う願い出の思惑。
テストで良い点を取るためだと思っていた、その願い出の思惑。
もしかしたら全然違う理由で、藍は僕と勉強会をしていたのかもしれない。
この土壇場でそれに気付いた自分が可笑しくて、可笑しくて、思わず笑うことが止められなくなってしまっていた。
……それにしても今日の彼女。いつもと違って、全然ツンツンしていない。
まるで、ツンデレのツンがなくなった人みたいで、やっぱりそれもいつもの彼女を知っている身からして可笑しくて、僕は一層大きな声で笑った。
しばらくして、僕は不機嫌になった藍に頭をひっぱたかれた。
日間ジャンル別15位に落ちておりました。やはり順位安定させるのは難しいが、なんとか再び浮上したい所存です。
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