由緒正しい天文部改め天文同好会の華々しい沿革
「まあ、とりあえず、あなた方が僕を天文部員に招き入れたい、と言うお気持ちは承知しました。ありがとうございます」
彼女達が数ある我が校の生徒から選んでくれたことを、僕はまずお礼した。
「ただ正直、天文部に入るかはまだ決めかねています。一先ず、どうして僕を誘ったか、それを教えて頂けませんか?」
内容によっては、もっと建設的なことを提案出来るかもしれない。どうせ放課後は暇だし、と思い、僕は二人に尋ねた。
二人は一度顔を見合わせた後、江頭先輩が舵を取る方向で無言で決めたらしく、まもなく江頭先輩は語りだした。
「まず青山君。さっきはあたしも敢えて突っ込まなかったけど、一つ訂正しなければならないことがあります」
「何でしょう」
「正確には、今この学校に天文部はありません」
「えっ」
いきなり虚を突かれ、僕は声をあげた。
そんな、まさか……天文部はないのに、天文部に誘われたってことか? 最早意味がわからない。
「正確には、あたし達の活動は天文同好会。部として認められてなくて、まだ同好会、という扱いなの」
「……ああ、なるほど」
であれば、大体話は理解した。
「元々……かれこれ二十年前くらい、この天文部、改め天文同好会は誕生しました。バブルの時代、大人達がディスコで夜踊り狂う様を傍で見ていた子供達もまた、とにかく夜遊びをと考えた末に天文部を設立したの。似たような連中が集った天文部は当初、パリピなヒップホッパーな部活だったわ」
まさかそんな、天文部、改め天文同好会の沿革から語ってくれるとは。
それにしても、パリピななんとかって絶対偏見交じってるだろ。
「ただ……バブルの崩壊と共に徐々に天文部も部員数が減っていってね。同好会に格下げされたのが一昨年」
「バブルの余波を受けたみたいな言い方ですけど、多分バブル一切関係ないですからね?」
「そうして天文部は、細々と寂れた物理室で部活動を続ける羽目になったわ。当時の栄冠は時代と共にさび付き、残ったのはパリピなヒップホッパーが作ったお手製のプラネタリウムだけだったの」
江頭先輩は絶対にパリピなヒップホッパーを馬鹿にしているが、その時代の逸品をありがたがって使っているあたり、一番成果を上げたのはその連中なんだよな。なんて虚しい話だろうか。
……と、言うか。
「お手製のプラネタリウムですか」
「そうよ」
そう言えば、微かに記憶があった。
文化祭のしおりの部活動紹介の欄に、天文部の出し物が書かれていた記憶がある。
……が、プラネタリウムなんてそんなことは書かれていなかったような。もし書かれていたら、多分僕は見に行っていた。
その記憶がないのなら、僕が在学中、多分文化祭でそれを出すことはなかったのだろう。
……何故?
そんな物珍しさから集客が見込めそうな物、どうして使わなかったのだろう。
「御察しの通りよ。去年の文化祭でね、壊れたの。プラネタリウム」
「……えぇ」
「段ボールで出来たドームだったんだけど、当時の部員が二人だったことで当日の準備がギリギリでね。慌てて、その……グシャリと」
「……グシャリと」
江頭先輩は頷いた。しばらく彼女は、俯いたまま何も言わなくなった。優子さん、僕はまだ一年。あと一人部員はいるそうだが……まあ当時の部員に、江頭先輩は含まれているのは確定だろう。一種のトラウマだろうな、それ。
「去年は結局、プラネタリウムは出来なかった。でも今年、何とか復活させたいと思ってね」
「なるほど」
なるほど。是非頑張って欲しい。
……お気持ち表明頂き、ますます疑問になった。
「……で、僕はどうして勧誘されたのですか?」
「言ったでしょ。天文同好会だって」
「はい」
「同好会の文化祭でもらえる費用、スズメの涙なの」
「ははあ……」
なるほど。つまり、数年ぶりに部員数を増やし、部として認可させ、文化祭費用を多めにもらい、プラネタリウムを再建しよう、と目論んでいるわけか。
「でも、どうして僕なんです?」
ただ僕は、結局その答えを見いだせなかった。人集めなら尚更、僕じゃなくても良さそうなものだ。と言うか、誰でも良さそうなものだ。
いっそ、江頭先輩が毛嫌いしてそうなパリピなヒップホッパーでも良いじゃないか。
「宮本の紹介だよ」
「ああ、宮本君の」
僕の数少ない友人の一人だ。
「どうして、宮本君が?」
「彼がもう一人のここの部員なの」
「へえ」
「それで、江頭先輩の彼氏なの」
「なるほどね」
「……い、今はそれは良いだろう」
憎らしそうに、江頭先輩は優子さんを睨んだ。
「宮本言ってたよ。青山は今、最も勢いのある一年生だって」
「なんだよ、その若手芸人に付ける煽り文みたいなノリは」
「でも、実際君。今巷で結構話題じゃない。一人くらい、芋づる式に引っかからないかなって」
浅はかな考え方。
僕は目を細めた。
……まあ。
「あと一人、と言う事は、五人で部として認可されるわけですか?」
「そうだな」
あと一人、か。あと一人。あとたった一人。
まあ、その……あれだ。
夜空に輝く星々。正直嫌いではない。それを学び、語り、伝えるプラネタリウム。とても良き文化だと正直思う。
……それが在学中に見れない。
そんな物があったことを知らない。
そんな学生生活は、ちと寂しい。
「わかりました。是非、天文部、改め天文同好会に入らせてください」
途端、二人の顔がぱあっと晴れた。
「良いの?」
「はい。プラネタリウム、僕も作りたいので。ただそれだけですよ?」
「アハハ。青山君おっちょこちょいツンデレー」
変な造語作るな。
……まあ、正直、だ。
部員集めの方は協力出来る気がしない。生憎、勧誘だとかそう言う類、僕は大の苦手だ。
ただ費用の捻出だとか、そう言う方面なら手を貸せないことは多分ない。
「よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしく」
「よろしくー」
天文同好会二名との挨拶も終えて、僕は今後の展望を早速考え始めた。
日間ジャンル別ランキング9位で踏みとどまっています。皆様のおかげです。ありがとうございます。
再浮上したいとも浅はかにも考えているので、たくさんの評価、ブクマ、感想宜しくお願いします!