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見積製作

「青山君、さすがにそれはきついと思うぞ」


 僕の提案に横やりを入れてきたのは、江頭先輩だった。


「どうしてです?」


「過去、天文部で満額二万をもらった事例が、恐らくないからだ」


 恐らく、と言う事は、調べたわけではないのだろう。

 これまでの文化祭での活動記録。そんなものを見て、恐らくそんな豪勢な文化祭準備はしていないから、と言う腹積もりだ。


「先輩、何もないところに足跡は残せません。実績がないから出来ない。それは挑戦しない理由にはならないし、出来ない理由にもならない」


「でも……満額もらえている部活は、こぞってメジャーな部活。名前だけで集客を、働いている生徒の顔見知りだけで集約を、それを見込める部活動が、やはり多い費用をもらえるんだ。ウチの部活は、そんなネームバリューはない」


「なんだか政治家みたいですね。お友達内閣万歳。中抜き最高。そんな感じに聞こえます」


 一先ず僕は、自分の部活を見下す江頭先輩に苦笑した。


「でも先輩、文化祭実行委員会の仕事はお友達に金を与えることではない。公正な審査の上、限られた予算をどう分配するか。それを決めるのが彼らです」


「それはそうだが……」


「キチンとした理由があれば、実績がなくても満額もらえる可能性はあるでしょう?」


 江頭先輩は、閉口した。僕の意図は、理解しているのだろう。


「だから先輩、僕達は満額もらえるような理由付けをしていけば良いんです。どうすれば満額もらえるのか、それをこれから話し合いましょう」


「ちょっと待って、青山君」


「何かな、優子さん」


 チッと藍が舌打ちをしたが、小さくて僕以外は気付いていないようだった。なんだか敢えて、僕にだけ聞こえるようにしているように聞こえるのは気のせいか。


「あの、今の話に水を差すようで悪いんだけど。プラネタリウム製作にそんなにお金、必要なの?」


「ん、わからない」


「わ、わからないって……」


 あっけらかんと言うと、優子さんは動揺を隠せないようだった。わからないのに、たくさんの金をもらおうとしているのか、と言いたげだった。

 でも僕としては、内心何もおかしなことを言っているつもりはない。


「まずさ、わからないからこそたくさんのお金をもらうべきだと思うんだよね。これだけで足りると思いました。でも蓋を開けたら足りませんでした、では後の祭りだ」


 慎ましい精神性を持っているのはとても好印象だが、そもそもキチンと手順を踏んで、認めてもらった上で大金もらうのなら、何も問題ないではないか、と言うのが僕の言い分だった。


「それに、向こうだって承認したから僕達に満額渡しても良いと判断したわけでしょ? 勿論、あまりに申請の時から乖離した内容をして金を着服したら問題だけど、それ以外なら問題ないじゃないか」


「……まあ」


 まあ、と言いつつ、優子さんはまだあまり納得はしていないようだった。文句の句を探しながら俯いて、ふと彼女は気付いた。


「ね、ねえ、坂本ちゃん?」


「何」


「坂本ちゃんは、良いの? 青山君の案、大丈夫だと思う?」


 納得はしていないが、文句の言葉は出てこない。だから他者の意見を聞こう。セオリーな進め方、だ。


「大丈夫でしょ」


 しかし藍は、優子さんの意にそぐわない回答をした。


「だって、た……青山が言ってるんだし」


「おおっ」


 思わず、感嘆の声が漏れた。まさか藍から、そんな言葉が聞けようとは。


「何」


 藍に睨まれた。


「まさか君からそんな言葉が聞けようとは」


 声に出た。


「……別に」


 別に、なんだろう。

 まあ、良いか。とりあえず、江頭先輩も納得気味、藍は賛同。不在者一人で、無効票が一票あるが、多数決的には可決だ。


「……むむぅ」


 優子さんは、少し唸った。


「で、でもさ。どうやって費用満額もらえるように話すのよ」


 優子さんはようやく、内心で募っていた疑問点が解消したように、そう尋ねてきた。


「良い質問だね」


 得意げに、僕は微笑んだ。大体、こう言われるだろうことは想定済みだった。そもそもそれ、いの一番に思うことだ。

 これまで費用を満額回収した実績はないけど、今回は満額回収したいです、と文化祭実行委員会に相談して、それが可決されるか。

 勿論、否である。


 マイナー部活である僕達が、文化祭の費用を満額回収するにはどうしたら良いか。


「そもそも優子さん」


 チッと藍が舌打ちした。なんだか、圧を感じた。


「君はどうして、今回僕達が費用を満額回収出来ないと思ったんだい?」


「……そ、そりゃあ、マイナー部活だし、プラネタリウム製作にいくらかかるかもわかってないんだよ?」


「それだよ」


 ビシッと指を立てた。

 つまり、だ。


 いつか矢沢先生に、小姑の如く喧しく些細な指摘、もとい嫌がらせをしたことがあったが、今回の件はその時言った言葉に、近いものがある。


「数字で語らないと、向こうは納得しないんだよ」


 数字で語る。

 つまりは、今回のプラネタリウム製作には、果たしていくらかかるのか。

 それを計算すれば良いのだ。


「マイナー部活かどうか、それはさっきも語った通り、公正な判断を下す上では関係のないこと。僕達が費用を満額回収する上で一番力をかけなければならないのは、プラネタリウム製作にいくらかかるのか。

 それを、明確にすることだ。


 これがいくらで何個必要。こっちはいくらで何個必要。

 それを見定めた上で、満額近い費用が必要だとわかったら、向こうだって承認を出しやすくなるし、こっちにたくさんの資金を渡そうと思い直る。


 つまり、だ。

 これから真っ先に僕達がすること。


 それは、プラネタリウム製作にいくらかかるかの、見積を製作することだ」

主人公がモテ期を迎えてからというもの、ヒロインの態度が露骨。

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[一言] 奥さんキレまくってるよーw
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