表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/90

ツンデレのツンがない人

1日5話も上げてしまったぜ。4連休だからね、しょうがない。

「僕の家で、休みの日勉強しても良いか?」


「……うん」


「勉強しても良いか……」


 勉強、しても良いか。

 そんなの答えは明白だ。


「良いんじゃない?」


 別に、断る話でもない。藍には何度か、僕から誘って僕の家に招き入れたことだってあるのだから。


「ホント?」


 不安げだった藍の顔が、途端にパァッと晴れた。こんな満面の笑み、今まで見たことがなかった。まったく一々可愛いな、おい。

 少しの不安。かなりの驚きを覚えつつ、なんだか少し様子の変わった藍に、僕は乾いた笑みを浮かべていた。


「でも、どうして?」


 しばらく乾いた笑みを見せた後、僕は尋ねた。

 正直、こうして藍から、それも高校時代の彼女から、こんな提案をされる日が来るとは思っていなかった。

 そりゃあ、かつての高校時代の僕に比べて、色々な経験を経た結果、それなりに信用出来る姿を見せられている気はする。


 それにしても、こんな申し出をしてくれるだなんて、どれだけ考えても思ってはいなかったのだ。


「ど、どうしてって……」


 藍は、困惑気味に呟いた。


「……言わなきゃ、ダメ?」


「いや別に」


 駄目、と言うわけではない。

 むしろ、困惑気味に今にも泣きそうな藍を見ていると、駄目なんてことは全然ないよと声をかけてあげたくなる不思議。

 ただ内心の疑問はやはり尽きなかった。勘の悪い自分に罪悪感を抱いた。ただ結局さっきの言葉通り、言ってくれないとわからない、と言う事なのだろう。


 いや別に、と言っておいて、僕は藍に熱視線を送っていた。

 教えて欲しい。

 そう、思っていた。


 多分、他でもない藍だから、そう思ったのだろう。


「……それじゃあ、いつにしよっか」


 なんだか藍をイジメているような錯覚に陥ったのは、すっかり藍が頬を赤く染めたまま、俯き黙ってしばらく経った時だった。

 教えて欲しい、と願っただけだが、そこまで思い詰めさせたかったわけではないのだ。


 だから僕は、無理をせずに話を進めることにした。


「青山の家、行っていいの?」


「勿論。断る理由もない」


「……あれだよね。他の人、例えば櫻井だとか、宮本だとか、呼ばないよね」


「え、呼ばないよ?」


 櫻井さんとは、優子さんの苗字だ。最近知った。

 と言うか、なんでそんなことを尋ねるのか。


 それではまるで、二人きりで勉強をすることを望んでいるようだ。


 ……まあ、大人数での勉強は勉強が快適に進むこともあれば、気が散ることになる可能性だって多いにある。休み時間の度に僕を捕まえては勉強に明け暮れるのだから、藍としたら外的要因で勉強が阻害されるのが嫌なのだろう。


 わかる。その気持ち、わかるぞぉ。


「そう」


 藍は、安心したようにため息を吐いた。

 まあ、一度声をかけて、やっぱり来ないで、とは言い辛いし、呼んだ経緯がなかったことを安心した、と言うところだろうか?


 うぅむ。合っている自信は、あまりない。


「行くの、今週の土曜日はどう?」


「大丈夫」


「そう」


 一先ず、日取りは確定した。ただ中々、藍の胸中や意図は理解出来ない。国語の教科書で、作者の気持ちに答えよ、と指示される設問によく似ている気がした。

 あれって実際、作者の気持ちではなくて話を読んで問題を書く出題者の、こういうことを書いて欲しい、と言う気持ちを当てる問題だよな。作者なんて大概、売れろ! とか、納期が近い! だとか、そんなことしか考えてないと思うんだ。

 

 ……それにしても。


 藍の勉強熱心ぶりには、目を見張るものがある。次回の期末テスト、何とか前回の失敗を払拭して欲しいものだ。


「頑張ろうね」


 だから、熱心な彼女を見て、激励の言葉が漏れた。

 頑張って欲しい。結果を出して欲しい。熱心な彼女だから、そう思った。


「え……?」


 藍にも、僕が何に激励の言葉を送ったのか、すぐにわかると思っていた。これほどまでに勉強に熱心に取り組んで、次のテストに向けての準備をして、苦労している分、報われたいと思っていると、そう思ったからだ。


 しかし、藍は僕が何に対して激励の言葉を送ったのか、首を傾げて困惑していた。


 ……まるで。

 まるで、勉強なんて片手間だ、と告げられた気分だった。


 あれほど熱心に休み時間の度に予習復習に明け暮れて、テスト週間になれば放課後、更には休みの日さえ勉強をしてくれ、とツンツンした彼女らしくもない願い出をされ……、それほど苦心し、努力を続けていると思ったのに。


 それが全て、何かの片手間だったと、そう思わせるような藍の困惑だった。


 彼女にとって、勉強は何かのついでだったのだろうか……?


「……アハハ」


 僕は、困惑する藍の前で、声をあげて笑った。いつもの彼女なら、睨んで咎めてきそうな行いだし、何なら今も睨まれている始末だったが……笑わずにはいられなかった。


 藍の、しおらしい態度。

 藍の、いつもと違う戸惑った顔。


 藍の勉強会をしたい、と言う願い出の思惑。

 テストで良い点を取るためだと思っていた、その願い出の思惑。


 もしかしたら全然違う理由で、藍は僕と勉強会をしていたのかもしれない。

 この土壇場でそれに気付いた自分が可笑しくて、可笑しくて、思わず笑うことが止められなくなってしまっていた。


 ……それにしても今日の彼女。いつもと違って、全然ツンツンしていない。


 まるで、ツンデレのツンがなくなった人みたいで、やっぱりそれもいつもの彼女を知っている身からして可笑しくて、僕は一層大きな声で笑った。


 しばらくして、僕は不機嫌になった藍に頭をひっぱたかれた。

日間ジャンル別15位に落ちておりました。やはり順位安定させるのは難しいが、なんとか再び浮上したい所存です。

皆さんのたくさんの評価、ブクマ、感想。いつも大変励みになっております。

今後とも宜しくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 日刊ランキングの話あんまり見たくないのですが
[一言] デレッデレですね これから更に猛攻撃が続くんだろうなと思うとヤバい
[一言] お互い過去と違い過ぎるんだからさっさと確信しろや! と、思ってしまうよね笑
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ