表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/90

満額

 藍と昼ご飯を共にし、勉強会をして、そうして迎えた放課後。

 天文部、改め天文同好会、改め天文部に、僕は藍と共に向かっていた。優子さんと宮本君には、今回藍が入部する旨はまだ伝えていなかった。

 勿体ぶった、と言えば聞こえは良いが、正直に言えばただ言う機会がなかっただけだ。休み時間、昼休みと藍と共に勉強会をするようになった都合上、他人と休み時間に口を聞く回数がめっきり減った気がするのは、気のせいだろうか。


 廊下を歩き、物理室に辿り着いたのはものの数分。


 物理室には、既に優子さんと江頭先輩がいた。

 教室に藍を引き連れるや否や、雑談していた二人は硬直した。


「こんにちは」


「おう、……こんにちは」


「青山君、どうして坂本ちゃんと一緒?」


 優子さんに聞かれ、僕は得意げに笑った。正直一切手伝える気のなかった部員集め。まさかそれを成し遂げる日が来るとは。

 あながち、優子さんと江頭先輩の判断は正しかったのかもしれない。


「坂本さん、入部してくれることになったんだ」


「おおっ」


「凄い。まさか初日で釣れるだなんて!」


「……釣れる?」


 魚扱いされたことに疑問を抱いたのか、藍は冷たい声でそう言って、首を傾げた。

 優子さんは、慌ててその余計なことを言う口を塞いでいた。僕は、ただ苦笑することしか出来なかった。


「まあとにかく、良かった。これで晴れて部として認可される」


 江頭先輩は、肩の荷が下りたように安堵のため息を吐いた。


「よろしくな。坂本さん」


「……よろしく」


 ぶっきらぼうな藍に、僕は再び苦笑した。

 それから僕達は、各々好きな空いている席に腰を下ろした。幸い、それなりに広い物理室にたった四人。座席は自由気ままに座れる程、空いている状態だった。


 ……そう言えば。


「宮本君は? 昨日から見ていないのですが」


「今日はテニス部の日だ」


 少し寂しそうに、江頭先輩は言った。


「へえ、彼部活掛け持ちしてるんですね」


「元々、あたしが無理を言って入部させたようなものだから……」


「なるほど」


 中々憎まれ口を叩く男だった印象だったが、少しだけ宮本君への印象が変わった。彼、あれだな。ツンデレ。あまのじゃくと言うか、何と言うか。


 そう言えば彼、僕と藍をツンデレだ、と評したことがあったな。


 どの口が言えたことか。

 後ほど、文句を言っておこう。


「先輩、良かったですね。一先ずこれで、プラネタリウム製作の資金はなんとかなりそう」


「……どういうこと?」


 一通り安心したような優子さんに、藍が首を傾げた。

 嘘だろ。

 昼休み、一通り説明したんだけど。もしかして聞いてなかった? 他のことに気でも取られていたのだろうか。


 ……例えば、そう。

 僕の母親の卵焼きの味だとか、そう言うの。


 いやなんでそんなこと気にするねーん。

 じゃあ一体、何を気にして僕の話、聞いていなかったのだろうか。


 不思議そうな藍に、優子さんと江頭先輩が事情を説明してくれた。今度こそ、藍は部の現状を理解したらしい。


「ふうん」


 その感想が、これ。

 優子さんと江頭先輩は、それだけ、と言いたげな顔をしていたが……僕にはわかる。


 それは大変ね。何かお手伝い出来ないかしら。


 恐らく藍は、そんなことを思って、ふうん、と言った。間違いない。でも最近、どうにも僕の藍フィルターが正しいのか不安だし、恐らく違う。


 違うんかい。


 ……と、与太話もここまでにしよう。

 流れも本題に向かっているし、ね。


「江頭先輩、優子さん、聞きたいことがあります」


 僕は言った。

 途端、藍が僕を睨みつけた。怖い。なんで?

 

「……優子、さん?」


「うん。優子さん」


 こちらの方が、そのお方です。

 手を差し出すと、差し出された先の優子さんは怯えていた。


「どうしたのさ、あ……坂本さん」


「……別に」


 何だ。別に大した話ではなかったのか。では本題に。


「あの、文化祭の時の各部への費用って、どういう風に決められるんです?」


 一触即発の空気で話を変えたことに、江頭先輩と優子さんは戸惑っているようだった。二人は一度顔を見合わせた後、江頭先輩がわざとらしく咳込んだ。


「基本的には、文化祭実行委員会が申請書に書かれた各催し物を精査して、提供額を決める、とそういう具合だ」


「へえ、いくらからいくらまで?」


「細かくは決まっていないそうだが……同好会の場合は、それこそゼロから五千円まで。部の場合は、五千円から二万円の間で決める、と友人に聞いたことがある」


「なるほど。それは確かに、同好会から部へ昇格させたい気持ちもわかります」


 プラネタリウムだなんて、それなりに費用はかかるものだ。そんなものを無償で作れ、だなんて、荒唐無稽にも程がある。

 部の場合の最低保証金額の五千円。


 それだけあれば、果たしてどれくらいのプラネタリウムが作れるのだろうか。


 わからん。


 ……わからん、が、わからんからこそ、僕には一つ押し通したい案があった。


「その費用精査の件、天文部は満額の二万円もらえるように事前準備をしましょう」


「え」


 僕の言葉に、三人が三人共、驚いた顔をした。

日間ジャンル別ランキング、8位まで上がってました!

本当にいつもありがとうございます!!!

これからもたくさんの評価、ブクマ、感想お待ちしております!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ